大和ノ国ノ少女ノ話Ⅸ
炎の柱が、黒煙となり、天へと伸びてゆく。
『邪焼祭』が行われる日は風向きで決まると聞いた。
街から屍場へと風が吹き抜けていく。
「団子屋…?何で着物…?」
私は高そうな着物を着させられ、それを隠すように上着を掛けられた。
「わかってるでしょう?相手は密売商よ?」
団子屋も着物の上に上着を羽織る。
いつもの、団子屋を営んでいる刻の着物だ。
私はひょこっと店の外に顔を出し、また直ぐに仕舞った。
「愛里はここで待ってて。…気になるだろうけど、顔はあまり出さないよ~に。」
団子屋は私の頭をポンと叩くと、出ていった。
私が見た限りでは、かなりの男達が褌姿で騒いでおり、警備も配置されてはいるが、皆、数年に一度の赤黒い塔に目を奪われていた。
「愛里。」
団子屋の声に店を出る。
そこには鼻の下に髭を生やした、いかにも金持ちらしい男が荷馬車から半分ほど顔を出している、いかにも滑稽な姿があった。
見た目この国の御者らしい二人は、こいつの部下のようだ。
御者の一人が指で合図をする。
「乗れ、だそうよ。」
団子屋が教えてくれた。
警備員から隠れるように、私達は大量の荷物の中に紛れ込んだ。
「ぶっはぁ!!…失敬失敬。」
唾を飛ばしながら男が顔を上げた。
気が付けばもう朝になっていた。
街を出て畑を過ぎ山を越えている最中らしい。
山とは言ってもこの国は島国な為か、比較的低い。
がたごとと揺れる馬車だが、どうやら私は酔わない体質のようだ。
私達も顔を上げ、起き上がる。
「…そろそろ、離していいよ。」
そう言って団子屋の手を振り切る。
団子屋は荷馬車に乗ってからずっと手を握っていてくれた。
「コホン、こんな小さな子を連れて、余程大切な子なのかな?」
商人は咳払いをして、汚ならしく笑いながら聞いてくる。
「娘と勘違いなさっても宜しいのですが?」
団子屋は挑発気味に言う。
「ふふっ、まさか。全然似てないではないですか。ですが外国では此方の子の方が値が…いえ、失敬。」
この男はにやけ顔以外の顔は無いのだろうか。
「…約束は、守って頂けるのですよね?」
団子屋は真剣な表情で聞く。
「えぇ、あれだけの大金ならいくら密売商の私でも、貴女方の逃亡中の安全は保障致しますよ。」
男の柔和な笑みに隠されたほくそ笑みを、私達は見逃さなかった。
『逃亡中』は安全なのだろうが、その後の事は言ってない。国から出た後の事は。
「それは…本当に有り難い限りでございます。私達非力な女共では国外に逃げるなんて不可能。それに、この国では自由にお金も使えない身ですから。」
団子屋の演技にも下を巻く。
団子屋曰く、いかにエロさを出さずに悲哀感を出すかが重要…らしい。
がたごとと荷馬車が跳ね、腰が痛くなってくる。
船に乗るまでに隠れ宿等で一切止まらない日程になっているらしい。
「貴女には本当に感謝しているのですよ?『邪焼祭』の日を教えて貰えたことで、どれ程楽に商売が出来たか。」
商人の男はヘコヘコと団子屋に頭を下げている。
男が女に頭を下げる…といった状況を初めて見た私はキョトンとしていた。
「国外の殆どの国ではこれが当たり前なのよ?」
団子屋が私に教えてくれた。
「へぇ…。」
知っているが、初めて知ったふりをした。
国外に希望を抱いているアピールだろう。
苦笑いを堪えるのも、これが初めてだった。
「そういえば…1日中走ってる…。」
私はヘマをしないように無口キャラを演じている。
…と、言うわけでは無いが、初対面の人間との話し方なんて知らないので、しかも相手は商人なので、無口が吉だ。
だが、どうしても気になった。
「ふっふっふっ。」
商人は自慢げに笑ってこたえてくれた。
「私の家は貧乏で、私はそれが嫌で家を飛び出したのですが、運良く回復魔法の指南書を盗めましてな。しかも私には回復魔法の才能もありました。回復魔法が使える者は珍しく、それだけで生きていけました。私は神に感謝し、二度と盗みをしないことを神に誓いました…が、そもそも今、この世には、善の神はいらっしゃらないと聞きましてな。だとしたら、私にこの力を与えて下さったのは悪の神では無いかと考え、神の使徒として、それを有意義に使わさせて貰っている限りであります。」
……なげーよ。
そして、…妄想が酷い。
悪の神の使徒?…それで良いのか?
更には子供の頃に盗みをしてる…。
…なんか、凄いな。
「…回復魔法で馬と御者を回復させてるの?」
「はい。」
商人は笑った。
「…本当に悪の神様の使いの方なのであれば、私達を助けて下さらないのでは?」
団子屋が指摘する。
団子屋の意見は最もだったらしく、商人はギクリとした。
いやいや、ここで商人がボロ出さないでよ!?
「ふふっ、私は悪の神の使徒失格でしょうか?ですが私は、たまには人の笑顔を見ずにはいられ無いのです。そもそも商人とは、笑顔を売り、笑顔を貰う仕事です。こんな私ですが、私がどんな形であれ、商人で居続けたいと思うのは、私のしたことで、お客様が笑顔になってくれるからでしょう。」
「はぁ…私、感動してしまいました。」
団子屋は目を拭うふりをしている。
…なんだこの茶番!?
先ず、お前は密売商!!…しかも奴隷も売ってる人間が何を言ってんだ。
そして、団子屋。チョロいキャラ上手すぎ…。
「バロ様、もうすぐ港に着きます。」
御者の一人の声を聞き、私達は荷物の中に隠れ、商人は、荷台から降りた。
ここからが本番だ。
ん?話が進んで無いって?
…楽しくなっちゃったんだもん。
大丈夫、二日後までにはまた投稿するから。
あと、火曜日の夜って書いたけど、今もギリギリ火曜日の夜だからね。許してね。




