意外と楽しい地獄
「…ん?」
突如、クレアの右腕のリングが光って文字が表れた。
タスケテ
「…アイリさんからだ。」
ばしょはどこ
「アイリに何かあったの!?…ってか何よその便利アイテム!!?」
ハシャトどおり
「これは私が考えた文字を送り合える道具です。着けた人の魔力をエネルギー源にしてます。」
いまいく
「何それ欲しい!!」
マリひっすだよ
「あげますよ。登録出来るのは5人までです。私が認めた人にだけあげてます。燃費がかなり悪いので人気はありませんが。」
りょうかい
「さて、アイリさんを助けに行きましょう!」
クレアからリングを受け取る。
「ありがと!…アイリ、大丈夫そう?」
クレアは俯いた。
「かなりピンチみたいです。マリの力が借りたいらしく…。」
「よし、行こう!」
「国王様、行って来ますね~♪」
「お、おう…。」
国王様は一人廊下に佇んでいた。
「アイリ!大丈………あぁ…。」
慌てたせいで敵に気付かれてしまった。
「うん…成る程…。」
クレアも苦い顔をしている。
「マリちゃん、クレアちゃん、お久し振り♪」
マーラさんだった。
「ア~イリ???」
私はアイリに詰め寄る。
「マーラが呼べって言うから。」
「お買い物は皆で行った方が楽しいわぁ♪」
…迷惑です。…とは言えない。
「クレアちゃんは子供だからまだしも、マリちゃんとアイリはもう少し身嗜みに気を使わないと…二人とも、ちゃんとお手入れしてるの?」
少し耳が痛い…。
「例えばムダ毛処理とか、服で隠せば良いとか思ってないでしょうね!?」
「ちゃんとナイフで刈ってる。」
え?…アイリさん?
「は、肌が傷つくからやめなさい!…マリは?」
私は…
「な、なんかね?…回復魔法で消えるのよ…。」
これは謎だった。
「お、お姉ちゃんは回復って言葉の意味から考えた方が…。」
クレアは呆れたという顔で溜め息をついた。
「そういえば、クレアちゃんは今日お暇?」
暇な筈なのだが…クレアは首を振った。
「私、今日騎士達の実習訓練に付き合わないといけなくて…」
クレアは手を後ろに隠しながらにこにことして答えた。
「クレア今日暇なんじゃ…」
すかさず私は反論する。
生け贄は多い方が良い。
「ほ、ほら、国王様からこんな連絡が…」
しごとだ、クレア
こいつ…国王様を使ったな…。
「えっへへぇ♪…あっ、…国王様から直接にお仕事を頼まれちゃったので今回は…」
マーラさんは残念そうに溜め息をついた。
クレアの最初の嬉しそうな笑いは絶対に国王様から仕事を貰えたからじゃないだろうけどね。
上手く誤魔化しやがってぇ…。
「また、今度ね、早くお行きなさい。」
「は~い♪」
「クレアぁ??…後で覚えといてね?」
私は小声で呟いた。
「リングのあげたじゃないですかぁ♪」
そう言い残してクレアは逃げ…去っていった。
「それじゃあ、マリちゃん、アイリ、行きましょ…」
「ア、アイリさん!…その…今日、空いてますか?」
私とマーラさんは目を見張った。
アイリが、知らない子に声をかけられていたのだ。
「…マリちゃんのお陰で少しは怖がられなくなったとはいえ…」
マーラさんも驚いていた。
「…ごめん、マーラ、今回はこの子と遊びに行っても良いかな?」
マーラさんは困惑している。
「えっと…どういう関係?」
知らない子…16歳くらい?の女の子が慌てて答える。
「こ、この前の依頼の時に助けていただいて…」
「アイリ、仕事してたんだ?」
「当たり前。」
私はそこにも驚いたよ。
「じゃあ、四人で買い物に…」
嫌な予感がする。
「あ、あの…二人分の展覧会のチケット…なんとか手に入って…」
女の子の手にはどこぞの画家の展覧会のチケットが二枚握られていた。
「ありがとう、私、芸術鑑賞大好き。」
うっそつけぇぇぇぇぇ!!???
「羨ましいわぁ…それ、予約制なのよね?」
マーラさんは知っているようだった。
「は、はい!…わ、私、出来ればアイリさんと行きたくて…」
こ、これは…
「なら、二人で行きましょうか。」
嘘だぁぁ!??
…ん?アイリはニヤニヤしている。
…女の子の腕にはリングが付いていた。
……まさか。
「行こっか。」
アイリは女の子と行ってしまった。
「あの…マーラさんのお友達にも会ってみたいんですけど…。」
二人きりで服屋に…なんてなってしまった時にはお仕舞いなので、必死に策を考えた。
「ん~…?あ、そういえばそんなこと言ってたわね!」
インタルでちゃんと私は言っていた。
凄くファッションセンスのある女性が友達にいた筈だ。
「二人きりより、沢山いた方が楽しいですよ!」
だめ押しする。
「…そうね。誘ってみようかしら。」
第一関門クリア!!
その後、呆気なく二人のマーラさんの友達が捕まった。
「あ~…貴女がマリちゃん?…よろしく~…。」
一人はあからさまに不機嫌だった。
「夜勤後のマーラはキツいよぉ…。」
名前はベル…なんちゃらさん
夜のお仕事後らしく、眠そうだ。
もう一人がファッションセンスのある方、おっとりとしている銀髪の女性だ。
名前はフィリスさん。
結構有名人らしい。
「マリちゃん!…よろしくね~。」
何か異世界来てからのんびり系の人に初めて会った気がするね。
和むよ。
「よし、しゅっぱ~つ!!」
「お~!!」
フィリスさんは陽気な返事をした。
「マリちゃん、災難だったね!でも大丈夫、私がいるから!」
「まぁ、私らが何とかしてやるから少しだけ付き合ってくれな?」
何か、マーラさんの扱い、酷くない?
友達だからこそ言えるやつかな?
「お二人は何でマーラさんと仲が良いのですか?」
取り敢えず聞いてみた。
「私は金の匂いがしたから、かな?…まぁ、大外れした挙げ句に気に入られちまったんだけどな。」
この人、金の亡者だ…。
「あいつ、昔は『虹の魔術師』としてかなり期待されてたんだよ。身体の成長と共に魔力量も大きくなる奴が殆どだからな。…だが、成長したのは胸だけでな。」
「悪かったわね!!」
マーラさんは胸を持ち上げてベルさんを叩いた。
「やんのかコラ!」
ベルさんも胸を持ち上げてマーラさんを叩く。
「…何これ?」
「昔流行ったのよ~。」
フィリスさんが答えてくれた。
三人は同じ魔術学校の同級生らしい。
「因みに、フィリスさんは?」
「『虹の魔術師』の知名度を利用して私の名前を売りたかったの~♪」
この人達二人とも下心で近づいたのか!?
「学生時代は毎日のように着せ替え人形にされてたよな、マーラ。」
「お陰で私のファッションセンスもかなり高まっちゃってねぇ♪」
「「「………。」」」
「な、なによ?」
マーラさんは何故か照れている。
「おい、フィリス、今こそ言うときだろ!」
「ベルが言って下さいよ…貴女、癒し能力0なんですから。」
「私が言っても私のセンスが無いだけだって思われるんだよ!」
「マーラは繊細なんですから…また引き籠もられでもしたらどうするんですか!」
二人のひそひそ話から、マーラさんのファッションセンスの無さは二人の優しさによってうまれた事がわかった。
マーラさんの過去に何があったのかな?
…そんなに興味はないけど。
「この店可愛くない?」
「はいはい入りましょ~…。」
ベルさんは買い物に興味なしなご様子。
フィリスさんは…
ふーん
と、呟いた後に、
「わ~!!可愛い♪」
とってもわざとらしくマーラさんに合わせた。
一瞬で店を見定めたらしい。
「あの観葉植物、位置が悪いと思わない?」
フィリスさんが私の耳元で呟く。
「あ~…確かに、あそこならもっとこっちに…」
言われてみなければわからなかったけど。
「その通り!…マリちゃんは二人よりセンスあるね。」
フィリスさんは嬉しそうにのしかかってきた。
「マーラさんが異常なだけですよ。」
あれはもはや売れない芸術家の域だろう。
「マリちゃん!このコスメとかどう?結構オススメよ。」
正直メイクとか面倒だし要らないんだけど。
「ふ、服を買いに来たのでは…?」
「何言ってんのよ、まだまだ時間はたっぷりあるじゃない!色々な店を見て回りましょうよ。」
こうして、私にとっては地獄の時間が始まった。
「えっと、これとこれとこれとこれで、どう?」
「え、えっとね…色合いは良いと思うけど、生地の相性がねぇ…。」
いや、生地とかのレベルじゃねぇよこれは…。
ダウンコートにビキニにブルマにニーソ。
…どこに着ていく用だよ!?
「けけけっ…これとかどうだ?」
ベルさんの悪ふざけ全快のピンクの紐パンエプロンと良い勝負だ。
うん、そういうわけで、私達は服屋に来ていた。
地獄が始まってから既に三時間は経ったと思う。
私が愛想笑いを保てているのもフィリスさんとベルさんの気遣いのお陰だった。
二人はマーラさんとの付き合いがとても上手い。
二人曰く、
「なんだかんだで良い友達、というか親友?」
らしく、空気は良かった。
「これでどうだ!」
「こんなのどうかな?」
マーラさんとフィリスさんのファッションセンスバトルは、0対2でフィリスさんの圧勝だった。
というか、私も凄く気に入った。
「何か、久し振りに良い買い物した気がする♪」
フィリスさんは確かに凄かった。
「やっぱり本職コーディネーターには勝てないなぁ…。」
マーラさんはフィリスさんと比べるのもおこがましいくらいだったが、芸術性だけなら良い勝負だったかもしれない。
「マリちゃん、ちょっと高いけど買えるの?」
「お金ならありますから。」
「ん…?…そういやあんた国王の隣にいた…。」
ベルさんが何かに気付いたようだ。
「気のせい、ですよ?」
「そうです、マリさんはあんなセンスのない仮面なんて着けません!」
仮面がダサいことは認めてるけど…何か…色々と申し訳無くなるね。
マーラさん達とお別れの時間がやってきた。
「また、お買い物しようね!」
「今度は食べ物関連が良いです。」
「それは、太るわよ。」
却下されました。
「またな、金さえくれればいつでも力を貸すぜ?」
と、ベルさん。
「うち、オーダーメイドで色々と作ってあげられるから、今度依頼しにきてね?」
と、フィリスさん。
「お二人とも、ありがとうございました!!今日はとっても楽しかったです。」
私がバイバイすると向こうも返してくれた。
…思っていたよりはずっと楽しかったよ。
…そんなわけで、意外と楽しい地獄でした。
うぅ…アトリエの影響受けました…。
次回から、アイリが主人公の過去篇になるかも。
リアルに急用が入って予定が狂いまくりなので次回投稿は月曜日の昼過ぎです。




