季節外れ 海 クラゲ
「海だ~!」
「・・・いや、おかしいですよね。」
私達は海に来ていた。
この世界に来て初の鉄道での旅!
シルヴィは電車に乗るのは初めてだったらしく、軽く酔っていた。
そして今、私たちは、海に!着いたのだ!!
実は私、人生初海だったりする。
なのでめっちゃ興奮してるのである。
「だから、おかしいですよね。」
クレアが盛り上がりムード(私のみ)をぶち壊そうとしているのがわかる。
が、私は負け・・・。
「もう秋も終わるんですが!!」
・・・うん。季節外れの海だ。
しかも曇り。
「・・・寒い。」
アイリがまだ体調の戻らないシルヴィをモフっている。
事の発端は私にある。
何処へ行こうか決めているときに私が海に行きたいと呟いてしまった。
クリアは苦笑いしつつも、一応候補地に入れた。
行く場所は多数決で決めた。
私は冗談で、軽率にも海に手をあげた。いや、あげてしまった。
私全肯定な二人の存在を忘れて。
結果がこれだ。
「「この時期に海とか有り得ないでしょう・・・。」」
クレアと私の声が重なる。
「いや、私は反対したでしょう。」
クレアが横目で私を見る。
「何故に候補地に入れたし・・・。」
お前も戦犯だ、という意思を込め、私もクレアを見返す。
「あの後なんで変えなかったんでしょうね。」
その後なんやかんやノリでふざけまくって、こうなった。
「と、とにかく、宿でも探しながら散策でもしてみましょうか。」
私達は近くの港町へと向かうことにした。
港町に着く。
古びた小さな町だ。洗濯物は干してある。
人はいる筈だ。だが、出歩いている人は殆どいない。
「おかしいですね。この町、数か月前は活気があふれていた筈。」
クレアは首を傾げる。
「飲食店が全くやってない、異常。」
アイリも異変に気付いていた。
「やけに死人の声が煩いです。最近沢山死んでる、です。」
シルヴィは死霊魔法を応用し、幽霊の声が聞けるらしい。
「海で何かあったようです。」
私達は海へと急ぐ。
海は明らかにおかしかった。
まるで曇り空を投影したかのように白く濁っている。
「うわっ!」
近づいたクレアが思わず声を上げた。
そう、その色は海の色などではない。
海は、海がクラゲで埋まっていたのだ。
「ク、クラゲ!?」
そりゃあ私も驚くさ!
というかアイリもシルヴィも驚いている。
「リンボルクラゲは食用には適さない。てか、不味い。シナシナしていて独特の落ちない臭いがキツい。そもそもクラゲは下処理に時間がかかり過ぎるし水抜きするから凄く小さくなる。流石にこの量をわざわざモゴゥ!?」
「なんであんたは食べる前提で話を進めてるのさ。」
突如語りだしたアイリの口に綺麗にした手を突っ込み黙らせる。
今は食べられるかどうかを話している場合ではないだろう。
「オイヒイ。」
私の手を齧るアイリは無視し、クレアを見る。
クレアは少し考えた後、取り敢えず町長のところへ行ってみると言うのでそれに従うことにした。
「クレア様、ようこそいらっしゃいました。」
町長は会釈すると直ぐに町の現状について話してくれた。
突如クラゲが大量発生し、漁どころではなくなったこと。
そのクラゲを捕食しに来た巨大なモンスターに町総出で戦い、なんとか追い払ったが多くの犠牲者が出てしまったこと。
現在王国の調査団が対策会議を行っているということ。
原因は不明で、現在観光客は立ち入り禁止にしていること。
「ん?観光客立ち入り禁止なの?」
「私が一緒だったせいですね。」
どうやらクレアが一緒だったせいで国からの調査員と間違えられたらしい。
「それで、クレア様。どうでしょう?」
町長は心配そうな面持ちで尋ねるが、クレアの表情は冴えなかった。
「もしクラゲを処理できても魚介類にどんな影響が出ているかはわかりません。暫くは政府の援助や提携都市と上手くやって貰うしかないかと。」
それを聞いて町長は項垂れてしまった。
役場を出た私達は王国の調査団のところへと向かう。
チラッ
アイリはお腹が空いたと呟いている。
チラッ
シルヴィは潮風に混じったリンボルクラゲ特有のアンモニアに似た臭いに顔をしかめている。
チラッ
「・・・何なの?」
先程から三人が私をチラチラと見てくる。
「い、いや、マリさんならすごいパワーでどうにか出来ないかな~・・・とか?」
クレアが申し訳なさそうに小声で言った。
「マリ投げ込めば何とかなりそう。」
「おい!」
アイリは相変わらず容赦がないが。
「流石にこの量は無理でしょ。」
見渡す限り、水平線までびっしりクラゲ。クラゲクラゲクラゲ。
クラゲ好きでも苦笑いしそうなくらいクラゲしか見えない。
と、突然、アイリが私の腕に噛みついた。
「痛っ!?なにすんの!」
「お腹空いた。腕一本頂戴。」
「それは流石に気色悪いわ!!」
ギリ甘噛みくらいの強さで噛んできているアイリを振り払う。
倫理的な観点を無視するのであれば人食の最大の難点は病気が移ることだ。
その点私は安全で衛生的と言えなくはないが・・・嫌だ。
友達?が自分を食べてるとことか有り得ないでしょ。
普通にドン引き出来る自信がある。
「クレアが食料は何とかしてくれるでしょ。」
突然話を振られたクレアは慌てて頷いた。
「最低限の食料は調査団が輸送してます。え、と、アイリさんは取り敢えずおやつで我慢してください。」
そういうとクレアは大量の乾燥イカの入った袋を取り出した。
というか、呼び出した、いや、小石と入れ替えた、というべきか。
アイリはそれに食らいつく。これで少しは時間が稼げるだろう。
「相変わらず燃費悪いね。」
私は何も食べなくても平気なのに。
・・・いや、私がおかしいのか。
調査団との情報共有によって、事態の全容は掴めた。
クラーゲンというクラゲとクラーケンを混ぜたような、コラーゲンみたいな名前の本来この地域にはいないモンスターが凶暴な巨大モンスターから逃げてきて、海水温の違いからか、死んだようだ。
そのモンスターは死ぬと高栄養価の粉をばら撒く。
その粉が偶然にもリンボルクラゲの住む地域にばら撒かれ成長を促進し、結果めっちゃ無性生殖(分裂)しまくってしまったらしい。
「このままほおっておいても数か月後には全滅しそうですが、この町には大打撃でしょう。」
調査員Aが告げる。
「それに巨大モンスターとやらが再び現れる可能性も否定できません。」
調査員Bが告げる。
「更にはリンボルクラゲの腐敗臭はとてつもなく強い刺激臭であり、有毒なガスの発生も見込まれます。」
調査員Cが告げる。
この人たち、逆に目立つほどモブ顔だ・・・。
そんなわけで駆除するらしいのだが、良い方法が無いらしい。
流石にどうしようもないかと思われたその時、名乗りを上げたのはシルヴィだった。
その日、海が死んだ。
シルヴィの恐ろしい魔法によって。
この世に留まっている港町の漁師達の霊魂を生け贄に使った超広範囲即死魔法。
正確には、指定範囲の生命力を根こそぎ吸い取る魔法、らしい。
海は枯れ果て、クラゲはおろか巨大モンスターも死んでいた。
「・・・えっと。」
生命力、もとい生命エネルギー的なものを吸収しすぎたシルヴィは大人、というかお姉さんになっていた。
長い白髪に魅力的な肢そして何故かの巨乳。
顔も大人びて艶やかな唇は妖艶さを醸し出している。
「ふふっ。」
それどころか態度まで大人びた。
「・・・も、」
「ふふっ、なぁに?マリさん?」
「戻ってぇぇぇぇぇ!!!」
私は認めない。
シルヴィは私より小さくて私に凄くなついていて偶にスリスリしてきて私が手を頭に乗せると嬉しそうにはにかんでくれる可愛さ100%の存在でなくてはならない。
「ふふっ、マリさん可愛い。」
妖艶な笑みを浮かべたシルヴィであってシルヴィでないものはすっと浮き上がり、まるで舞〇術を使ったかのように自由に空を滑る。
「くっ、絶対に元に戻してやる!」
こうして、海が死んだこととかガン無視の、私VS大人シルヴィのえげつない戦いが幕を開くのであった。
脈絡も説明もフラグも全て無にしていくスタイル




