大和ノ国ノ少女ノ話Ⅱ
「毎度毎度すまんなぁ…。しかもコレまで一緒に…。」
「良いのですよ。二人とも、よく働いてくれてます。夫も二人が来るのを毎度毎度楽しみにしてますし。」
私とお姉ちゃんは時々お団子屋さんのお手伝いに行くことがあった。
「「よろしくお願いします!」」
そう言って私達は店の奥へと進んでいく。
「ま、森下さん家の旦那も変わり者だったからなぁ…子供が産めない女を棄てようとしないなんて…まぁ、美人だけど…跡継ぎの事とか考えなかったのかねぇ…。」
父はそんなことを言いながら出ていった。
「「おじさん、ただいま!」」
お姉ちゃんと声を合わせて寝たきりのおじさんに声をかける。
「おぉ…元気なのが来たねぇ…ははは…ゆっくりしていきな…。」
おじさんは前に来たときよりも更に衰弱していた。
「だ、大丈夫?」
私が訊ねてみるが、おじさんはにっこりとして頭を撫でてくれるだけだった。
お姉ちゃんの病気とは少し違うが、どちらも伝染しない不治の病らしい。
「お水取り替えますね。」
「あ、私も…というか、私がやるよ。お姉ちゃんも病人でしょ?」
「いやいや、こんなことに愛する妹の手を煩わせる訳にはいかないわよ。」
「大好きなお姉ちゃんは寝てれば良いの!」
「親愛なる妹は…」
「二人で行ってきなさい!!」
団子屋…えっと、女将さんの方に怒られた。
おじさんも苦笑いしている。
私達が戸口へと向かっていると、
「ほんと、仲の良過ぎる姉妹よねぇ…。」
「どうにか二人とも……。」
団子屋達が何かを話している声が聞こえた。
私達の仕事は団子屋の手伝い…とは言っても、おじさんの看病だ。
通常女の人の商売は禁じられているため、手伝いたくても手伝えない。
現在は団子屋(私達は女将さんの事を団子屋と呼んでいる)一人でお店を回しているらしい。本当は潰れる筈だったのだが、あまりにも人気があり、様々な人達から惜しまれた為、幕府が特例を出したらしい。
一応跡取りとなる弟子を採ろうとしているらしいが、皆三日も保たずに辞めていく。
だが、私には団子屋がわざと辞めさせているようにしか見えなかった。
「団子屋~モンスター図鑑見せて~。」
「お団子屋さん、私も洋服というものが描かれた本を…。」
「私を団子屋って呼ぶのやめない?ほら、森下お姉さんとか…」
お姉さんは困惑している。いつものことだ。
長く艶やかな黒髪はとても美しく、動きの一つ一つに華がある…とお姉ちゃんは言っていた。
お姉ちゃんは団子屋が空いた時間に二人きりで女らしさの特訓をしているらしい。
私も誘われたのだが、続かなかった。
「団子屋は団子屋だよ。」
私は当然のように返す。
「私達に馴染みのある団子屋さんですから。」
お姉ちゃんも団子屋と呼んでいる。
「いやいや、お前さん達が小さい頃おぶったりしてやったろう?」
寝ていたおじさんが身を乗り出すようにして主張する。
「「記憶に御座いません。」」
私達は首を振った。
「がーん…。」
おじさんは項垂れた。
実はお姉ちゃんは覚えているらしかったが…。
日が暮れ始め、私達は団子屋をあとにする。
「何かあったらいつでも頼りなさいね?」
団子屋…お姉さんはにっこりと笑った。
「「は~い!」」
お姉ちゃんと勢いよく飛び出す。
とは言ってもお姉ちゃんは直ぐにバテる為、私も合わせて歩き出す。
普通は女や子供だけで歩くなど有り得ない事なのだが、お姉ちゃんは有名人なので街の皆が守ってくれるし、そのお姉ちゃんが指示を出せば私も助けてくれる為、街の中ならばある程度自由に出歩けた。
「おっ、里美ちゃん、ちょっと話が…」
鍛冶屋のお兄さんに声をかけられたお姉ちゃんが立ち止まる。
私には関係の無い話だと思って砂をつついていると、
「哀里ちゃんも来て。」
と言われたので近くに寄った。
「何?」
私に手を出せばお姉ちゃんに嫌われる為、酷いことはされないと思うが、一応警戒する。
「そんなに警戒しないでくれよ…握手。」
何故か握手することになった。
取り敢えず手を出すと、軽く握られた後、手を色々と撫でられた。
しかも、ジロジロ見ている。
「…気持ち悪い。」
私は小声で呟いた。
「あ、すまんすまん、鍛冶屋やってるとついつい見ちまって…あ、これ持ち上げられる?」
今度はナイフを持たされる。
「裁縫の時使ってるから…?…重い…?」
いつものナイフではなかった。
「こっちは?」
すぐさま別のナイフが持たされる。
「軽っ!?……凄い…。」
私は感激していた。
見た目は同じナイフなのに、こうも重さが違うなんて…。
「はははっ、驚いたろ?…里美さんと仲良くなるなら先ずは妹からってね!」
鍛冶屋のお兄さんはニカッと笑った。
「貴方のような卑怯者と仲良くなる気などありません!」
お姉ちゃんはそう言ってはいるが、少し嬉しそうだった。
鍛冶屋のお兄さんは恐らく20代前半だが、両親は既に失くなっていて、こちらも一人で鍛冶屋をしていた。
どうやら落石事故にあったらしい。
「んじゃ、そういうことで、また、な。里美さん、哀里ちゃん。」
そう言うと、鍛冶屋のお兄さんは店の奥へと消えていった。
「「ただいま戻りました。」」
私達が家に帰ると、両親は既に帰って来ていた。
「遅い!どこで何をしていた!!」
父は怒っていた。
お姉ちゃんがどう弁解するかを気にしていると、父は笑っていた。
「里美、遂に、遂に、管平様からお呼びがかかったぞ!しかも明後日、あちらから来てくださるそうだ!!」
私はその言葉を直ぐに理解することが出来なかった。




