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第一画 転校!? マジで!?

心力というものを使って漢字をペンで具現化し、切磋琢磨していく学園バトル物!

 夏といえば蝉。

 その鳴き声は夏らしさを強調するが、それ以上に暑さを強調してしまう。


「暑ぃー……」

「暑いっていうともっと暑くなっちまうぞ?」


 一人は片手にカバンを持ち、肩をガックリと落としながら歩く。

 寝癖のせいなのかところどころ髪が少しはねているようだ。

 もう一人は少し茶色がかった目にかかる長さの髪を風になびかせ、肩掛けカバンを背負い、ズボンのポケットに手を突っ込んでいる。

 どこにでもいる普通の高校生、夜川(よるかわ) (じゅん)陽野(ようの) 隼兎(はやと)である。

 二人は今、丘の上にある学校に続く、ゆるく長い登り坂を歩いている途中だ。


「んじゃあ寒ぃー……」

「いや、そういう問題じゃなくてだな……」


 隼兎は隣にいる准をやれやれといった様子で見る。

 道の両端に等距離で植えられた木々が風に吹かれてざわめいた。

 このゆるい坂を登りきったあと、見えてくるのが二人の通っている高校である。

 校門前には何人かの先生が立ち、生徒は自然にそちらに向かって軽く挨拶をする。

 准と隼兎もしかり。


「檜原先生ー、おはでーす」

 

 准は軽く手を上げ、校門の前に立っている赤いスーツを着た女性教師に挨拶をする。


「あら、夜川君、陽野君、おはよう」


 この女性教師の名前は檜原(ひのはら)と言って、准と隼兎の担任教師である。

 檜原先生はポニーテールを揺らし、ニコリと微笑みを浮かべる。

 もうすぐ夏休みということもあり、だらける服装になりがちな生徒達の格好をくまなくチェックするのが、ここに立っている先生の役目。


「うん、二人共乱れてないようね」


 檜原先生が感心しているのを見て大げさに腰に手を当てる准。


「先生、この俺が変な格好なんてするわけ――」

「お前昨日そういえば──もがっ!?」

「この口かッ!! この口がデタラメを言っているのか!?」


 隼兎が余計なことを言おうとしているのを咄嗟に察した准が必死に隼兎に飛びかかる。

 そんな二人の行動に檜原先生は思わず笑ってしまった。


「まあ何があったかは聞かないでおきましょう。それはそうと、今日は重大な伝達があるから早く席についていてね」


 優しい微笑みを浮かべると、檜原先生は再び登校中の生徒の服装をチェックし始めた。

 准と隼兎はその場にずっと立っているわけにもいかず、自分達の教室へと足を運んだ。

 男子や女子が誰か一つの机を囲むようにして話したりしている。


「冷房がついてるっていいよなあ……」

「怠けすぎだろ」


 准はイスに座るなり、冷たい机へと顔を付ける。

 ちなみに准と隼兎の名字はそれぞれ夜川と陽野、つまり出席番号順に並んでいる為、隼兎の後ろの席が准となる。

 隼兎はやれやれ、と小さなため息をつき、窓の外を見た。

 空は青く、入道雲が大きな存在感を持って空に浮かんでいる。


「夏、か……」


 隼兎の口からこぼれるように出た言葉であった。

 少しの間ボーっとしているとお馴染みのチャイムが鳴り響いた。

 同時に、先ほど会った檜原先生が入ってきた。


「はい、みんな席についてちょうだーい」


 ガヤガヤとしながら席に座る生徒達。

 そういえば、と准と隼兎は思った。

 今朝、大事な伝達があると言っていたが、はたして何なのだろうか。


「急な話ですが、実は重要な話があります」


 准は思わず顔をあげ、隼兎も机に肘をついたまま檜原先生を見た。


「実は……」


 檜原先生は溜めるように顔を俯かせる。

 数秒の沈黙。


「夜川君と陽野君が転校します」


 そう言った途端、教室の生徒全員がこちらを向いた。


「えっ……えええええッ!?」


 声をあげたのは転校することになった准だった。

 准が思わず席を立ち上がるも口をパクパクさせるだけで、隼兎は手のひらから顔がズルリと落ちた。

 一瞬聞き間違いかと思ったが、周りの視線がこちらに注がれていることから聞き間違いではなかったと確信した。


「皆さん、夜川君と陽野君に別れの挨拶を……」

「夜川、陽野、元気でな!!」


(ちょっ、待て待て!!)


「私忘れないから!!」


(嬉しいけどやっぱり悲しいよ!!)


「今だから言えるけど夜川のシューズにゴキブリ入れたの俺だったんだッ!!」

「おいコラァ!! 今サラッとカミングアウトした奴出てこい!!」


 准が素早く突っ込むがそもそも別れの挨拶ではない。


「夜川死ね……」

「おい、今ボソッと言ったヤツ誰だ!! どうみても故意です、ありがとうございました」


 何故か別れの挨拶で准だけ酷い扱いをされているということは気にしてはいけない。

 この学校で過ごしたのはたった数か月。

 別れが訪れるのは突然とよく言うが、あまりにも早すぎではないか。

 というより、そもそも何故この学校を去らねばならないのか。


「ねぇ、なんで?」

「あのな、俺に聞いてどうする?」


 二人は職員室に続く廊下を歩いていた。

 今、准の頭の中は何がなんだか分からないくらい混乱していた。


「とにかく、職員室に行ってみりゃ分かるだろ」


 意外と冷静な隼兎。

 そうこう言っているうちに職員室の前まで来た。

 隼兎は何のためらいもなく職員室の扉を開き、檜原先生を呼んだ。


「檜原先生いますか?」

「二人共来たようね、こっちにいらっしゃい」


 檜原先生は手招きをして、ニコリと微笑む。

 あの笑顔の裏には何が隠れているのだろうか。


「先生!! 転校ってどういうことですか!?」


 准は檜原先生の姿を見るなり、詰め寄るように迫った。

 檜原先生はイスに腰を掛けてフフっと笑うと、


「あなた達の才能を見込んだの」

「……はっ?」


 二人は揃うように一瞬だけキョトンとした。

 隼兎は頭をポリポリと掻きながら、


「あの……才能って?」

「それは転校してのお・た・の・し・み」


 人差し指を口に添え、パチリとウインクをする。

 意味が全く分からない状況はどうしたらいいのか、二人には理解することが出来ない。


「明日、また学校に来なさい。そして私の所へ来てちょうだい」


 整理のつかない頭では抗議することも出来ず、結局二人は転校することになった。

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