大和ノ国ノ少女ノ話Ⅳ
私は父に連れられて奴隷屋に向かっている。
正直なところ、奴隷になれるだけマシだ。
それ以下の人達も沢山いる。
そういう人達の主食は仲間だと聞く。
彼等にとっては奴隷屋ですら神様的な存在なのだ。
一時でも買って貰えるかもという夢が見られるだけでも…。
「…お姉ちゃんは……。」
無意識に呟いていたので慌てて口を閉じる。
お姉ちゃんは団子屋を信じろと言っていた。
何か策があるに違いない。
出来るだけ高く買い取って貰えるようにと嘘をついて顔を洗うふりをして涙跡は洗い流した。
お姉ちゃん、私、頑張るから!
…お姉ちゃんも頑張ってね。
私は父の後について奴隷屋に入った。
「三銭が限界だってぇ~!」
「そこを何とかっ!!」
「知ってるぜぇ?旦那は金持ちになったんだから、俺がただで死体処理してやるだけでも充分だろう?」
「死体処理なんて屍場に投げ入れるだけだろうが!これはあの菅平様に買われた里美の妹…擬きだぞ!?」
妹です。
誰が何と言おうと、妹です。
「はいはいわかったよぉ…四銭でどうだぁ?」
奴隷屋の店主は疲れたというふうに両手を挙げて降参のポーズをとった。
「…まぁ、良いか。小銭稼ぎは飽きたからな。」
父は組んでいた腕を解いて溜め息をついた。
「なら無料で良いじゃないっすかぁ…。」
奴隷屋は項垂れた。
「そんじゃ、さいなら~。」
奴隷屋が手を振ると父も軽く手を振って帰っていった。
この奴隷屋は小さい店で、奴隷は店先に4人、店内に10人しかいなかった。
店先の奴隷には歩く自由が与えられており、比較的見映えの良い服が着させられる。
役割は服屋のショーウィンドと同じだ。
夜は店内に入れるらしい。
大きい店は上流階級の人の余り子やら質の良い奴隷が大量に手に入るが、小さい店は庶民の女児しか基本的に手に入らない為、屍場(私の言った奴隷以下の身分の者たちの巣窟)、別名、死体処理場に行って何とか売れそうな者を連れ帰るのが主なんだとか。
その際に護衛に下級ハンターを雇う為、懐事情は結構厳しいらしい。
「姉ちゃんに全部良いとこ持ってかれた哀れなお嬢ちゃん、遂に父親にすら見放されたなぁ…だからと言って父親を恨むのはお門違いってもんだ!恨むなら養分全部持ってった姉ちゃんを恨みな!」
…そんなことするわけない。
私はお姉ちゃんを信じてる。
それに、愛してる。
別に父を恨むつもりは無いが、奴隷屋の言葉には少しカチンときた。
…だが、私はお姉ちゃんを…団子屋を信じている為、堪える。
少しでも抵抗した瞬間私は殺されるだろうから。
「う~ん…これは買い手がつくかなぁ…?」
奴隷屋の口数は減らない。
「先ずはこの生意気な目を塞ぐね?」
私は目を粗い布のようなもので塞がれた。
目を開くと痛い為、開けない。
「で、服は奴隷用。」
服を脱がされ、布を着させられた。
長さは肩からミニスカート程で、ノーブラノーパンだ。
凄く恥ずかしい。
「で、お客様にご迷惑がかからないように口も塞ぐ。」
口枷を付けられただけで済んだ。
酷い所だと喉を潰されるらしいからマシといえばマシだろう。
「で、張り付けとく。」
私は木の板に括り付けられ、壁に立て掛けられた。
「ったく、小銭だが、痛い出費だよ!勃ちすらしねぇ…。せめてブスでも肢体が良きゃあ死ぬまで使ってやるのになぁ…。女でこれじゃ…需要ねぇよ…。」
男はそう呟くと、恐らくは店の奥へと入って行った。
…団子屋を信じるとは言ったけど…どうすんだろ?
団子屋は女だから奴隷は買えないし…おじさんは寝たきりで立てないだろうし…。
取り敢えず、耐えよう。
客足が途絶えた、恐らく夕方、一人三分程度のリラックスタイムまであった。そのためのこの布切れだった。その時だけは店内の奴隷も歩いてトイレに行けるのだ。だが、店主はいた。
確かに、何も食べなければ恥をかく機会は減るね。
ガラガラガラ…ピシャッ。
シャッターが閉められたような音がした。
「ふぃ~終わり~♪さぁて…俺の奴隷ちゃん達~♪今日はどんなプレイをして遊びましょうかねぇ~♪」
奴隷屋の嬉しそうな声が外で聞こえた。
気に入った女を大量に安値で買い取って抱いたり使役出来たりする、という魅力が小さい店が残っている理由なのだろう。
ハーレム状態と言うやつだろうか?
ここの店主も例に漏れずその一人らしい。
奴隷屋でその家に住む人間は少数だ。
余程精神的に病んでいる者でない限りは自宅に帰るのが普通だ。稀に奴隷の拘束された哀れな姿を見ていないと落ち着けないと言う人がいると聞いたときは何とも言えない気持ちになったものだ。
ここの奴隷屋は帰った。
それに、ここは買う気の無い奴隷にはお触り禁止らしく、笑い者にはされても興味本位で身体を触られる事が無かったのも嬉しかった。
…お姉ちゃんはこの事すらも見越していたのかな?
何はともあれ、今は夜中。
監視はいない。
つまりは魔法を試せるチャンスという事だ。
私はお腹にあるという魔力核とやらに力を込めるイメージをする。
「んっ…うぅ…。」
一瞬全身がモワッとした気がしたが、目が見えないため、良くわからない。
それに…。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…。」
疲れる。物凄く。
お腹が空き過ぎて力が入らない。
親が私を膨よかにしようと小さい頃から沢山食べさせられていたせいか、大食いになってしまった。しかも、全く太らなかったのだから、残念過ぎる。
結局この日は汗をかきまくっただけで終わった。
次の日
奴隷屋がやって来て、全員の奴隷の身体を濡れタオルで雑に拭いた。
そして、砂利の混じった水を飲まされた。
…この程度なら堪えられる。
これが私の感想だった。
…が、その考えは直ぐに変わった。
体感昼過ぎ、客と奴隷屋の会話。
「遂に団子屋の旦那がなくなったってよ。」
「マジか!?店はどうすんのかねぇ?」
「あの女が継ぐんだろ。特例出てるし。」
「まぁ、あそこの団子は文句のつけようがないくらい旨いしなぁ。」
「求婚を殺害予告で乗りきってるらしいぞ?私が捕まれば団子屋は潰れるって言って。」
「はははははっ!おっかねぇ女だわ~俺は絶対に嫌だね。」
「だよな~!」
…おじさんが死んだ。
団子屋も大変な状況みたいだ。
…助けは本当に望めるのだろうか?
その不安が、私を蝕んでいった。
「…で?あんたは女を買いに来たんだろ?この女何てどうだい?あの里美って人の妹らしいぜ?」
お姉ちゃんの名前に反応する。
「嘘つけ!無料でもいらんわ!!」
「嘘はつかねぇよぅ。姉に全部吸われたみたいだけどなぁ。」
「俺はこっちを貰うぜ。何銭だい?」
私は選ばれなかった。
お姉ちゃんはここまで計算して……。
…お姉ちゃん、ちょっと恨むよ?
「四十五銭だ。」
「まぁ、妥当か?…買いだ。」
「毎度ありぃ!」
客の足音が入り口で止まった。
「菅平様んとこは色々と激しいからなぁ…いつまで保つかねぇ…。」
その客の言葉を、私は必死に受け流した。
この日の夜。
私は魔法核に力を入れつつも、考えていた。
もし魔法の力でこの店から逃げ出せたとしても、私に帰る場所など無いのではないかと。
無駄な力を使わない方が、長く生きられるのではないかと。
そして、私はこの日、魔法の練習を少ししかしなかった。
…この諦めの正当化が、私の人生最大の後悔になるのだった。
翌日、客の会話を聞いて、私は絶望した。
ごめん。今日中に変更。
久し振り過ぎて全然進まなかったです。




