ペナルティ?ナイスですね
お久しぶりです。
プロット直せなくてモチベーションが落ちていました。ある程度は同じ内容でプロットを纏め直せましたので、モチベーションを戻しながらにはなりますが更新を再開します。
一ヶ月弱も開けてしまい申し訳ありませんでした。
『すごいわ! この子天才よ!』
この言葉が私が覚えている一番古い母との記憶。
一歳になって間もない頃だ。
私は一歳で、既に文字を書けるようになっていた。
文字を書けると母が喜ぶ。
ならばもっとすごいことをやればもっと喜んでくれるに違いない。そこで私が目を付けたのは、英語だ。
私は一度見たものは完全に記憶することができるため、覚えることには全く苦労しなかった。
それから私は、とにかくテレビを見ることにした。
文字を書いた日から三日後。
成果を見せるべく、母の前に行って再び文字を書く。
書くものは『Hello』だ。テレビを見ていてそれが一番最初に言うべき言葉だと理解したから。
まだペンもまともに持てない身体で書いた、精一杯の文字。
母は驚いていた。
それが喜びよりも上の表現だと思った私は、テレビを見ている間に覚えたもう一つの成果を出してみる。
母がいない間に少しだけ練習もして成功したものだ。
絶対に喜んでくれる。
そう確信して、練習の成果を見せる。
『あろー、まま』
――それから、私は病院へと連れていかれた。
私は母に抱きかかえられたのだが、妙に切羽詰まったような表情をしている。そして何よりも意外に思ったのが、私が生まれるほんの数週間前に若くして大手企業の社長になり、今でも忙しい身であるはずの父が一緒に来ていることだ。
そんな私の考え――幼児らしくもない考えだが――など知らず、看護師に名前を呼ばれて診察室へと向かい、母は開口一番
『この子、病気かもしれません!』
と言った。
私は首を傾げる。
病気。
その意味は知っている。
だからこそ何故病気と言われるのか理解ができなかった。
『どういった症状があるのですか?』
『この娘はまだ一歳になったばかりなのですが、文字を書いたり喋ったりするんです!』
その場の全ての視線が集まるのを感じる。
医師が胸ポケットからボールペンを取り出した。
『……このペンで何か書けるかい?』
文字を書くように促されたため頷いてペンを取る。
家にあるものよりも重く、両手でやっと文字が書ける程度ではあったが、なんとか『Hello doctor』と書くことができた。
それを見た医師は静かに続ける。
『これは読めるかい?』
今書いた文字を指したから問う医師の言葉に私は頷いた。
『あろー、とうたー』
まだ喉ができておらず濁音が付く発音がはっきりしないが、一応伝わる程度には言えた。だけどそこでまた首を傾げることになった。
医師は表情を動かさずに私を見つめているが、後ろの方で看護師が信じられないものをみるような目で見ているのが分かった。
まるで、初めて喋ってみせたときに見た母のような顔だ。医師は相変わらず淡々と続ける。
『その意味を日本語で言えるかい?』
『おんにちあ、おいしゃしゃん』
テレビで見た意味をそのまま読んだ。
夕方に見た適当なテレビ番組で覚えたものだ。
初めて口に出してみたが、かなり言いにくかった。
医師は顎に手を当てて何かに悩んでいる。
『……私からは何とも言えませんが、言葉の意味をしっかりと理解しているところを見ると、脳がかなり発達しているみたいですね。念のため県内にある大学病院の紹介状をお渡ししますので、そちらでもう一度診察を受けてみてください』
医師はささっと何かを書いて母に渡した。
その後、私の方へ向いて微笑を浮かべる。
とても優しい笑顔だ。
『頑張るんだよ』
『分かった!』
それに加えて、優しい言葉。
私は元気に答えた。
――そして私は、すぐにその言葉の意味を知ることとなる。
両親に大学病院に連れていかれた後、すぐに入院することとなった。もしものための入院と言っていた。
私の病室はとても豪華な個室だ。
何の病気か分からないうちは隔離しておきたい、とのことだ。
そしてその翌日。
部屋に備え付けられていたテレビを見ていると、看護師がパズルを三組ほど持って部屋にきた。その時パズルを知らなかった私は首を捻って看護師を見つめていると、看護師はパズルのやり方を教えてくれた。
そして『少しやってみよっか』と言ってきた。
私は一つ手に取り、裏返してピースを取り出した。
そして、はめ直す。
場所は覚えているため、看護師の言っていた『角から当てはめる』というやり方は意味がないと思った私は目に入ったピースから次々とはめていった。
最初は『そうじゃないよー』と笑いながら見つめていた看護師だったが、パズルが完成していくにつれて目を見開いていく。
それから一分も立たずに私は一組のパズルを完成させた。
『……ちょっとこれをやってみよっか』
次に看護師が渡したのは、かなりピースが細かいパズル。
恐らく百はあるだろう。
それを私の前に置いてきたため、ひっくり返してバラバラにする。ピースが裏表逆さまになったり重なったりする中、それを関係なしに私の視界に入ったピースから次々とはめていった。
そこにはやはり、やり方など存在しない。
全てのピースが何処あるのか、何処にハマるのかを知っている私にとって、それはただ物を置くだけの作業に過ぎなかった。
百ものピースは、約二分で元あった場所にハマっていた。
それから、遊びと評して様々な事をやらされた。
一歳である私に何故か記憶能力のテストも行われたし、計算式を覚えさせられて計算までもやらされた。
母も最初は毎日会いに来ていたのだが、何故かある日を境に来なくなった。
それから約一年ほど入院生活を送った時、私はいくつかの違和感に気がついた。
まず一つ。
日が経つに連れて持ってこられる物がだんだんと機械化されていき、さらに精密化されていっているのだ。
さらに、やっている途中に『どう? 面白い?』とか『何か変なところない?』と聞いてくるようになった。
一応答える範囲で答えていたが、どうも怪しかった。
そして二つ。
その物を持ってくる人が看護師からただの白衣の女性になっていったのだ。
しかも、明らかに病院と関係がなさそうな女性。
最初はあまり気にしてはいなかったが、あまりにも白衣の女性が多く来たため違和感を覚えた。
さらに三つ。
病院内で身体検査の回数がとてつもなく増えた。
特に頭だ。
今では毎日やっている。
それが始まったのは例のパズルをやった日の翌日だ。
明らかに意図がある。
これら三つの違和感から、私は一ヶ月ほど前から一つの仮説を立てていた。
そして今日、二歳の誕生日を迎えた私はその仮説を確証させるために、遊びと評してIQテストをやらせてきている白衣の女性に私は切り出した。
『今日は私の誕生日なの』
『そうなの? おめでとう。何歳になったの?』
『二歳だよ』
一歳から喋っていたこともあり、既にしっかりと言葉を話せるようになっていた。
それは向こうも知っているため、あまり気にした様子はない。
『それで、一回ママと喋りたいの』
『そ、それはできないかなぁ……』
『電話でもいいから! ママと喋るまで私はこれやらないよ?』
『うっ――少しだけ待ってね』
向こうが私に何を期待しているのかを私は知っている。
私の言葉に嫌そうな顔をしながら女性はポケットの中にある携帯から何処かに電話をかけた。
本人は隠しているつもりだろうが、『喋るまでやらない』とか『ここで止めさせられたら』などと普通に聞こえてくる。
しばらく待っていると、相手が目の前にいないのに女性がペコペコと頭を下げながら電話を切る。
そして、長いため息を吐いた。
『許可が出ました。ただし、一回だけですよ?』
『ありがとー』
何処から許可を貰ったのかは分からないが、ため息を吐いたところを見ると何か言われたのだろう。
仮説を確証とするための一歩だ。
女性が電話番号を打ち込み、私に渡してきた。何故この人が電話番号を知っているのかとても謎ではあるが、別に問題はない。
数回コールが鳴った後、ガチャりと音が鳴った。
『もしもし』
『あ、ママ?』
『え……? もしかして紗希ちゃん……?』
『うん、そうだよー』
数ヶ月は聞いていたかった母の声。
心が温かい何かに包まれていった。
そんな子供のような感情を持った私とは対照的に、母は何かが切れたかのように質問を投げ掛けてきた。
『紗希ちゃん大丈夫なの!? もう治らない病気だって……一生入院になるかもって……お母さん心配で心配で――!』
『ママ?』
『――いきなりごめんね。何でもないわ』
全く見覚えの無い話だった。
不治の病。一生入院。そんなこと今まで言われたことがない。そして、私自身のことは私が一番よく知っている。だからこそ、その話を私の仮説を確定させる根拠の一つとして付け加えた。
『今度ママに会えたら、大きなバッグに大きな人形やお菓子を持ってきて欲しいな! 人形はママが作った奴がいい! 寝るときは一人だからちょっと寂しいんだー』
『うんうん。そうね。人形やお菓子はどういうのがいい?』
『ママが選ぶならなんでもいいよ! じゃあまた今度ね!』
『あ、ちょっとまっ――』
そこで私は電話を切って女性へと返した。そして、じーっと女性を見詰めた。女性は私の視線から逃げようと泳がせるように逸らす。
『えーっと……いんふぃ――じゃなくて、紗希ちゃんは実は病気なの』
『どういう病気なの?』
『それは……そう! 脳よ! 脳が発達しすぎる病気よ!』
『ふーん。そっか』
今ので全てを理解してしまった。
ここまで理解するのに一年もかけてしまったが、これで全ての辻褄が通る。仮説は当たっていた。私は全てのことに納得するとともに、思ってしまった。
――くだらないな、と。
その日からかも知れない。
私が私自身を隠すようになったのは。
◆◆◆
突如としてビーッビーッと警告音が鳴り響いた。
どこから光が出ているのか、迷路全体が真っ赤に点滅している。瞬間、右手にあった物の感覚が消える。この光景を世論は見覚えがあった。右手に握っていたのは部屋から持ち出した鍵。それがいつの間にか消えてしまったのだ。鍵が消える。赤い光の点滅。警告音。これが表すのは一つしかない。
「くそっ、ペナルティかよ!」
ペナルティ。
即ち、相手がクリアをしたということ。ただ意外と世論は冷静だった。映像で見ていたペナルティは壁が動いていたのだが、今この場でそんな気配は全く無い。鍵が消えるだけのペナルティのようだ。内心ホッとしながら鍵の部屋に戻る。そして、現実を――仮想空間ではあるが――見た。
内装がガラリと変わっており、ケースの数が明らかに増えている。当然その中にある鍵の量も比例して増えている。
「でも助かった。まだ鍵一個も使ってなかったからダメージは無いな。これでゆっくりと試せるし、むしろナイスタイミングだ」
最悪の場合はもう残り数個という時にペナルティが来た場合だ。絶望でしかない。そう考えると確かにタイミング的にはジャストと言ったところだろう。それどころか、ペナルティが来てくれたことによりかえって気が楽になった。気持ちにも余裕が生まれ、端の鍵を一個ケースから取り出して先程の場所へと戻った。
走れば一、二分で着く場所だ。そこからゴールを探しを含めても一時間強。仮想空間ということもあり、走っても疲れは感じない。足の速さは脳や身体が記憶しているのか、それで逆にそれ以上をストップしているのかは分からないが現実と同じだ。
必要の無い目印を回収していき、新たな目印として使いながらゴールを目指していく。
体力に限界がないのなら、走らないなんて勿体無い。特に時間が必要なやり方を選んだ世論なら尚更だ。世論の五十メートル走は六秒前半。最高スピードでの五十メートルなら五秒前半だ。曲がり角で減速するとはいえ、その爽快感は相当なもの。迷路は苦手な世論であったが、世論なりに意外と迷路を楽しんでいた。
世論のように無尽蔵な体力で楽しんだり、迷路そのものを楽しんだりと楽しみ方にもいろいろあり、皆それなりに楽しんではいた。
当然だろう。難易度二十以上は別として、どの難易度も基本的には楽しく遊べるように作られている。勿論これは意図的だ。
この第三競技。
企業は生徒を二つのグループに分けている。
攻略組とその他だ。難易度二十を基準とした人選制度。企業が欲しがっているのはクリエイターではなくプレイヤーだ。製作に携わっていない、完全な初見でどんな難易度もクリアできて、尚且つアドバイスをくれるプレイヤー。客側の意見に加え、更に新しい視点から意見をしてくれる人物。勿論普段からアドバイザーとして意見をくれれば尚良いが、企業もそこまで高望みはしていない。
第一、二競技で新しい視点を見つけることができる人物はある程度絞っている。今回企業が目につけた一年生は約二十人。その内C組とD組に十二人。その中の五人はもう声をかけると決めている生徒がいるが、選考から落ちた生徒も数人いる。
そして一人、新たに選考対象となった人物もいた。
「彼女の名前は何て言うのでしたっけ」
「東雲 藍沙です」
「東雲? 東雲ってまさか――」
「ええ。今第三競技を行っている第八ラボを所有している企業、『SIT』の令嬢で合ってますよ」
「――なるほど。それはとても良いことを聞いたわ」
企業で優先される力は、初見でどんなゲームもクリアできる力だ。難易度二十五に挑んでいる生徒は東雲以外既にマークをしていた。その五人は予定通りに、予想以上のスピードで迷路を攻略している。そして、東雲はその五人に比べては遅いものの、それでも企業側の予想していた進行速度よりも早いペースで来ている。
この学校に在籍している時点で『面白い人物』と保証されている。難易度二十五を攻略できて、更には上場企業である東雲IT会社、通称『SIT』の社長令嬢ときたらどうだろうか。
――もしかしたら、この生徒が一番の有力株かもしれない。
その考えが女性二人の脳裏に過る。
二人は顔を見合わせて頷いた。
坂田もニヤリと口角を上げる。
「ところで――」
「自分のことは貴女方も十分承知の上だと思っていましたが――遠慮させていただきます」
「――知ってたわ。少し残念ではあるけどね」
最初の勧誘は、慈悲も無く即答で断られてしまった。




