第三画 ハーレム!? 新天地!(1)
「あっ、先生ー。今までどこほっつき歩いてたんですかー?」
教室内から女子の声が聞こえてくる。
(ってか先生に向かってほっつき歩くなんてよく言えるな……。)
二人共教室の中から聞こえてくる会話を聞きながら廊下に佇んでいる。
「別にほっつき歩いてなんかいません」
(おぉ!! さすが先生!!)
「うろちょろしてたんです」
(ごめん、前言撤回。)
「今日は転校生を紹介したいと思います」
檜原先生の一言でこれまた前の学校と同じように騒ぎ始める。
やはり普通の学校と何ら変わりはない。
「入ってらっしゃい」
准と隼兎はしぶしぶドアをくぐり、教室に入る。
ここでまたクラス中がざわめく。
「格好良くない?」
「タイプかもー」
ざわざわしている教室に足を踏み入れた瞬間、ここで二人はあることに気がつく。
「はい、じゃあ自己紹介をしますので静かにしてください」
檜原先生が教卓の前に立つように促す。
「じゃあまずは夜川君から」
「えっと……夜川 准です。よろしく」
「はぁい、よろしくー」
(先生!! 流すように言わないで!! 俺なんか悲しい!!)
「じゃあ次は陽野君」
「陽野 隼兎って言います。よろしく」
「みんな、夜川君と陽野君に構ってあげてくださいねー」
(先生、言い方酷いっすよ!!)
横暴ともとれる先生の態度に若干悲しくなりつつも自己紹介は無事に終了した。
あとから聞いた話だが、このクラスの編成は准と隼兎を合わせて二十五人らしい。
机は縦五列、横五列に並んでいる。
「じゃあ二人の席は……」
「先生、ここが空いてますよ」
一人の女子が手を上げ、先生に教える。
空いている席は教卓から見て、左から二列目の一番後ろ。
発言した女子は黒髪で腰の辺りまである髪は流れる水の如く綺麗なものだった。
いや、綺麗なのは髪だけではない。
全てが美しいのだ。
(あ、これあれだわ。一目惚れっていうやつだ。)
准の鼓動が高まる。羽ばたいていくような気持ち。
「ん?」
隼兎が何気なく隣を見ると、准の様子がいつもとは違うことに気がついた。
(ははぁん……。さては……。)
隼兎は一人、心の中で納得すると、バシッと准の背中を叩いた。
「痛っ!!」
(ったく、何なんだ……って、何だその顔は!? 何でニヤニヤしてんだ、お前は!!)
隼兎を見ると、隼兎が親指であの席をクイクイと示している。
「さぁ、どっちが行くの?」
「あっ、准が行きます」
(持つべき物はやはり友だな!! ありがとう、隼トゥー!!)
准は意気揚々としながら席へと歩いて行った。
「あとは陽野君だけね。えっと……」
「先生。ここも空いてるわよ」
また一人の女子が顎に手のひらを乗せながらもう片方の手をヒラヒラとさせている。
同じように教卓から見ると、一番右の列の最後尾に当たる場所。
この女子は、頭のてっぺん付近でミルク色の髪を、赤いリボンのような物で結んでいる。
何やらこちらを睨んでいる風にも見える視線が隼兎に突き刺さる。
「じゃあ陽野君はあそこね」
「了解ー」
隼兎は軽い足取りで自分の席へと向かった。
ガタンとイスを引き、座る。
(ふぅ……一応挨拶でもしとくか。)
隼兎は隣に座っている、先ほど手をヒラヒラしていた女子に話し掛ける。
「なぁなぁ」
「何よ?」
ギロッと睨みつけられた。
「いや別に何もないんだが、まぁ挨拶はした方がいいかなぁって」
「あっそ」
(うっ……関わりにくいな……。)
この女子は机に肘をつき、顎を手のひらの上に乗せて気だるそうにしている。
「あっ、そういえば名前聞いてなかったな。名前教えてくれよ」
「嫌よ」
(即答っすか……。)
「何で?」
「べっつにー……」
(気分の問題ですか。まぁ別にいいけどよ。)
「まぁ隣同士、よろしくな」
「はいはい」
(何だかなぁ……。ペースを持っていかれるんだよなぁ、こういうタイプ。)
ファーストコンタクトの時点でこれでは先が思いやられると内心思う。
しかし、初対面なのだから仕方ないと割り切ることにした隼兎はこの女子にとある質問を投げかけた。
「あっ、そうだ。一つ聞いていいか?」
「何?」
素っ気ない態度をとる女性に、隼兎は先ほど教卓の前に立って、違和感を覚えた事柄について聞いてみた。
「何で……このクラスは男子がいないんだ?」
そう、教卓の前に立った時に覚えた違和感。
それは男子の姿がどこにも見当たらないことだった。
その女子は素っ気なく手のひらに顎を置いたまま、
「何故かは知らないけど男子は少ないのよ。そうね……一学年に十人くらいじゃないの?」
「そんなに少ないのか?」
隼兎が驚き混じりの声でそう聞くと、その女子は静かにコクリと頷いた。
「まぁスカウトする人があれじゃあねぇ……。 何故か男子に対しては結構選択眼が厳しいらしいし」
その視線は教卓の前に立っている檜原先生に注がれていた。
隼兎はハハッ、と苦笑いをすることしか出来なかった。
「あっ、あんたの名前何だっけ?」
(自分の名前は教えないくせに人の名前は聞きたがるのか……。ってか自己紹介をちゃんと聞いとけよッ!!)
そう心の中で色々なことにツッコミを入れながらも、もう一度自己紹介をする。
「はぁ……陽野 隼兎だ。覚えたか?」
「ふぅん……陽野 隼兎ね」
その女子は何か自分だけ納得しながら隼兎の言ったことを繰り返すように呟く。
ここで隼兎がもう一度名前を聞いてみることに。
「で、お前の名前は?」
その女子はいまだに手のひらに顎を置いたまま、顔だけこちらに向け、
「空橋 ミズキ(そらはし みずき)よ」
先ほどまで頑なに言わなかった割りに今度はすんなりと言ってくれた。
「そうか。じゃあ何て呼べばいい?」
「何でもいいわよ」
隼兎は再びそうか、と呟き、数秒程腕を組んで何かを考えていたが、すぐに組んでいる腕を解いた。
「じゃあミズキって呼ばせてもらうから俺の事も下の名前で呼んでくれ」
その女子……いや、ミズキは驚いた顔をする。
「い……いきなり呼び捨て!? ししししかも下の名前で!?」
さっきまでの素っ気のなさは何処へ行ったのやら、今のミズキはかなり焦っている。
「別にいいだろ。減るもんじゃねぇし。あっ、それとも彼氏がいるのか? いるんなら空橋と呼ぶが……」
ミズキは顔を赤らめて、
「彼氏なんかいないもん!!」
ガタンと立ち上がる。
もちろんみんなの視線が唐突に声を荒げて立ち上がったミズキに集中砲火されている。
ミズキもそれに気がつき、より一層顔を赤らめて静かに座った。
「なぁに焦ってんだ?」
「べ……べべべべ別に!? あああ焦ってなんかないわよ!?」
隼兎は首を傾げながらもミズキを見る。
だがミズキは机に顔を伏せており、ミルク色の髪と赤いリボンしか見えない。
(わけがわからん……。)
隼兎はミズキをそっとしておくことに決め、窓の外に広がるジャングルのような森やその上に広がる青い空に目を向けたのであった。
さて、席の列を右へ三列スライドさせると、准の姿を映す。
「俺、夜川 准って言うんだ。よろしく!!」
准は右隣に座っている女子に声を掛けていた。
その女子はクスッと笑うと、
「私の名前は宮野 凛っていうの。よろしくね、夜川君」
(はうあっ!! 天使降臨!! 笑顔が眩しい!! この方は女神に違いない!! 違いないぞー!!)
と、准の中では称賛の言葉が湯水のように次から次へと湧き出ていた。
そのようなことを考えているとは知らない凛は不思議そうに准を見つめる。
「夜川君?」
「はい、何でございましょう、女神様!!」
ミズキ達の次に注目の的になった准。だが准は周りの目など気にしていない。
というよりも自分の世界に入っているようだ。
「ちょ、ちょっと夜川君……女神様だなんて……」
少しもじもじとする凛。
ようやく我に返った准はハッと気がつき、
「あっ、ごめん、俺の中で戦争が始まっちゃってて……」
何ともまぁ意味不明な発言。
だが凛はそんな慌てふためいている准を見てクスッと笑った。