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題名の無い少女の笑顔

作者: 赤城 ゆう

 もし、彼女を救う方法があるなら、自分が死んでも構わない。

 冗談じゃないよ?

 それは君が一番わかっているだろう。


 毎日が蒸し暑い、本当に嫌になるんだ。君も住んでみたらわかるよ。ここの夏は気持ちよくない。

 だから、僕とその仲間のやることはできるだけ気持ちいことを探すことなんだ。それは例えば、女の子を捕まえることだったり、珍しい酒を飲んだり、それで酔って近所の人と喧嘩したり。とにかく、これが気持ちよかった。これらは、自分の好きな本の真似事でね、これがなんていうか、主人公になった気分なんだ。まったく、今考えれば馬鹿だなぁ、なんて思うよ。

 

 そんなことを、ずっと考えている或る夜だった。いつもの夏の夜だった。でも、そんな静かな夜に彼女が来た。ドアがすごく鳴って、すごく焦っているようだったんだ。それで開けてみたらびっくりだよ、女の子が立ってたんだ。こういうときに限ってなのかな?僕はすごく「いい子」になっちゃったんだよ。わかるかな、何でもできそうなときに限ってそんなことは考えられなくなって、彼女に親切にしたんだ。例えば、彼女は少し汚れていたから、シャワーを貸して、ついでに今年の初めにいなくなった姉の服を貸してやって、ミルクなんかを鍋で温めて出して。自分にまだこんな親切心があったなんて驚いたよ。それから、彼女に毛布を貸して温めたミルクを差し出すと、彼女は首を縦に振って何も言わず受け取ったんだ。そのしぐさに、ちょっと、僕には無い”大人ぽっさ”が彼女に見えたんだ。彼女は無口なんだろうなぁ、なんて思ったから、自分から話すことはなかった。だけど、彼女はよく見ると、すごく”きれい”だったんだ。”きれい”なんて本当は嫌なんだ。だって”可愛い”女の子はモノにできる自信があるけど、”きれい”な女の子なんてムツカシいじゃないか。そう、彼女はほんとうに”きれい”なんだ。例えるなら、いま僕の近くにある、姉が読んでた雑誌に出てくるモデルみたい子だった。そんなことを考えていると、彼女が口を開いた。

「家族の人はいないんですか?」

 すごく静かに喋るんだなぁ、なんて思って自分は答えた。ついで、彼女のことも聞いた。

「ここは、姉と僕で使っててね。もともとは姉が大学に行くための一人暮らしで使ってたんだけど。僕もこの街に来るときに姉に頼んで住まわせて貰ってたんだけど。一週間前に父さんと喧嘩して行方知れずになっちまった。まあ、家賃は僕が学校を卒業するまで親が払ってくれるけど、家事は全部まかせてたしなぁ、姉に。ところで、君はどうしてここに来たの?」

 彼女は僕の問いに黙っていた。自分はどうだろう?なんと何もこれ以上は聞かなかったんだ。だって、なんか聞くのがとてもかっこ悪いことに思えたからさ。つくづくあの時の自分ってバカだったんだよ。


 それから如何したかというと、彼女は僕の部屋のことを見てくれるようになった。彼女の思い出の多くはその美味しいご飯だった。夏のあいだ自分は学校の課題のためにリビングの隣の部屋で絵を描いていた。絵描きなんだよ、自分は。それをしている間、彼女は自分の作業を見るなんてことはなかった。けれども、出来上がった作品を褒めてくれた。これが嬉しかったんだ。その時には”きれい”な女の子の笑顔ってすごく良いことに気づいたんだ。

 だからかな、自由作品のモデルに彼女を使おうなんて思ったのは。お願いすると、彼女は顔を赤らめた。どうやら、裸体を書かれると思ってたらしい。その時の顔はちょっと”可愛かった”かな。ともかく、僕は顔、特に笑顔が書きたいんだ、と言ったら心よく引き受けてくれた。

 そうして、一週間、彼女と顔を十時間以上も見つめ合ったんだ。

 その時にはもう、惚れてしまってた。隠せないほどに。


 自分がバカだなんて今更言われなくてもわかってる。

 まあ、話を戻すとさ学校が始まって僕は彼女を家において出かけて行っていた。その出かけてる内に彼女はいろんな必要なことをしてくれていた。これはもう、同棲というより、夫婦だよね。でも彼女から来てからいろんなことが上手くいってたし、別に不思議にならなくなった、当然になったんだ。

 学校には仲間がいる。しかも二人。僕は三人という単位が好きなんだ。いろんな物事がよく進むからね。名前はKとY。面白いやつらだよ。Kは絵にまったく興味がなかったのに高校の三年にアニメに魅せられて、学校を受験したんだ。Yはこんな学校にはもったいないやつで、いつも他校が引き抜きをかく乱出るんだ。でも結局彼は、ここがいいらしい。理由は、まったく見つからないけど。

 ある昼休みKが不思議なトーンで話してきた。

「おい、そういえばお前の自由作品、展示されてたな。」

「ああ、そういえば。」

 展示されているのはもちろん彼女の笑顔なわけだが。

「あんな女性、どこで見つけたんだよ?!」

 いきなりKは語気を荒げるもんだから、自分は驚いてポカーンとしてしまった。それから、少し整えて。

「ああ、偶然な。お願いしたらOK貰った。」

「れ...連絡先は?...」

「まあ、もちろん知ってるけど...」

 するとKは持ってた箸を落として、何か自信を無くしていた。これくらいなら自分でもわかる。落ち込むことはない、友よ...

 そこへYがやってきた。するとKは立ち上がり。

「おい、Y!こいつに彼女ができてるぞ!!なんてことだっ!!!」

 するとYは驚く様子もなく。

「ああ、知ってるよ。しかも一緒に住んでるだろう?」

「なんで、わかるんだよ。」

「あんなに細かい表情は声をかけてお願いしただけじゃあ書けない。毎日みてて、改めて見た顔を書いてる感じだよ。あれは。」

 さすが天才だ。よく気が付く。そしてKは茫然としていた。そして、今度は疑問を持ったようにYが聞いてきた。

「でも一緒に住む仲なら、俺たちに言えばよかったのに。どうして?」

 勘のいいやつだ。そして、僕は馬鹿だ。こういう時に良い言い訳が思いつかない。

「いや、おかしいけど、或る日ドアを開けるといてさ、いつの間にか一緒になったんだよね。」

「本当におかしいねそれ、もしかして名前も知らないの?」

「いや、さすがに知ってるよ。」

「だよね。」

 そうしているうちに昼休みが過ぎた。


 学校から帰ると彼女は自分の作業部屋の椅子に座っていた。僕が帰ってきたのに気づいて彼女はあわてて椅子から離れた。自分は「いいよ」と言って彼女を責めなかった。でも、彼女はそれからキッチンに行ってコーヒーを淹れた。彼女のコーヒーって美味しんだ。

 それから彼女は一つ雑誌を見ていた。

 僕はその時に気づいた。彼女は泣いていた。

 訳の分からない状況に自分は戸惑った。

 ただ、彼女は自分が見ているのに気づいて、小さくこう言った。

「まだ、ここに居ていい。」

 その囁きはおおよそ小動物の鳴き声のようで、守らなければならないという僕の感情を強く、強く隆起させた。だから僕は力強く

「いいよ。」

 と、言った。


 でも、この日から彼女の世話はエスカ―レートしていったんだ。いままで作らなかったお弁当だったり、足りない絵具を買ってきてくれたりと、今までよりもすごく世話を焼くようになったんだ。でも、それから僕は彼女に不信感をいだいた。なんていうかな、何かを隠して何かをしようとしてるに違ない、そう思ったんだ。

 でも、聞くまでにはもっと時間が必要だった。君は実際怖かったんだろう。僕が知ることが。


 一方、学校でもYからこう言われた。

「一応、注意するんだぞ。」

 何にかは解っていたけど聞いてみた。

「何に?」

「彼女だよ。どう考えても可笑しいんだから。」

 自分はそっぽを向いた。わかっている。そう一番思っているのは自分なんだから。

 彼女はいい人だ。そんなのはわかっている。料理もおいしいし、何でもしてくれる、これ以上を望むのは人類が、神様が許さない。だからかもしれない、何も聞かないのは。つまるところ、失うのが怖いんだ。だって、彼女はすごくいいんだもの。言葉がでないほど惚れている。言葉にしようものなら、自分たちを引き裂くために神様は雷を落とすだろうね。そんなこんなで、大事な友の忠告は宙に浮いていた。


 そうしていると、窓は冬を告げていた。

 学校が終わって出るとき、彼女がいた。こんなことはなかったんだ、今まで。僕は急いで駆け寄った。「どうしたの?初めてじゃん、こんなこと。」

 そうすると彼女は少しおどおどして。

「やっぱり、ダメだったかな?ごめん、近くまできて、一緒に帰りたくて。」

 そういった彼女が持っている荷物は多かった。自分はそれを持ってやる、っていうと、彼女は遠慮した。

 それでも、強引に持って行って、彼女と帰った。

 部屋について電気をつけた。

 突然だった。

 彼女の温もりが背中に、急に伝わって、逆に鳥肌が立ったんだ。

 僕は状況がわからなかった。ただ、彼女の温もりが揺れている。その回ってきた手を握った。そうすると、彼女は腕を解いて、僕を見た。そのなんだろう、不思議な感覚。モデルの時とは違う、特にそう、目がはっきりと何かを伝えようとしていた。

 僕はこういう時に弱い、なぜか近くのソファに腰を下ろしてしまった。

 そして、聞いてしまった。


 彼女は謝った。

 突然、夏に訪れ住み着いたこと、おせっかいとわかっていながら世話をしたこと、今日迎えに行ったこと今まで何も話さなかったこと。

 彼女は語った。

 彼女は姉の大学の後輩だった。

 姉は彼女を可愛がっていた。サークルでも、姉は彼女に気をかけいつも一緒にいてくれたという。

 しかし、ある日彼女は男の先輩から強く交際を迫られた。それに対して姉はその男を強く批判し、彼女を守ろうとした。それがすべての原因だった。姉は彼女を守るほど男から恨みを買っていった。そうしているうちに、男の目的は彼女の獲得よりも、姉への復讐へと変わっていった。

 そしてある日、事件が起きた。姉は事実無根の画像をネットで流され、社会的にダメージを受けた。

 そして、父さんと喧嘩してここを出て行った。

 しかし、姉は彼女を心配した。そして、彼女にこの家を教え、ここで弟の世話をしてほしい。といわれたのだった。そうして彼女はここへ来た。


 彼女が言うには、その男の画像はニセモノだったことが解って、男は大学を追われたという。

 だから、ここを去りたい、去らなければいけないという。でも、姉と連絡が取れず帰って来てもらえないのだという。


 多分、僕の姉は帰る気が無いんだろう。姉は僕みたいに頭は悪くないが賢くない。自分がこれだっ!と決めると、もう曲げない性格で、今回もここまで来たのなら帰らないことにしたのだろう。自分の姉ながら馬鹿だなぁ、と思う。

 彼女はこう言った。あなたに会ってS先輩(姉のこと)に似ているといつも思っていた。だから、せめてあなたに感謝を伝えたいのだと。

 僕からすれば分かりにくいことだった。姉への感謝を僕にぶつけるのは、それこそおせっかいだろ。でも、たしかに嬉しかった。気持ちはいつも伝わっていた。僕はそう彼女に言った。

 彼女は僕も見たことない大粒の涙を流していた。


 それから、自分は彼女に

「ここで姉を一緒に待っていよう」

 と、言って、彼女も賛同したから、堂々と同棲生活が始まった。

 新年度の手前。僕は彼女をモデルにした絵を持って帰った。そこには確かに彼女の笑顔がある。でも、彼女に本当の笑顔があるなら、僕は多分描けないだろうな。

 何故かって?

 それは...僕が彼女に惚れているからに他ならないから。

いかかでしたか?

前作に続き、悲恋ものを書きました。

私の悲恋の種は音楽にあります。

ですので、その作曲者たちに

多大なる敬意と感謝を。

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