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怪力少女にご注意を!  作者: アエイラ
本編
79/93

大和ノ国ノ少女ノ話Ⅶ

「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」

十二の少女の足で必死に逃げる。

だが、ここ数日ろくに食事をしていないせいで、視界は霞み、平衡感覚がなくなっていく。

力が入らない足を気力で動かし、とにかく地を蹴って無理矢理前に進んでいく。


「あっ……きゃっ!?」

地面を蹴り外した。

視界がグワングワンと揺れる。

身体が悲鳴をあげて、もう立つなと訴えかけてくる。

それでも…もう少しで…団子屋に着くんだ…。

私は震える足で立ち上がり、走り出す。

「火炎弾!!」

「ああっ!?」

突如、背後が燃え盛り、身体を焼いた。

「あぁぁ…あぐっ…うぅ…。」

痛い痛い痛い…痛いって…何だっけ…?

……痛みなんて…心さえ生きてれば……!

「ふぅぅ…!」

私は再び走り出す。

「おい馬鹿!こんな街中で火を使うな!燃え移ったらどうす…あ!!」

「逃げたぞ!」

「追え!!」

視界はぼやけていても、お姉ちゃんと何度も通った道だ。身体が覚えている。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、…。」

私はただただ無心で走った。

こんなに走るのが辛いと思ったのは、これが初めてで、最後だった。

…それでも、走れたのだ。



だが、団子屋まで後50メートル程の距離になった所で、私は気付いてしまった。

このまま団子屋に入ったら、団子屋まで犯罪者になってしまう…と。

そうしたら確実に死罪だ。

どんな場合だろうと刑務所=死なのだから。

女性受刑者は餌と呼ばれて死ぬまで犯されると聞いたことがあった。


風車(かざぐるま)のように勝手に動く足を止めようとしたが、止める力すら出てこなかった。


だから、私は団子屋を…横切って走り続けた。


…続けようとした。


だが、捕まった。


強く引っ張られたので、満身創痍の私には為す術もなかった。


『ガコン』と、音が聞こえた気がした。


そこには、嗅ぎ馴れた匂いがあった。


そして私は、気を失った。




「ん…。」

冷たい。痛い。床の冷たさだ。

「起きた?声は出さないでね。」

私は一瞬で悟って、開きかけた口を閉じる。

「うん、良い子ね。もうちょっとだけ、静かにしててね。」

そういうと、女性は…団子屋は、にこりと笑って、直ぐに団子を焼きに行ってしまった。


「さて、と。少しは落ち着いたかな?」

団子屋が戻ってきた。

「あ、あの…。どうやって…?」

小声で尋ねてみる。

「ん?あぁ、うちの主人、カラクリも好きでねぇ。回転式の隠し扉さ。まさか役に立つ日が来ようとはねぇ。…あ、愛里がここにいることはバレてないよ。私を頼って正面から入ってくれた方が嬉しかったけど、今回ばかりは助かったわ。それと、ごめんなさい。」

ガコンって音が隠し扉って事はわかったけど、後半がよくわからない。謝られる筋合いなどないのだ。

「私こそ…私がいたから…さっきも団子屋、疑われてたし…。」

団子屋は首を横に大きく振る。

「本当はね、私が奴隷屋からお前を盗みにいく予定だったんだけどねぇ…思ったより早く夫は死ぬし、菅平様はお前に興味を抱くしで上手くいかなかったんだ…。」

「そんな…私なんて放っといてくれれば…」

「すまなかった。」

また、謝られた。

「な、何で謝るの?…団子屋は何も悪くない。」

団子屋はまた首を大きく横に振った。

「…全部、私のせいなんだ。」

「団子屋の…せい…?」

団子屋は小さな声でゆっくりと話し始めた。

「私は、屍場で産まれた。」

…え?

「そして、育った。…何だって食べたさ。私は人一倍魔法が上手かった。…人を殺すための魔法がね。」

屍場では、人も大事な食料となる。

そして、各地から腹を空かせた者達が集まる。

「だから私は焼くのが上手いんだけど…って話は今はいいか。…で、あるとき、私は魔法を使って街に登った。」

屍場から這い上がってきた??

「あぁ、もう20年以上も前の話だからねぇ。あの時は警備も少なかったんだよ。」

な、なるほど…?

「そして、私の得意魔法は風だった。」

あ、飛んだってこと?

「で、街に出てきて驚いたわけ。いろんな食べ物があって、お金なんて物まであって…」

「ちょ、ちょっと良いですか?」

私は耐えられずに聞く。

「ん?」

「話し方に…違和感が…。」

「んあ?…あぁ、そうだな。これが本当の私さ。勿論、営業の時はちゃんとするわよ?」

な、何か…何というか…あぁ…。

「ざ、残念がることないじゃない!もうおしとやかでいる意味無いし~。」

「お、おじさんの前でも…その…。」

「あの人は恩人なのよ。それに、愛してた。どうしても無意識に意識しちゃって…だから、あれは素よ。」

「でも、歳の差が…。」

「そう、行く宛も無く街をほっつき歩いてた私を拾ってくれたのがあの人だった。初めての会話は、団子食わせてやろっか?旨いぞぉ!だったわ。はっきりと覚えてる。」

「…?それで、どうして好きになるんです?」

「初めてのまともな食べ物がうちの店の団子よ?」

「…それはまずい…。」

女性が特例で商売出来る、それくらい美味しいお団子なのだから。

「そ、あれは完全に団子中毒だったわ!」

何それ怖い…。

「んで、きったねぇなぁ…うちの風呂入るか?って言われて、それが貴女と同じ、12歳の時。」

え…。

「そ、壮絶?ですね…。」

「何で敬語になってんのよ。…で、この国って12歳から結婚出来るわけよ。それであの人凄くモテるし将来安定するしで大量の縁談に嫌気がさしてたらしくてね。形だけの結婚申し込まれたの。私は団子目当てで即OKしたわ!」

「うわぁ…。」

「そしたらあの人勉強からこの国の事、異国の様子、それから魔力核の取り出し方、団子の作り方まで聞けば何でも教えてくれてねぇ。私のお腹の傷、このフェイクもあの人が考えたのよ。」

「…私と同じ。」

「……前置きが長くなったわね。」

団子屋の表情がノロケ顔から一気に引き締まる。

空間が一気に張り詰める。

「貴女の姉、里美ちゃんの魔力核を取り除く係の…夫の補佐をしたのね。普通はお金とられるんだけど、あの人常連客にサービスとしてやってたから。そしたら、実力が認められて、貴女の魔力核を取り除く事になったのよ。私一人で。」

「…でも、私は魔法が使える。」

団子屋は俯く。

「私は…貴女を利用しようとしたのよ。いや、今もしている。あの時、思い付いてしまったから…。」

「それ、私に話して大丈夫なの?」

何故話してくれるのだろうか。

「…私は貴女と、外の国、異国に出ようと思ってる。」

…へ?

「……いや、無理に決まってます。」

そんなこと、出来るわけない。

「私の思い付いた計画に必要な知識は既に得ていたの。で、夫も説き伏せた。後は何人かの協力者だけだったのよ。」

「協力者?」

「先ず、男は駄目。そして、魔法が使えない女も足手まといになるから駄目。…病人なんてもってのほか。」

私はその言葉で察した。

「私は、貴女という仲間を養殖したの。」

団子屋は再び俯いた。

「…そんな、悪い言い方ばっかしないでよ。」

今ならよくわかった。

お姉ちゃんが団子屋と二人で何を話していたのか。

「里美ちゃんはとっても頭が良くてね。私の計画を色々と改良してくれて…私、どうしても…貴女達二人とも一緒に…なのに……。」

団子屋は泣き出してしまう。

「貴女が泣かないで下さい。私のお姉ちゃんです。…死んだのは。」

団子屋は気付いたのか、必死で泣き止んだ。

「…強いのね。」

「……そんなわけないでしょう。私は自分の魔法を国外逃亡なんかより復讐に使うつもりです。」

「無理よ。貴女が闇の魔法を使えるのは知っているわ。でも、無理。」

そんなことわかってる。

でも、許せないんだ。

「…何で闇の魔法って知ってるの?」

「…計画に必要だったのよ。闇の、対魔製ロープから抜け出せる人間が。里美ちゃんの魔力核は闇の魔気を帯びてた。貴女の父親も闇の魔法使い。なら、貴女も…って思ったのよ。魔力は基本的に遺伝性だから。」

「ふぅん。」

「愛里、貴女は…。」

「復讐を手伝ってくれたらいいよ。」

菅平ってやつを殺すまで私の気は収まらない。

私一人じゃ駄目でも団子屋となら…。

「出来たとしても、逃げられないで私達も殺されるわ。」

団子屋は首を横に振った。

「なら…」

「おお~い、団子屋~!里美ちゃんの死体が菅平様の屋敷の前で貼り付けにされてるぞ~!見せしめらしい!!」

私は大きめのナイフを手に取り…

「っ!!?」

私の足に団子の串が刺さった。

そして私は冷静になる。

…絶対にお姉ちゃんを取り戻す!

「何でそんな大声で言うのです?」

団子屋と誰かの会話を聞いてみる。

「こうやって一軒一軒言っていけば、必ず明日までには逃げ出した妹さんが現れるだろうって、菅平様の策だ。」

…罠だった。

危なかった。

「…で、本当に見せしめに?」

「あぁ、本当だ。綺麗で…エグかった。」

その言葉に、私は怒りで全身を震わせる。

絶対に…菅平ってやつを…殺してやる。

許さない。絶対に。


「…愛里。」

団子屋が帰ってきた。

「団子屋が何て言おうと私は行くよ。」

団子屋は私の肩に手を置く。

私はそれを振り払おうと振り返り、気付く。

「…一つ、条件がある。」

団子屋の眉間に深い皺が刻まれていた。

「…私も一緒に、連れていきなさい。そして先ずは、作戦会議だ。」

団子屋もまた、怒りに震えていたのだ。

土曜日投稿です…。

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