大和ノ国ノ少女ノ話Ⅷ
現実とは思い通りにはいかないものだ。
予想外の事ばかり起こる。
あの時もそうだった…。
「私が正面から突っ込んで風魔法を暴走させる。」
暴走させる…という事の意味を私は知らなかったが、今聞くべきではないと思った。
「で、アイリが後ろから首を掻っ攫う!」
団子屋の策は想像以上に単純だった。
「…それで大丈夫なの?」
主に団子屋にリスクがありすぎる。
「奴等は女が魔法を使えるなんて思ってないよ。不意打ちだけでも時間は稼げる。ましてや伏兵がいるとは気付かないさ。」
確かにそうだ。
魔法が使える女ってだけで相当動揺し、注意が集まる筈だ。
「わかった。でも、リスクが高すぎない?」
菅平ってやつの回りにはかなりの手練れが守りを固めている筈だ。
「…承知の上よ。」
団子屋は静かに目を閉じた。
「で、でも、決行は夜よ?」
「臆病風吹いた?」
「戦略よ!せ・ん・りゃ・く!!」
…そこまで主張しなくても。
「わかった。ちょっと寝てても良い?」
「………そうね。」
団子屋は含みのある微笑で頷いた。
夜の帳が下り、いよいよ作戦決行となった。
私達は外を見て、絶句した。
「………アイリ、一旦奥へ。私が聞いてくる。」
気を取り直した団子屋の指示に従い、私は団子屋(店)の奥に隠れた。
意味がわからない。
菅平の屋敷が…燃えていた。
大火事だ。
白い煙と黒い煙が混じり合い、絶えることなく天へと昇っていった。
…意味がわからない。
「アイリ、……あの、ね。菅平と……貴女のお母さん、…死んだわ。」
団子屋は帰ってくるなり、言い辛そうに、控え目に呟いた。
「母親が……お母様が…あれをやったの?」
………。
「えぇ、…どうやら押収された筈の里美ちゃんを売ったときのお金の一部を隠し持ってたみたいでね。菅平を怨んでるやつと上手くやったんだろうさ。あの人、里美を溺愛してたし…ねぇ…。」
…腐っても…いや、腐ってすらいなかったのかな?
…母親として、やはり怒りが沸いたのだろうか。
「…お味噌汁、ごちそうさまでした。」
私は静かにそう呟いた。
「寂しくないの?…その…血族が…いなくなった訳だけど…。」
「あんまり。それより、お姉ちゃん、天国行けたかな?」
そっちの方が、私にとっては重要だった。
「ふふっ、えぇ、行けると思うわ。あの白い煙に乗って…あの黒い煙は地獄行きかもね。菅平はあっちね。…貴女のお母様は……」
「天国じゃない?…興味ないけど。」
「あら?そう思うの?…なら、そうね。」
団子屋はクスリと笑った。
その日の夜。
「………アイリ?」
「…何?」
「…いや、その…遠慮せずに私に甘えていいのよ?まだ子供…12歳…もうすぐ13歳ね…。それでも、子供よ。甘えなさい。だからその…。」
「……何?」
「足の方にくっつくの止めなさい!」
何か少し寂しくなって団子屋の布団に入ったは良いものの、何か気まずくなって団子屋の足の方に潜ってました。
「…臭くないよ?」
「そっ、そういう問題じゃないのよ!」
団子屋は物凄く優しく蹴ってくる。
何だかそれが凄く嬉しかった。
「改めてだけど、ごめんねアイリ。助けに行けなくて。」
「もう済んだ話はしないでいいよ。それより、これからどうする気なの?この国から出るって、本気なの?」
普通に考えたら不可能だ。
大和の国は島国で、隣国に行くには船しかない。
だが、船を手に入れるなんて不可能だし、絶対にばれる。
「えぇ、本気よ。貴女のお姉ちゃんとも、夫とと約束したからね。協力…してくれる女奴隷の密売人がいるんだけど、船の到着がかなり遅れてるらしいの。」
私は直ぐに察した。
「協力…っていうか…。」
この人、単純な作戦ばかりだな。
「えぇ、略奪??いや、…拝借?」
言葉の問題じゃないでしょう。
「…戦うことになる?」
「…えぇ。…人、殺せる?」
「…子供にそんなこと、聞く?」
「あ…ごめん…そうよね。」
「あははっ!…冗談だよ。殺せるに決まってるし、最悪撹乱に徹すれば良いのでしょう?」
団子屋って少しからかいたくなるよね。
「…そうね。でもあくまで、殺されるくらいなら、殺しなさいって話よ。捕らえられればお金に変わるんだから!それに、貴女の役割は拘束をとくこと。戦闘員は、ちゃんと確保してあるわ。」
「…私達二人じゃないの?」
初耳だ。
「他に三人いるわ。別行動とってるけど。」
「その三人は…魔法使えるの?」
「勿論、それが絶対条件だからね。」
「…そうだね。」
魔法が使えない者は足手まといにしかならない。
「それにしても…影魔法って珍しいわね。」
先程の作戦会議の時に私の魔法は一通り見せた。
「そうなの?あと私、闇以外の魔法使えないよ?」
「特化してるのね。」
「良く言えばね~。」
私は口を尖らせた。
「あ、もしこの国を出れたらさ、どうするの?」
「そうねぇ…面倒臭い事は私がやるから安心して。私は団子屋を開こうと思ってるんだけど…貴女が一人立ち出来るようになるまでは、私がお母さんになっていてあげようか?」
おっ、それってつまり…。
「無料で団子食べ放題!!」
「団子は別料金になりま~す!」
「そんなの家族じゃない!」
「ほら、あくまで義理の母親だから…。」
「……寂しい。」
「卑怯よ!?」
「お母さん♪」
「ちょ、可愛すぎよ…で、でも私は甘やかさないわよ!!」
「ママ~♪」
「さっきから子供であることを利用し過ぎよ!…将来駄目人間になるわよ!!」
…この団子屋の予想は当たってたんだけどね。
「…で、決行はいつなの?」
「『邪焼祭』の時よ。」
「数年に一度のやつ…今年なの?」
「えぇ、間違いないわ。」
『邪焼祭』とは、屍場を焼き尽くす事を正当化して祭に仕立て上げたものだ。
実際屍場は病気の苗床だし、間違ってはいないけどね。
開催時期は一部の人間にしか伝えられない。
時間は夜。
一人でも多く屍場の人間を焼き殺したいからだ。
「注意が集まったその隙をつく。商人の馬車なら海まで一日かからないわ。」
成る程。
「でも、その前に…もう一つイベントがあるわ♪」
「え?何?」
「ひ・み・つ♪」
教えてくれても良いのに。
「…失礼する。」
翌日、政府の役人がやって来た。
少し、中を調べさせて貰っても良いかな?
「あの…奥にはレシピとかあるので…出来る限り見せたくは無いのですが…。」
「すまない。」
そう言うと男は容赦なく店の奥へと入ってきた。
私は影になり身を隠す。
男はゆっくりと一通り店の中を探した。
「何故うちを調べようと?」
団子屋が恐る恐る、だが平静を装い、聞く。
「…お前の不審な動きの調査担当が俺だったからだ。」
団子屋が固まったのが見えた。
「…だが、捕まえる気など無いさ。」
男は笑った。
「菅平の息子が継いだよ。お陰で教育係だった俺は飛ばされることになった。この国は異常だよ。男の俺からしても、良い国とは言えない。俺がここに来た本当の目的は、最後に団子が食いたかったからだ。それと、そこに隠れてる妹さんへの挨拶、だ。」
「え?」
ばれてた…。何で…?
「気配でわかるさ。」
「…アイリ、彼はかなり手練れの、優秀な武人よ。八草さんって言う。」
「あ、薙刀使いの…。」
超有名人だ。
「あぁ、君がアイリちゃん…か。…っ。こんな子供を…ふざけてる!…『邪焼祭』は三日後だ。俺は明日には飛ばされるから手伝えはしないが…無事に生き延びろよ。…そして、出来れば…二度と帰って来るな。」
男はそう言うと、団子を一気に頬張り、軽く手を振って出ていってしまった。
「あの人…」
私の呟きを上書きするように、
「あんなに強い武人であっても…一人じゃ何も変えられないのかねぇ…。」
団子屋は悲しそうに、そう呟いた。
その二日後。
「さて、今日は何の日でしょうか!」
団子屋が嬉しそうに聞いてきた。
これがイベントか。
「私の…誕生日…。」
「そう!おめでとう!!これ、私から、団子全三十二味一つずつ。」
「おぉ!!美味しそう!…食べていい?」
「どうぞどうぞ!」
串に刺さった七色…いや、三十二色の団子達に食らいつく。
「うま~♪」
「ちょっと、ちゃんとお茶も飲みなさい!」
「もぐもぐ…ゴクゴク…もぐもぐ…。」
わざわざこの日の為に全部の味の材料を揃えたのだという。美味しくて嬉しいプレゼントだ。
私が食べ終わると、団子屋は何か箱を持ってきた。
「…もう一人からも…あるんだけど…。」
「もう一人?」
心当たりが無い。
「開けてみて。」
団子屋に言われるがままに開けてみる。
「…えっ!?」
入っていたのはマフラーと…手紙だった。
「…お姉ちゃんから…だ。」
私は手紙を読む。
親愛なる愛里へ
貴女がこの手紙を読んでいるということは、貴女は助かり、私はもうこの世にはいないということでしょう。団子屋に感謝しましたか?
…これが私の望んだ道なのです。
このマフラーは命編みという特別な方法で編みました。
このマフラーは私の一部であり、私の意思であり、私自身です。
…最後に、お姉ちゃんらしいこと、出来たら良いな。
お誕生日おめでとう。
私はいつでも、愛里を見守っていますよ。
里美より
「あ~…最初のくだりは…そういう予定だったってことで…助けに行けてないし、感謝しなくても…」
「ありがと、団子屋!」
満面の笑みで感謝する。
「嫌味か!?」
「ふふっ、…ねぇ、命編みって何?」
知らない単語だ。
「命や魔力を込めて縫う…特殊な縫い方。服屋かどこかで教わったんじゃ無いかしら?あの子の事だから、寝た振りでもして貴女が寝たら起きて徹夜で作ったのでしょう…。」
…頑張り屋過ぎません?
「…お姉ちゃんの臭いがする。」
「そりゃあ里美の命で編んだ物だしねぇ。あの子は最初から死ぬつもりだったのさ。」
止めなかったの?なんて言わない。
もう全部わかってるから。
「ありがとう、お姉ちゃん♪」
私はマフラーに優しくキスをした。
そして、少し言葉を付け足す。
「本当はお姉ちゃんの優秀さが欲しかったんだけどな…。」
「全部取られちゃったものね~。」
団子屋がわざとらしく言った。
私達は、笑った。
そして、『邪焼祭』の日がやって来た。
菅平よ…お前は煙になってまでも里美さんと交じり合いたいのかよ…。
と、言う訳で、一切容姿とか明かされませんでしたが、彼は死にました。
これから日常パートが増えていきます。
リアルの方でヤバい事が起きてかなり精神的に参っていたのですが、本当にヤバい時は文章書いてる余裕なんて無いな~って実感しました。
この話をさっさと終わらせるために、火曜日の夜から間隔を狭めて投稿していきます。




