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第二画 誘拐!? 新天地!? 

転校は突然訪れるってあるあるだよね!

 さて、状況が掴めないまま次の日がやってきた。

 普通の者はいつものように緩い坂を登り、いつものように先生に挨拶をする。

 だが普通ではない者は、その緩い坂も何かいつもより急な坂に感じ、いつも通る校門も輝かしく思えた。


「おはよう」

「おはようございます……」

「どうしたの二人共? 元気が無いわよ?」


 ¨あんたのせいだろ!!¨とは口が裂けても言えない。

 准と隼兎は「別に……」と口を揃えて言うと檜原先生は柔らかな笑顔を浮かべ、


「それならいいけど……」


 と二人の様子を見て言った。

 そして、今まで通っていた高校とは呆気なくお別れをさせられ、檜原先生は自分の車に乗るように二人を促した。


「なあ隼トゥー、何処に行くんだ?」

「誰が隼トゥーだ! まあ……ここより良い場所だといいんだが」


 隼兎は皮肉交じりにそう呟くと檜原先生の車がある場所へと歩き出した。

 二人は檜原先生の車の下までたどり着くと、空を見上げながらこれから何が起こるのか考えていた。

 突然の転校が意味するものとはなんなのか。

 そんな答えの出ないことを考えていると、檜原先生が車のキーを持って来た。


「お待たせ」

「先生、授業はいいんですか?」


 准が不思議に思って聞いてみた。

 すると檜原先生は左手の人差し指を立て、


「それなら辞めちゃった!!」

「……えっ?」


(今、なんと……?)


「辞めたって……」


 隼兎が呟く。


「細かいことは気にしないの。さぁ、行くわよ。あなた達の新しい学校へ!!」


(これってさぁ……一般的に¨拉致¨っていうんじゃねぇの?)


 二人の心の中では好奇心が五割、恐怖が三割、あとの二割は何なんだろうな?といった感じである。

 とにかく二人の運命はニコニコ顔で運転しているこの女性に握られているということだ。


 それから数時間が経過した。


「ここを渡れば学校に着くわよ」


「いや……ここって港ですよね?」


 准が車を降りながら聞く。

 耳に入るのは優雅に空を飛んでいるカモメの鳴き声とさざ波。

 そして何より人気がない。

 港のはずなのに何故こうも人気がないのか。

 檜原先生はドアを閉めて、


「そうよ。そしてここから学校に行くの」


 全くもって理解できないというような顔をする准と隼兎。

 それもそのはず、船が一隻も止まっていないのだ。

 この状況でこの海をどう渡るのか皆目見当がつかない、そう二人が思っていると檜原先生はポケットから白いペンを取り出した。

 隼兎は首をかしげ、


「先生、それは?」

「ん? ペン」

「いや、そうじゃなくて何でそんなもん出すんですか?」


 檜原先生はあぁ、と言う声と共に手をポンと叩くと、


「そう言えばまだ言ってなかったわね。いい? 見ててね」


 そう言うと、檜原先生は空中に何か書き始めた。

 二人は不思議そうな顔で見ている。

 すると檜原先生が空中に書いた文字が浮かび上がってくるではないか。


「【船】発動」


 次の瞬間、檜原先生が¨船¨という字に手を翳すと、意志を持ったかのように海に向かっていき、数秒の間漢字が光り輝いていた。

 そしてうねうねと動いたかと思いきや、それは船の形をかたどっていき、そこそこな大きさの客船と化した。

 二人はあんぐりと口を開けて、自分の目の前で起こったことに目を丸くしていた。


「あなた達が今から行く学校は、今のような漢字を使うのよ」


 柔らかく微笑むと檜原先生は船へと歩き出した。

 二人も一瞬遅れて、走って追い付く。

 今の光景を見た時の二人の気持ちは、恐怖という文字はいつの間にかなく、好奇心が九割を占めて、一割が何なんだろうな?という割合だった。


 

それから数十分後。

 二人は甲板にいた。

 青い空に白い雲がモクモクと浮かび、透き通るような海は水平線を綺麗に描いている。

 カモメは先ほどからこの船を見守るかのようについて来る。

 しばらくすると前方に何か建物のような物が孤島にそびえ立っているのが確認できた。


「なぁ隼兎……」

「ん?」

「俺夢でも見てんのかな?」

「どうなんだろうな。まあしかし漢字が現実になるっていうのは正直今でも信じられないがな」


 この二人、先ほどからテンションが上がり気味である。

 と、後ろからカツカツという音が聞こえてきた。


「そろそろ着くわよ」


 そこには檜原先生がポニーテールの髪をなびかせて、立っていた。

 カモメは一声鳴き声を上げると、どこかへ飛んでいってしまった。

 降り注ぐ光に照らされ、夏の暖かい風が頬をすり抜けていく。


「さあ、着いたわよ」


 とうとう岸に着いた。

 そこはまるでジャングルで、足を踏み入れたら陽の光すら遮りそうな茂みとなっていた。

 だが、そのジャングルの中を石畳が敷かれた小さな道がどこかに向かって続いていた。

 おそらく学校へと続く道なのだろう。


「よっと」


 准と隼兎は甲板から飛び降りた。

 高さは二、三メートル程だが、下は砂浜ということもあり、着地さえ失敗しなければ怪我はしない。

 砂浜には貝殻やら藻が流れ着いている。


「解除」


 檜原先生は船に向かってそう言うと、船はフッと消えてしまった。

 そしてこちらを振り返り、


「行きましょうか?」


 と、石畳の道を歩き始めた。

 この石畳の道はずっとジャングルの中を通っている為、あちこちから色々な声が聞こえてくる。

 蝉の声、不気味な感じを醸し出す鳥の声、そして──


「あぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「……」


(何も聞こえないぞ。決して¨ター○ン¨なんか思い浮かべてないからな!!)


 数分石畳の道を歩いていると、巨大な黒い門が行く手を阻んだ。

 檜原先生はカードキーのような物を門に翳すと、門は重く鈍い音をたてて開いた。

 その先には学校と思われる建物が待ち受けていた。


「これがあなた達の新しい学校よ。どう? 素敵な所でしょ?」


 一見、普通の高校と構造は何ら変わりない。

 正面に入口があり、三階建ての校舎がある。

 たぶんその奥側にも違う校舎があって教室やら何やらがあるのだろう。

 檜原先生は門をくぐり抜けて先々と歩いていく。


「あなた達はこれからこの島で暮らすのよ」

「えっ!?」


 驚きの声を上げる二人に檜原先生は前を向いたまま、


「すぐ慣れるから大丈夫よ」


 とあっさりと言いのける。

 玄関を過ぎ、脇に設置してある階段をのぼる。

 そして三階に着くと、一番手前、つまり階段をのぼるとすぐ近くにある教室の前で止まった。


「私はここの教師なの」


(先生。ドッキリなら早めに教えてくださいよ。¨実はドッキリでしたぁ!!¨みたいな。)


 そんな二人の心の声とは裏腹に、檜原先生はドッキリのような素振りや身振りを微塵も見せずに、教室のドアをガラガラと開いた。

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