職業選択の自由を求めます!!
「さて、私はどうしようかな?」
「お腹すいたなぁ…。」
私はお腹を擦る。
「取り敢えず、散策がてら何か食べられるもの探そうかな…?」
独り言を呟く。私は一人になってしまった。
しかし、それを聞いていた人達がいた。
「…俺達を…忘れてはいないよな?」
あ、そういえばいたんだ、ガッドさん達。
勿論そんなことは言わないよ?
私は全然一人ではなかった。
「あ、そういえばい…じゃなくて、ウルフのお金の件は…。」
「あぁ、ほれ2240G。ザラさんに殆ど持ってがれちまったけどな。」
「でも、処理とか全部ガッドさん達が…。」
「俺達は大丈夫だ。これから大きな依頼をこなすからな。ありがたく受け取っておけ。」
「ありがとう。」
…危ない危ない、咄嗟の判断で誤魔化せた。
…ガッドさんは。
「マリちゃぁん??」
「マリ、酷いよ。」
「すみませんでした。」
素直に謝る。
女って怖いね。
「それで、マリはどうするの?働く宛てがないなら、まだお昼だしハンターギルドに登録しといた方が良いと思うんだけど…。」
「あ、それ良いですねぇ。」
散策はその後でも充分に間に合いそうだ。
「それにしても…」
私はざっと辺りを見渡す。
田舎だ。凄く田舎っぽい。おっきな山が見えるし。
なのに何故か凄く施設が充実している。
あれは…?
「気になる?あれは大衆浴場よ?」
「お風呂!?」
「あら、知ってるのね?ちゃんと男女別れているから安心して良いわよ?」
「別れてる!!」
「宿にもちゃんとシャワーがあるから、疲れをとりたい時とかにオススメね。因みにトイレもあるわよ?水洗なんだけど…後で使い方教えようか?」
「多分使い方わかるから大丈夫です。」
ヤバイよ、異世界充実しすぎだよ?
古代ローマレベル以上だよ!?
…そりゃそうか。
たまにこうやって急に冷静になる時ってあるよね。
私達はハンターギルドに向かっている。
歩きながらマーラさんの説明を聞く。
「ここは田舎なんだけど、とっても重要な土地だから国からの給付金が高めなのよ。」
「重要?」
「あの山は国境なの。」
「…防衛ライン?」
「うーん、それもあるけど、良い依頼が余りないから、強い冒険者は殆どいないわ。」
「商人が多いね。」
何人も見かける。というか商人ばかりだ。
「そゆこと。ここはフェルナット王国に属しているんだけど、アルフォイム帝国とは山を挟んで隣にあるし、あっちの山越えの道はミレナ共和国とも繋がっているの。ここはある意味王国の顔でもあるし、他国から貴重な物資が手に入るし、商人は泊まったりして金を落としていくしで、生活系の設備だけで見たら王都に負けてないわ。」
「商人値段だからハンターには高いんだけどね。」
アイリさんが付け足す。
よくわからないけどわかった気がする。
「あれは…。」
「ハンターギルドよ♪」
と、言うわけで、ハンターギルドに着きました。
暖簾的な布を潜ると、空気が一気にお酒臭くなった。
入ってすぐ右側はカウンターになっていて、受付嬢みたいな感じの人達が十人以上はいる。裏で作業をしたり、料理を作ったりしている人達を含めてだ。
左側には沢山の丸いテーブルを椅子が囲み、それに座る余り強そうではない冒険者達が屯して…お話しをしている。
「ガッドさん達だ!!」
「虹の爆剣が来たぞ!!!」
私達がギルドに入るなり、騒がしくなる。
「何度目だよこれ…。」
ガッドざんが項垂れる。
「虹?爆剣?」
「私達のパーティ名よ。私は全属性が使える希有な天才だから虹の魔術師って呼ばれてるの。」
マーラさんが胸を張る。
む?…意外とあるな?
…そういえば、以前も聞いた気がする。
「魔力量が少なすぎて属性反発作用で爆発起こすくらいしか出来ないんだけどな。」
「うっさい。」
マーラさんが頬を膨らませる。
ハンター達が鼻の下を伸ばして見ている。
そう、これが需要だよ、ザラさん。
…それにしても、『虹の爆剣』ってダサくない?
私がとやかく言うのは良くないけどさ、やっぱりダサくない?そんなことを思っていると…
「ダサいよね。」
私の耳元でアイリさんが呟いた。
私は何とも言えないので握手で応じる。
「ついに依頼を受けてくれるのかい?」
受け付けにいたガタイの良いオバサンがガッドさんに話し掛ける。
「いや、今日はこのマリのハンター登録に来たんです。このあとはマリに街の案内をする予定で、明日はフォーメーションの確認かな。量が量だし、ボスもいる可能性が高いですから。」
「そうだね。慎重するに越したことはないね。」
オバサンは満足げにガッドさんを見つめる。
「エリー、出ておいで、あんたがやりなさい。」
オバサンが呼ぶと、後ろで作業をしていた私と同年代くらいな女性がトトトッと出てきた。
トトトッと…何か気に入った。
「こちらへどうぞ。」
私は奥の受け付けに向かった。
ガッドさん達もついてきた。
「はい、まず、文字は書けますか?」
エリーさんの接客は丁寧だ。
私と同年代っぽいのに凄い!!
「…書けます。」
私は少し考え、答える。
サヤの言語の記憶、王国の言葉以外も複数話せるみたいだ。それだけじゃない、王国語は書ける。
やはり、サヤには感謝しかない。
今度会ったら絶対にお礼をしなくてはね。
医療魔術学校…恐らく皆文字が書ける上流階級。しかも才能も必要。サヤが友達を気にするのも無理はない。
「では、ここにお名前を、この隣にご職業をお書き下さい。」
紙が出され、ペンを渡される。
紙もあるんだね。想像より遥かに生活しやすそうだ。私はペンを握る。
「プシュ。」
プシュ?何の音?
…手が冷たい。まさか…。
手を見る。ペンが折れていた。
バキッならわかる。プシュってなんだよ。
「ごめんなさい!!」
私は頭を下げて謝る。
ガッドさん達は白目を剥いている。
「あ…、と、代わりを用意しますね。…それと、弁償の件なのですが…。」
おお、冷静。エリーさん、凄い。
「何Gですか?」
「2000Gです。」
私のお金、ほぼ全て溶けたよ。
ガッドさん達の顔は呆れ顔に変わっていた。
「今度は、気をつけて下さいね。」
私は慎重にペンを持ち、名前を書く。
苗字…毒島…ブスジマ…無いな。
「そういえば、アイリさんは何て苗字なんですか?」
「アイリでいいよ。私はカグヤ。私の国では苗字が先にくるんだけどね。」
カグヤ?日本ぽいが、苗字としてはあまり聞かないような気がする。
どうしようか。少数民族っぽい苗字なんて知らないので、適当に無さそうな苗字を言う。
『マリ・エルフォート』
お?異世界人っぽくなったかな?
「大和の国の人じゃないんだね。」
アイリさんは少し嬉しそうだ。何でだろう。
「職業…。」
「ここには大まかな職業を書いて貰います。職業ごとのコミュニティなんかもありますし、パーティを組むときに重要なので嘘はいけません。」
「何があるの?」
「刃物で戦うなら剣士、素手なら格闘家、魔法なら魔術師です。」
本当に大雑把だ。
「…因みに、女性比率は?」
「男:女で、剣士は9:1、格闘家は99:1、魔術師は2:8くらいでしょうか?魔術師は女性の方が多いです。魔法は女性の方が得意な方が多いという調査結果も出ていますからね。」
魔法という力があるから男女差別が無さそうなのかな?
それにしても、一つ比率おかしいのありませんでしたか?
そして、それが一番向いてそうな女の子がここにいませんか?
「魔術師です。」
即決した。しかし、それを全力で阻止してくる輩が三名。
「嘘つけ、さっき魔法が使えるようになったばかりだろう?」
「マリちゃん、嘘は良くないわ。」
だって…ねぇ?
「じゃあ、剣士で。」
「ウルフ、刃物でも倒してたみたいだけど…半分以上は…。」
アイリさんが何か言いたげだ。でもアイリさん、多分剣士でしょう?
格好的にナイフで戦うのでしょう?
同じコミュニティに入れるんだよ?
そんなに職業って大事なの?
「ガッドを吹き飛ばしたものねぇ?」
あぁ、そんなこともあったね。
ならば…。
「魔法拳士は魔術師よね?」
「勿論格闘家です。」
だ、よ、ね。
わかってたよ。
「格闘家の方なのですね。珍しいです。」
エリーさん、やめて。
「女性で格闘家かい、珍しいねぇ。わたしゃ産まれて初めて見たよ。」
私は慌ててオバサンの言葉を聞かないように耳を塞ぐが、まぁ、聞こえちゃうよね。
「もう、どうにでもなれ・・・。」