パスされたバトンは何処へ行くかわからない。
土曜日って言ったな。あれは嘘だ。
…いや、だっていつの土曜日とか言ってなかったし!!
…すみませんでした。
人の名前考えるのって大変ですよね。
今度何か話を書くときは出来る限り登場人物を少なくしてモブを増やそうと思います。
マーラという名前は聞いたことがあった。
幼いながらに全属性を使うことが出来る神童と。
それが…。
「おりゃ~!!!」
ドカーーン。
ただの自爆魔法使いに成り下がっていた。
魔力量が非常に少なく、魔法を飛ばすのが苦手な彼女は自分に簡易防御魔法をかけながら全属性を反発させ合い爆発を起こす。
魔術師なのに前衛くらい近付かないと強い攻撃が出来ないという…残念な子に成り下がっていた。
しかもやたらと身嗜みに煩い。
普段はトーヤという弓使いが押さえているみたいだけど、どうやら弓の試験らしい。
ガッドというリーダーは大剣を豪快に振り下ろすが、攪乱してくれる人がいないとまずヒットしない。
普段はトーヤという……。
そんなわけで、私が敵の注意を引き付け、二人が致命傷を与えるという、ふざけた連携が出来上がった。
本当なら影を切り裂けるというナイフを試しで使いたかったが、そんな事を言い出せない自分がいる。
というか、私の影魔法ですら珍しい上に暗殺向きの非常に厄介なものだ。
国王が許してくれたのが奇跡に近い。
それなのに…影が切れるナイフなんてチートな物を使ったら…。
いや、影が切れるってそもそもなんだ?
影を切っても本体がビクともしない可能性も…。
「着いたみたいね。」
うがあぁぁぁ…と、心のなかで意味のない雄叫びをあげていると、マーラが目を輝かせながら馬車から顔を出して呟いた。
どうやら温泉で有名な街らしい。
確か、インタルとか言ってたかな?
街に着くと、やけに騒がしい。
特に、ギルドらしきところ周辺が。
「私達の受けた依頼、覚えてるかしら?」
マーラは売店に行こうとする私の手を必死に引っ張りながら尋ねてくる。
「売店巡りでしょう?」
「違うわ!!」
今の私には売店の事しか頭にない。
大和の国で小さい頃に食べさせまくられたせいか、私はやけにお腹が減るようになっていた。
「ゴブリンの巣をぶっ壊すのよ!!」
「どうやら、そのゴブリン達が集団で森に入ったらしく、驚いたウルフ達が逃げ出したらしい。街に近い。そっちを先ずは片付ける必要があるな。」
私達が一進一退の攻防を繰り広げている間に、ガッドがギルドで聞いて戻ってきたらしい。
温泉はあるが田舎で周辺に良い採集場もないこの街には、強いハンターが留まる理由が無い。
悪い奴は領主がどうにかするみたいだし。
そんなわけで、私達は森に入ったのだが…。
「…いない。」
ウルフが殆どいない。
それどころか群れる筈のウルフが何かに怯えたように散り散りになっている。
「…もっとヤバい奴がいるのか?」
「取り敢えず、ウルフが逃げてるのとは逆の方向に進んでみる?」
ガッドとマーラは緊迫した様子で歩を進めるのが遅くなってゆく。
はっきり言って、迷惑だ。
私は売店で串焼きを買わねばならない。
いや、売店が私を呼んでいるのだ!!
私は走り出す。
二人が何かを言っていたが、気にはしない。
走ってはいても気は張り巡らせている。
だが、そもそもウルフがある方向から逃げているということは、隠れて背後や上から襲ってくる敵では無いということだ。
その時点で変に緊張し、ゆっくり行く必要がない。
それよりも、ウルフ以外の…人間が襲われている状況を考えて、急ぐべきなのだ。
…影を切れるナイフとやらの試し切りもしたいし。
「…!!」
血の臭いがした。
近付くにつれてどんどん臭いが濃くなってくる。
ウルフの死骸が転がっている。
やけにエグい殺され方をしている。
頭部が潰れ、顎が壊れ、肉片となりかけている。
「…これは…ヤバいな。」
私は認識を改める。
音はしない。森の中で音がしないということは、それなりに小さいか休憩しているか。
だが、ウルフをこんな状態に出来る奴が小さいわけがない。
ということは、休憩している?
…確か、この先に泉があった筈。
この仕事は命が関わるのだ。地図は覚えている。
つまり、水を飲んで休憩中?
だが、水を飲んでいる音は聞こえない。
「バレた?…いや、鼻息とかも聞こえないし…。」
私は影になり、進む。
森は私のテリトリーなのだ。
泉の前に血だらけの何かがいた。
人型だ。…というか、人だ。
…人間だ。
しかも、私と同年代くらいに見える、女の子。
「…騙されない、あれを餌にして、獲物を誘き寄せ、上か下か、泉の中から出てくる気だろうけど。」
……。
いや、頭ではわかっているのだ。
少女の手がやけに真っ赤に染まっていて、泉に大量のウルフが浮いているから。
…だが、理解が出来ない。
いや、なんと言うか…有り得ない。
「アイリ!」
「アイリちゃん!!」
遅れて二人がやって来る。
二人もこの惨状に驚いている。
…取り敢えず。
モミモミ
「気絶してるみたい。」
「何で胸を揉んでるのよ。」
「お前なぁ…。」
二人の緊張をある程度ほぐして、今後の事を考えさせる方が先なのだ。
「…にしても、この状況…本当にこいつが?てか、こいつ、そもそも人間なのか?他の何かが擬態してる可能性も…」
そう言いながら、ガッドは女の子を揺すっている。
「ひゃっ!?」
その瞬間、ガッドは吹っ飛んだ。
その後は、その女の子、マリを運んで、魔法が使えなかった事に驚愕して、不確定なナイフに頼らない戦術を立てていたらマリがゴブリンを殲滅してて…。
何より、マリはお姉ちゃんにどことなく雰囲気が似ていたのだ。
性格は似ていないのだが、見た目…も、大和の国出身っぽいだけで、そこまでは似ていない?…でも、笑っている姿は似ている。
そして何より、優しくて、強かった。
同時に私にも似ているのかもしれない。
彼女は過去を話したがらず、話したとしても、それらが嘘と言うことも私にはわかっていた。
彼女の瞳もまた、闇を抱えていたのだ。
私は初めて、この人とは仲良くなれるかも、と思った。
「その後は…」
「長いわ!!!」
…?
「…気が付くと私は知らない街に……」
「王都だよ!」
…どうやら私は立ったまま居眠りをしていたらしい。
もう日は沈みかけていて、隣にマリが立っていた。
「あ、すみません…。」
「アイリさん…その…。」
状況を整理すると、私が救った姉妹が私を心配して頑張ってたところにマリが戻ってきて姉妹を美術館に送り出し、たった今、姉妹が戻ってきた所のようだ。
姉妹に別れを告げて、私達は王都の私の家に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…あんたねぇ…主人公誰だかわかってんの?」
「大丈夫、私が主人公の話はもう終わりだから。」
「全然大丈夫じゃないでしょ!?私も初めの方は鬱~な感じだったけどさ、あんたは…」
「メタ発言禁止。」
「まぁ、次回からはようやく本当の主人公が帰って…」
「次回、私達の出番無いらしいよ?」
「え…。」
マリは倒れた。
トーヤって人、結局出てきたっけ?
出れてなかったらご愁傷様です。




