バイトしよーぜ!
「えと、私が教師になってもう一か月半経つのですが。」
クレアが急に呟いた。
「ん?どうしたの?」
私の質問に対し、キッと目を鋭く輝かせ睨みつけてくる。
かと思えば急にため息をついてしょんぼりしてしまう。
「どったの?」
再度私が質問すると、クレアは元気なく呟いた。
「リビナードさんは本当にすごいですよね。」
幼女が大の大人と自分を比べている。
私は、クレアは凄く良くやっていると思うし、教師、生徒間でも評判は良い。
寧ろリビ先より評価が高いと思う。
と、なると、クレアの悩みは・・・。
「胸の話?」
「ゲシッ!」
蹴られた。
「図星?」
「んなわけあるか~!!!」
クワッと顔をあげ、身体を仰け反らせると、クレアは私に向き直り、怒り出す。
「私はまだ若いですからね!よゆーで成長しますから!・・・じゃなくて、マリさん!その恰好は何ですか!!」
私はシャツを確認する。
穴は開いていない。
「普段着?」
「そうじゃないです!!」
え?いや、えっと?
「下着です!し・た・ぎ!!」
私はズボンの下を弄る。
うん、ちゃんとパンツ穿いてる。
「そうじゃない!ブラですブラ!!」
あ、そういえば最近着けてないや。
「いらなくね?」
私は素直に答える。
「い、いら・・・あぁ、もう!」
ゲシゲシと足を蹴られる。
「私が貴女達の担任になってから、皆だらしなくなってません?」
クレアは周りを見渡す。
シルヴィはおへそを出して床に寝そべり、アイリは焼き鳥の串をガジガジと齧っている。
なんだこの女子力の欠片もない集団は。
「酷いね。」
「一番酷いのマリさんですからね!?」
改めて、私を見る。
午前の授業(学科)が終わると直ぐに部室感覚で使っている特別クラスの教室に行き、制服を脱いでブラも外し、Tシャツと適当に買った安いズボンを穿く。その後最近は特別クラスの教室に入り浸ってきているアトラ、マルグリット、エリナ、カルネとシルヴィ、アイリで昼食を食べて・・・。
と、いった感じが習慣づいていた。
「まぁ、男子に見られることもないし、私なら垂れる心配も無いし・・・。」
「そーいう話じゃないです!一応授業中なんですから!てかそれ以前の問題です!!」
とは言っても授業感覚なんてほぼ無い。
そもそも、クレア全然魔法教えてくれないし。
あの疑似テレポート教えてほしいのに。
「ぜっっったいに駄目です!!」
おや、心の声が漏れていたらしい。
「マリさんはトラブルメーカーの自覚をもっと持って下さい!」
酷い言われようである。
「ところで本音は?」
「私の価値が下がるので・・・って、しまった!」
クレアはちょろかった。
「バイト、したいな。」
やることが無さ過ぎて皆グータラしている教室で、私はそう呟いた。
すると突然、教室内の空気が凍ったように張り詰めた。
三人から凄い視線が向けられる。
「え、なに?皆結構バイトしてるし私もって・・・。」
三人は無言で見つめ続けてくる。
特にクレアの顔は凄い。まるで汚物を見ているようだ。
「いやいやいや、私だってちゃんと働けるから!・・・多分だけど。」
「無理だと思う。」
最初に口を開き、否定してきたのは意外にもシルヴィだった。
基本私全肯定のシルヴィが無理っていうことが事態の深刻さを・・・って、おい!
「先ずまともに食器持てるようになってから言ってください。」
クレアが呆れ顔で言う。
「いやいや、ちゃんと普通に食事出来るようになったじゃん。」
そう、私はもう、スプーンやフォークで食事出来るようになったのだ!
「あの理をガン無視した回復魔法を常に使い続けることで、でしょう?食事中ずっと破壊と創造繰り返してるとか神かなんかですか!普通の意味わかってます!?」
うん、私の怪力で小さな物を掴むと壊れる、ならば直し続ければいいんじゃね、と気付いてしまったのだ。
「私も反対。」
いつの間にか私の背後に回り込んでいたアイリが私の胸を服越しに揉みしだきながら言った。
「?アイリはお金的にも賛成すると思ってた。」
意外だった。
「トラブルメーカー。」
当然だ、といった顔でアイリはそう呟く。
「トラブルメーカー。」
シルヴィまでもが呟いた。
「いや、ちょっと!?私の扱い酷くないかな?乙女心が傷ついたよ。」
「んなもんあるんですか?」
クレア、口悪くない!?
「あるよ。」
今度はアイリが肯定してくれた。
アイリの華奢な手が服の下から入ってくる。
「ちょ!?直で触るな!」
服の中に侵入してきたそれは私の胸へと直行した。
「こら!んっ、やめんか!」
咄嗟に力加減したデコピンを放つ。
ドゴン!という音と共に、アイリは吹き飛んだ。
「あっ、やべっ!」
慌ててアイリに駆け寄り、治す。
どうやら頭蓋が砕けたみたいだ。
私の魔法でアイリの陥没したおでこは元に戻った。
直ぐに意識を取り戻したアイリはドヤッた。
「マリには可愛いとこあるし、バイトなんて無理。」
死にかけて平気でいられるアイリは凄いと思う。
「乙女心ではないとは思いますけど、その、マリさん美人ですし、なんというか、エロい、ですね・・・。」
あ、事案発生。クレアが頬を赤らめて照れている。
幼女には絶対早かったやつだこれ。
「てか、痛かったんだけど。」
アイリは露骨に被害者アピールをしてくる。
「いや、仕掛けたのあんたでしょ。まぁ、悪かったけど。」
そういって求められるがままにアイリの頭を撫でる。
と、胸に頭を突っ込まれた。
「おいこら。」「あ、ずるい。」
私とほぼ同タイミングでシルヴィが声を上げた。
「マリさん、私も吹っ飛ばしてください!」
実はアイリだけでなく、シルヴィも死を恐れない娘になってしまっていた。
「・・・そんなのいいから、おいで。」
仕方がないのでシルヴィにも好き勝手させる。
「おいアイリ、ここは学校だ。授業中だ。クレアの前だ。服脱がすのはやめろ。」
さり気なく服を脱がそうとするアイリを止める。
アイリは素直にやめて下に手を伸ばす。
「ズボンも駄目!」
「シルヴィも今はキス禁止!」
正直言ってこの二人の好意には若干引いているのだが、私の怪力でそんなに傷つけることを恐れなくて済む友人?は凄く貴重だし嬉しいので、色々と許してしまっていたりする。
「ところで、マリさんは何故バイトなんてしようと?」
気を取り直したクレアが聞いてきた。
私は正直に言う。
「なんか私、全然努力も苦労もしないで凄いお金貰っちゃったりして、必死にバイトしてるクラスメイトとか見てるとなんか申し訳なくなってきちゃったというか・・・。」
私の言葉に、三人とも首を傾げた。
「マリ、クラスじゃ一番可哀想な子扱いされてるよ?」
「えっ?」
シルヴィが衝撃の事実を言い出した。
「常に不便そうだし、いつも教科書私が開くとき申し訳なさそうな顔するし、最強になれるとしてもマリのようになるならいいやって男子も多いよ。」
「マジすか・・・。」
なんか、それもそれでショックだ。
「マリさんは十分に苦労してると思いますよ。」
クレアもフォローしてくれる。
「マリにはした金は似合わない。もっと儲かる仕事すべき。」
アイリもフォローを・・・あ、こいつ違う。
「むぅ、じゃあバイトはやめるけど、この暇な時間はどうする?クレア、校外学習的な感じで外に出られたりしないの?」
クレアは首を傾げる。
「成程、別に勉強は私でも教えられますし、シルヴィさんは学業優秀、アイリさんは生徒であって生徒じゃないようなものですし、マリさんも生物と常識以外の科目は意外と優秀ですからね。」
常識とかいう私専用の必修科目・・・。
「もしかすると、一週間ぐらいなら大丈夫かもです。その後一週間は午後も授業になるかもですが。」
「やった!旅行!!」
「あくまでも授業です!」
アイリはカバンからご当地グルメマップを取り出す。
「ここ、行きたい。」
「うわっ、美味しそ・・・あ、あくまで社会勉強のついでですけど、いいかもですね。」
いちいち訂正するが明らかに一番ウキウキしているのはクレアに見える。
「じゃあ、許可取ってきますね?許可が下りたら来週の月曜にでも出ましょうか!」
そういうとクレアは教室から飛び出していった。
許可は無事に下り、これから私たちの旅行が始まることとなる。
しかし、旅先で様々な災難やトラブルに見舞われることなど、この時の私には・・・なんてね。
いや、でもなんとなく何かが起こるような予感がする。
いや、その、すみませんです。




