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怪力少女にご注意を!  作者: アエイラ
本編
89/93

盗賊王(になる予定の)ガッシュ

普通さ、チートな主人公って何かしら救うよね。

結果論だとしてもさ。

そこで出会いがあってさ、友達になってさ。

…的な?

「う~ん…定番は孤児院かなぁ…?」

実際お金はある。馬鹿国王から貰った大金が。

「まぁ、もう5分の1は無くなったんだけどね。」

アイリがおかしなことを言い出す。

「いや…あの…私のお金よ?」

「貴女のお金は私達二人のお金。」

「おいこらふざけんな!勿論全額私が持ってくからね!」

その言葉で、アイリの目の色が変わる。

「ちょっと待って、冷静になって、マリは私を飢え死にさせたいの?」

「あんたは省エネってものを覚えなさい!」

実は私はアイリが働いていることは知っている。

Aランクの依頼を3つ同時にこなしたとかいう噂も聞く。

だが、そんなにも稼いでいて尚、お金が足りないのはアイリの燃費が恐ろしく悪いからだ。

「食べ物が勝手に口のなかに入ってくるだけだよ。それに、私の意思じゃない、お腹の意思だよ!」

「お腹含めてあんたの意思よ!」

最早屁理屈ですらない。

「あんたの体質改悪すれば少しはマシになるかしら?」

「次会うときには丸くなってると思うよ?」

コイツは…。

実は私にも最近悪魔とかいう渾名がついた。

悪魔と死神の最凶コンビだのと呼ばれていたりもする。

一応アイリと違って多少の社交性はあると思うからハンターの友人もちゃんと出来たよ?

ただ、敵も多い。

特に、女性の一部が過剰に敵対してきたりする。それは私達が人には優しいと認知された結果でもあるのだが、とにかく面倒くさいのだ。

原因は、アイリのどれだけ食べても太らない体質、そして私の体型すら治せる謎の回復(?)魔法である。

それを突き止めようとする女性達(ハンター以外も多数いる)という名のストーカーどもとの言い争いになるのだ。

私は真似できないよ~ってちゃんと言ってるのに!


「マリ、朝早く出るんだね。」

いつもは寝坊助なアイリが起きてきた。

私としては寝かしておいても良かったのだけど、アイリはちゃんとお別れしたかったようだ。

「うん、学校行く前にちょっと遊びたいからね。」

そう、最初の話に戻るが、私は何も救ってない、気がする。

あ、でも竜害とか倒したっけ?

まぁ、その辺はどーでもいーや。


「いってらっしゃい。」

「ん~…行ってくる!」


アイリの笑顔と共に家を出て、先ずはとある店に向かう。

「お、マリちゃん、こんな朝早くから何のようだい?」

「わかってる癖に~!出来てるよね!」

「おう、これよ!!…でも、本当にこんなの何に使うんだ?王族に渡したりしねぇよな…?」

「大丈夫よ、おっちゃんに迷惑はかけないからさ。」

受け取ったのは金メッキや銀メッキを塗りたくった、一見超豪華な荷車だ。

私はそれをアイテム袋にしまう。

「超良い感じ!流石!天才!!」

「人を詐欺師みたいに言うな!荷車にこんな加工しろなんて言われたのは初めてだ!」

そりゃそうだよね。

豪華な荷車など盗まれたり襲われやすくなったりするだけだ。

そう、今回の目的であり遊びは、☆盗賊狩り☆

私はおっちゃんに感謝を言って別れた。




「さってと~♪ぽってと~♪」

私は豪華な荷車の上に大袈裟に乗せた荷物で良い感じにカモフラージュして道なき道を突き進む。

国道は盗賊が現れにくい。

なら、こういう所を通るしか無いでしょう?

国道を通っていれば安全なのに、何故商人は盗賊に襲われるか。

簡単なことだ。距離が違いすぎるのだ。

道を整備するためには色々と迂回しなければならない所も多い。モンスターのよってきやすい所は避けたり、山を迂回したり、他にも資源が埋まってる所とか、地盤沈下の恐れがある所とか、色々とあるらしい。特に、モンスターの巣ともなると処理が大変らしく、それを潰して埋める為にかかる莫大なコストを考えると、迂回した方が良いらしい。

前に一度、軍隊を使ったら?とクレアに聞いたところ、

「どこの国もいつでも戦争が出来るように準備されているのですよ!そんな隙を見せられるわけないでしょう!?」

と、かなり怒られてしまった。


商人にとっては『時は金より大事』だったりもするものらしく、彼等はハンターを雇う事が出来るようになり、一直線に目的地を目指せるようになって初めて一人前と思われるらしかった。

そんなわけで、私はフラフラと荷車を引きながら学園都市へと向かう。


だが、少しして気付いた。

「何で馬じゃなくて私が荷車を引いているの!?」

これはかなりの失態だった。

普通に考えて、化け物である。

誰がどでかい荷車を一人で軽々しく引っ張る人間に勝負を挑むだろうか。

というか、私でなかったら気付いていたんだろうな…。

軽く引けてしまったから気づかなかっただけなのだ。

私は悪くない。…が、どうしよう。

取り敢えず、見晴らしが悪い木の生い茂ったところまで移動して…演技かな。


「誰か~…いませんか~!ジェームズ~!ワトソン~!ビカチュウ~!ムズカ大佐~!」

適当な名前を呼ぶ。

一応何か著作権を気にしてみた。

森で大声を出すなんて、馬鹿のすることである。

モンスターも盗賊も一斉によってくるのだ。

…多分。

まぁ、森というか、どちらかというと、雑木林かな?

どちらにせよ、盗賊もモンスターもいそうなところだ。

「…う~む、駄目だなぁ。」

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。」

突如それは現れた。

と、同時に囲まれていた。

「し、下っ端!」

「五月蝿いわい!」

いかにも見た目が下っ端っぽい盗賊が話し掛けてきた。

「お前、仲間はどうした?」

今度はいかにもリーダーらしき男が声を掛けてくる。

「元からいないよ♪」

「!?」

一言でいって、若かった。

私より少し歳上だろうが、20歳前後だろう。

周囲を見渡すと皆若い。

出来て間もない盗賊団らしい。

「俺の名はガッシュ、いずれ盗賊の王となるものだ。お前の名は?」

「え~…私の名前か~…。」

こういうとき、本名って言って良いのかな?

あ、でも本名ってわけでも無いのか。

なら言って良いのかな?

でも、もし逃げられて特定されたら学園に迷惑とかかけないかな?

う~む…。

「名前はあるんだろ?」

「私の名は、俺ってイケメンじゃね?だ!呼べるものなら呼んでみろ!!」


……。シーン。


「…で、本名は?」

「聞く必要はないわ、何故なら貴方達は全員ここで捕まるのだから!」

よし、かっこいい感じになった!

「貴様、盗賊狩りか!?」

「え?いや…そんな呼ばれ方してる人がいるの?」

「お前は…違うのか?」

「私は本物の盗賊見たことが無いから遊びで来たんだけど…。」

私がそういうと、ガッシュは笑いだした。

「はっはっは!俺達も舐められたものだな!お前ら、盗賊の恐ろしさ、少し教えてやれ!」

ガッシュの指示に下っ端達がジリジリと回りながら距離を詰めてくる。

だが、私は気付いた。

ガッシュが私に対し、相当の警戒をしていることに。

そしてこれは、自分の手下に対して、油断をするなということを教え込むために私を利用しているのではないか、と。

ならば!

「うわ~やられた~。」

触れられる前に倒れる!

「「「「「え…。」」」」」

盗賊達はぽかーんと口を開けて動かなくなった。

「そういえば、貴方達の盗賊団、何て言うの?」

リーダー、ガッシュの隣にいたいかにもサブリーダーらしき男が口を開く。

「『自由の翼』と言えば聞いたことくらいあるだろう?」

「あ~…。」

クレアが、それらしい名前を言っていた。

強姦率0%、金持ちだけを襲う義賊。

…正直、白けた。

義賊も賊だ。悪者だ。

でも、出来ることなら明らかに悪いやつらをボコしたかった。

「何のために盗賊になったの?」

「俺達は元奴隷、そこから逃げて生き延びる為に盗賊になった。」

そうだ、この世界にはまだ平気で奴隷を使っている奴等がいる。

王国は廃止したらしいが、他の国は違うのだろう。

「ふうん、で、仲間はこれだけ?」

「んなわけあるか、少数先鋭部隊だ。」

団長が先頭にたって率いているあたり、クズでも無さそうだ。

ますます気が狂う。

はぁ…。

こうなったら、悪いところを見つける!

「あんたら今でも仲間を増やしているの?」

「まぁ、そりゃあな。」

「あんたに憧れて盗賊になった奴はいないの?」

「!…それは……。」

…コイツ本人は悪くないかもしれない。

いや、賊な時点で悪いんだけど、でも…。

コイツの存在が悪いのだ。

普通に生きられた人間がコイツに魅了されて、ついていく、つまりは盗賊の道に入ってしまう、それが問題なのだ。

「あんたには悪いけど、存在が邪魔なのよ。理不尽かもしれないけど、ここで捕まえるわ。」

私は起き上がる。

「ふん、理不尽になど慣れているさ。お前ら、下がれ!」

ガッシュの指示で下っ端達は下がる。

怯えではなく、素直な尊敬の目で。


「いくぞテメェら!フォーメーションスクランブル!」

下っ端達が動き出す。

私は荷車を荷物ごとアイテム袋にしまい、向き合う。

「行け!」

下っ端三人が僅かにタイミングをずらして斬り込んで来る。

避けられない!なら、

「とおっ!」

私は飛んだ。そして上空から3人に雷撃を浴びせる。

「なっ!?」

何が起きたかわからぬ内に、仲間三人が気絶した事に、動揺を隠せないガッシュ。

「っ!作戦変更。フォーメーションエディ!合図は俺が出す!!」

そう言うと、銃を出すと同時に撃ってくる。

ダァン!

「痛っ…。」

幸いだったのは体を突き抜けてくれたお陰で弾を取り出す手間が省けたことだ。

「化け物かよ…。」

「ただの普通の女の子よ!」

ブチッ!

私は自分の腕を千切る。

「なっ!!」

「ニトロム。くらえ!」

そして投げる。

ビルの解体に使うダイナマイト程の威力の爆発が起こり、互いに吹き飛ぶ。

私は体勢を建て直し、腕を修復、爆煙の中を突っ込む。

「ちっ!ふざけんな!!」

ガッシュが叫ぶとともに、周りの木々が一斉に纏わり付いてくる。

「邪魔よ!」

私は力でそれを吹き飛ばす。

「おいおい…有り得ねぇだろ…。」

「最初に言ったでしょ、理不尽だけどって。」

煙が晴れ、ガッシュと副リーダーが姿を現す。

「お前、腕は…?」

「治した。」

「何なんだよ…お前は!」

ガッシュは叫ぶと同時に肉薄する。

地面を叩きつけ、地響きを起こす。

「くっ!?」

ダァン!

「がっ!?」

ふらついたガッシュに蹴りを浴びせようとするが、軸足を撃たれてバランスを崩す。

面倒なので痛覚を消して脚を抜き、新たに生やす。

「お前…人間…なのか…?」

「えぇ、これはただの回復魔法よ。」

「そこじゃねぇ!いや、そこもだけど!脚を引き抜くって何だよ!!理不尽とかの程度を越え過ぎだ!」

「そう?貴方が今まで理不尽と感じてたことが、実は大したことでも無かったんじゃない?」

「てめぇ!」

ガッシュは激昂するが、サブリーダーが宥める。

「モウス…何か策でもあるのか?」

「あるわけ無いだろう。まともに戦える気がしない。というか、あいつが手加減してるのに気付かないお前ではないだろう?」

まぁ、確かに手加減はしている。

何か久しぶりの真剣勝負って感じなので、雷魔法は使っていない。

「だから…。」

何やら耳元で話をしている。

距離が近い…友情を越えた関係…男同士…。

そこで私はある仮説を思い付く。

「あんた達、ホモでしょ!」

「「んなわけあるか~!!!」」

「もう、照れちゃって!」

「テメェやっぱりぶっ殺す!!」

「まて、それでは奴の思うツボだ。」

「ちっ…。」

私は更に挑発する。

「おやおや~?お認めになさりました~??」

「ぐっ!」

「無視を決め込め!」

「それはつまり、認めたということですね?いいや、違いますね。モウスさん、貴方、ガッシュさんの事が好きなんですねぇ!?否定されたくない!だから無視を決め…」

「ぶっ殺す!」

「モウス、冷静になれ!!」

「だって変じゃ無いですか~、女を襲わないなんて、健全な男性の考えることじゃありませんよ~?」

「俺達は手に入れた金で風俗に行く派なんだよ!」

「義賊もここまで行くと少し引くよ…?」

何とまぁ、盗賊らしくないというか…。

これなら警察組織でもやって欲しいくらいだ。

新撰組的な感じで。

…でも、『自由の翼』か。

そういう組織にはなれないんだろうな~。


「おい、お前、盗賊に興味があるなら、俺達の冒険譚でも聞かないか?」

え、何それ、面白そう!

けど…

「延命のつもり?」

「いや?これでも俺達ぁ結構修羅場くぐってるからな、面白い話、聞かせられるぜ?捕まえるのはそれからでも良いだろ?」

まぁ、確かに面白そうだし…。

「なら、聞かせて?」

少しくらい聞いても良いだろう。






「それで鍋が爆発したんだよ!」

「あはははは!」

「おい、そろそろ切り上げるぞ。」

「え~…もう終わり?」

辺りはすっかり暗くなっていた。

「じゃあ捕まえ、…?」

何かを…忘れているような…?

「君の身体能力の高さを見て、賭けに出させてもらった。単に盗賊を狩るなら王都の反対側の方が盗賊は出没する。なら、何故こちら側の、こんなところに来たか、それは…学園都市の生徒だからだろう?」

「!?」

そうだ!始業式、明日だ!!

寮の門限!あと…1時間!?

「は、嵌めたなぁ!!!」

「俺達に構っている暇はあるのか?」

「ぐっ!…次会った時は絶対に捕まえるからな!!」

「「ははははは~!!!」」

私はムカつく声で笑う男二人を背に走り出した。

今回の話で一旦終了とさせていただきます。

別の話を書き始めたので。

続きは思いついてはいるので気が向いたら更新するかもしれません。

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