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怪力少女にご注意を!  作者: アエイラ
本編
78/93

大和ノ国ノ少女ノ話Ⅵ

僅かな街灯の明かりを頼りに走る。

「ヤバい…漏らす…。」

…わけにはいかない!

「多分…こっちだったはず…。」

ずっと目隠しされていた為か、街灯が眩しく感じる。

家から奴隷屋まではそこまで遠くない。

「この道…!」

家につながる道だ!


家の前に立つ。

そっと玄関の扉を開く。

静かに中に入る。

「………アイリ!?」

母がいた。

「っ!」

私は慌てて、でもお腹が限界だったので一か八かで殴りかかった。

鍛えてもいない少女のパンチが母の頬を掠める。

…母はゆっくりと倒れ、立ち上がることはなかった。


「…お母様…?」

取り敢えず揺さぶってみる。起きない。

息はある。生きている。

…なら、いっか。

私はトイレへと駆け込んだ。



グ~…。

お腹がすいた。

ずっと何も食べていない気がする。

私は例の場所からお姉ちゃんの手紙を取り出し、しまおうとして奴隷服を着ている事に気が付いた。

「…着替える?でも、…う~む…。」

着替えた所でボロいシャツしか無いんだけどね。

…お姉ちゃんの服でも着る?

いや、…。

…取り敢えず、トイレから出ようか。


「やばっ!?」

トイレから出ると、既に朝日が少しだけ顔を出していた。

…ど~すっかな。

母はまだ倒れたままだ。

…が、違和感を感じた。

テーブルの上に温かい味噌汁があるのだ。

具材多め、私の好きなお豆腐が特に多め。

しっかりとお椀に装られていた。

入ってきた時にあったら気付いていた筈だ。

「…誰か他にいる?」

辺りを窺うが誰もいない。

父が奴隷を買って飯使いとしていた可能性を疑ったのだ。

だが、この時間にそれはないだろう。

なら…。

「…お母様?」

母の手は濡れていた。

だが、母の反応は無い。

罠かもしれない。

…けど、空腹は我慢出来なかった。

「…箸まで置いてあるし。」

よくわからないけど。

取り敢えず食べる。

黙々と食べる。

久し振りの食べ物の味に全身が驚き、震え、そして喜んだ。


「美味しい。」

全部食べ終わった後に、勝手に口から漏れた。

「うん、美味しかった。」

母に向けて言う。

これから地獄を見るであろう母に向けて。

救うつもりはない。

私も私のことで手一杯だから。

これは手向けの言葉みたいなものだ。


私は部屋へ行き、着替えた。

「結局ボロいから目立つんだよなぁ…。」

でも、お姉ちゃんの手紙をズボンに入れられるだけマシだ。

両手が空く。落とす危険性も減る。

そしてお姉ちゃんの簪を手に取る。

……やっぱり私には似合わない。

これはお姉ちゃんのものだ。

私は僅かな希望的観測から、それを元の棚に戻した。


さて、どうしようか。

お日様は完全に顔を出し、街を能天気に照らしている。

「お姉ちゃんのとこに行くまでに捕まるよな…。」

影に潜ることしか今の私には出来ないのだ。

せめて夜ならどうにかなったかもだけど。

だからといってこの家にいるのも危険過ぎる。

「それに、武器も無いし。」

お姉ちゃんがいる屋敷、金持ちの屋敷。

絶対に強い護衛が沢山いる筈。

護衛はサムライとか呼ばれてて、刀を携えている。

しかも男は当たり前のように魔法を使えるし、使いなれている。

丸腰の私じゃまるで歯が立たないだろう。

「…と、なると。」

団子屋を頼るか…。

でも、おじさんが死んじゃったんだよね。

…大丈夫かなぁ。

行ったら迷惑かな。

…迷惑じゃない筈がないよね。


行く宛もないので取り敢えず団子屋へ向かう道を歩く。

お姉ちゃんとずっと一緒にいたせいで、私もこの街じゃ結構な有名人だ。恐らく直ぐにバレる。


人がどんどん湧いてくる。


普通に道を歩いていたら見つかりそうなので、出来る限り影を歩き、影に潜った。


「……?」

やけに街が騒がしい。

私は影に潜んで町人達の会話を盗み聞く。

「菅平様が里美ちゃんの妹の哀里ちゃんに目をつけたらしいぞ!」

「知ってる、そいつ、奴隷屋から逃げ出したんだろう?」

「捕まえたら120銭とか太っ腹どころか破産しちまうんじゃね~の?」

「奴隷屋も命がかかってるからな~。」

…うん。大体わかった。

……お姉ちゃんと同じ所に行ける。

魅力的ではあるが、それはお姉ちゃんを殺したかもしれない相手に無抵抗に死ぬまで犯され続けるか、殺されるかの二択にしかならない。

私がそいつを殺す。絶対に。

その為には、今捕まる訳にはいかない。

私は道の端を走った。


「あっ、鍛冶屋!…武器!!」

私は回り込むようにして影を渡り、鍛冶屋によって遮られ出来た日陰に身を隠した。

武器があれば戦えるかもしれない。

武器があれば殺せるかもしれない。

そう思ってそっと顔を出した。

…うん、見えない。

ゆっくりと影から這い出る。

影から全身を出せば手が届きそうなくらい端に、無造作にナイフが置かれていた。

…鍛冶屋のお兄さんには悪いけど、これ貰っても…盗んでもいいかな?

「ゲフンゲフン。」

「ひゃ!?」

私は慌てて影に潜り込んだ。

驚いて声が出てしまった。

鍛冶屋のお兄さんが咳払いしたらしい。

でも、影の中では息は吸えない。

私は頭だけ影から出す。

「あ~…これは一人言なんだけどさ~…。」

鍛冶屋のお兄さんはそう前置きし、小声で呟き出す。

「な~んか調子のって女性用のナイフ作っちまったんだよな~…しかも最高傑作だからな~。これど~しよっかな~…。」

物凄くわざとらしくそう呟くと、鍛冶屋のお兄さんが店の奥に行くわざとらしい足音が聞こえた。

…罠か?

私を捕まえれば大金が手に入るらしいし。

暫く様子を見ることにする。


「…あ~…死んじまった里美ちゃんに頼み込まれて徹夜で作ったナイフなんだよな~…出来れば妹とかに使って貰いたいな~…。」

……。

わかってる。

死んだのがお姉ちゃんだって事ぐらい。

納得出来ないだけだ。

そして鍛冶屋は…。

「持ってけ泥棒~。」

私にナイフを渡したいのだ。

私は再び影から這い出る。

「えっと、あの…。」

言葉が見つからない。

「…これは一人言だけどな?里美ちゃんには色々と恩があった…んだけど…その…ナイフを作ったのは俺の意思だ。そして多分このナイフは俺の人生の最高傑作だ。多分一生に一度しか作れない奇跡の武器だと自負できる。…可憐な女性がナイフ片手に草原を駆け巡ってる姿を何度も想像しながら作った。…その、なんていうか………。」

鍛冶屋のお兄さんは店の奥を見つめてあくまでも一人言という姿勢を保ちながら、頻りに身体を動かしている。耳が赤い。

「お、俺は妹派なんだよ!…その、俺の師匠が異国の人だったからかもしれないけど…お前は…。」

「えっと、じゃあ頂きますね。」

私のことじゃ無さそうだし。

長そうだったので私は言葉を遮った。

…ってか、もしかしてお姉ちゃん生きてる?

「あ、ちょ、まて!?…じゃなかった、最後の一人言なんだけどな、そのナイフの名前は『月下美人』って言ってな…異国の珍しい花の名前だ。…いつかお前も見ることがあるかもな。……それと、団子屋が待ってる。…またな。…いや、さよなら、か。もう二度と会わないことを願ってるぜ。…そして、お前が幸せになれることを…。捕まんなよ?」

そう言うと鍛冶屋のお兄さんは店の奥へと消えていった。

ちらりと見えた横顔に、涙と大きな隈が見えたのは気のせいだったのかな。

今となってはわからないけど。

私はナイフを手に取った。

それは少し重く、大きかった。



「はぁ、はぁ、はぁ、…。」

魔力が尽きた。

街には治安部隊が全力で私の捜索を行っていた。

慎重にならざるを得なかった。

影に身体の一部でも入っていると魔力を消耗する。

団子屋まで、保つ筈がなかった。


「いたぞ!!」


そして、私は見つかった。

クリックミス?で書いてたの消し飛びました…。

本当にすみません…。

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