天女の力
「起きろ~!!」
「うぅ…。」
私の上に何かが乗っている。
何か…柔らかい…。
「ご飯、ご飯、朝ご飯!!起き…」
「お前は猫か!!!」
中学時代の友人がよく猫の話をしていたのを思い出す。
「お腹すいた~!!」
「はぁ、…はいはい、作りますよ。」
卵すらまともに割れないアイリ様なので、試しに私が簡易的な朝食を作ってあげることになっていた。
「パンに燻製肉と目玉焼き挟むだけで良いよね?」
「スピィー…。」
「ちょっと!?アイリさん!!?それはないんじゃないかな!?」
起こして朝食を作らせて自分は寝ている…本当に猫だ…。
こういうのを猫系女子とかって言うのかな?
「うまうま♪」
「ねぇ、私が朝食作るの、今日だけ…よね?」
目玉焼きを作るのに、少し油を入れすぎてしまったが、初めての料理にしては出来た方だと思う。
「リリィが戻ってくるまで。」
「それ、いつになるのよ…。」
リリィさん、フラれたショックで発熱しました☆
私の回復魔法なら一瞬で治るかもだけど。
…というか、私はふってない。
無視しただけだ。
「というか、何でリリィさんがアイリの朝食を作ってんのよ…。」
「マリの親友って言ったら直ぐに…。」
「ワケわかんないよ…。」
…リリィさん、良い人ではあるから…やっぱりお見舞い行こうかな…?
「うぇへへへへ…。」
「アイリさん?…何か最近キャラ崩壊してません?」
「マリの前だけだよ。…良いよね、こういうの。」
「…何が?」
「大好きな人にご飯作ってもらうの。愛がこもってるよね。」
「すやすや寝息たててる人への憎しみしか入ってないと思うんだけどな~。」
「お布団が悪い。」
「なんでだよ!!」
「…じゃあ、今度私が作ろうか?」
「遠慮します。」
アイリのは教えれば上手くなるとかのレベルじゃないから。
昨日の夜、私はそれを確信した。
勝手に踊り出す肉。
料理中に急激に変色し出す野菜達。
何故かベッドまで飛ぶパン。
お約束の暗虹色をしたスープ。
…口に入れた瞬間、固まったんだよ!?
でも当の本人は自信満々なので私が作ると言ってやめさせたのだった。
食べ終わったので、私は取り敢えず病院に向かうことにした。
アイリは昨日行ったらしいのでギルドに向かうらしい。
そういえば、王都のギルドは見た感じとても大きかった。
行ってみたいね!!
「行ってらっしゃいのキス。」
「しないからね?…いってきます!」
「いてらー。」
あの後キスはしてない。
同じ布団で寝てはいるが、特に何も無いよ?
「病院独特の臭いが…しないね。」
なんでだろうね。
「あら?…天女様!?」
たまたま教会にいたらしい女の人が私に近づいてくる。
その瞬間、病院内の視線が一斉に集まった。
「ひ、人違いです…。」
そう言って、私は慌ててトイレに逃げた。
「最悪…ノープラン過ぎた…。」
「すみません、配慮が足りませんでした。」
「ひぇっ!?」
目の前に、いた。
「いや、貴女が来ちゃ、駄目でしょう!?」
「ちゃんと人違いアピールしてから謝りに行く体で来ましたので、大丈夫な筈です!!」
「さいですか…。」
大丈夫…なのかな?
「…で、何の用なのですか?」
「天女様なら…もしかしたら治せるかもしれないと思って…。」
「私の名前はマリ!!…あと、そんな力無いから。」
一人を治したらまた次も頼まれるかも知れない。
私が居なかったり、断ったりしたら、恨まれるかもしれない。
…そんな面倒なこと、するわけない。
「…そうですか。すみません、変なこと言ったりして…。」
「因みに、その子は?」
「私の弟なんです…。あの日も、弟の病が治るようにとお祈りに…。」
そういえば、聖アイリス様とやらはどんな病でも治せたとかなんとか言ってたな…。
「ふぅん…どこにいるの?」
「この病院の…地下隔離室に…。ザラ様が力を尽くしてくれてはいますが…。」
「ザラさん!?」
あの、ザラさんかな…?
「ザラさんって…医療魔術のすごい人だよね?」
「はい!…ですが、……。」
あ、ザラさんでも駄目なやつだ。
「取り敢えず、ザラさんに会いたいから連れてってくれると嬉しいな。」
「はい!勿論です!!」
私達は除菌魔法を浴びた後、厳重に閉ざされた扉を開け、奥へと進む。
「暗いね…。」
明かりは小さなライトだけだ。
不謹慎だが、少し怖かった。
「ここです。」
私は一番奥の一室に通された。
「あ、ザラさん!」
「ん?…おぉ…マリか…。」
「お久しぶ…」
私は固まった。
男の子は…全身真っ黒になっていた。
「黒侵病…もしくは死染病などと呼ばれている、珍しい病気じゃ…。死亡率100%の、な。」
「100…。触れても平気なの?」
「あぁ、伝染はしないとわかっておる。…逆に、それくらいしかわかっていないとも言える…。」
「呪いとかじゃないの?」
私にはこれが病気だとは思えないが…
「それは無い。呪いなら術者の気配がする。」
…違うらしい。
男の子は苦しそうな表情で眠っていた。
「…取り敢えず、ワシが眠らせた。」
痛みではなく苦しみなため、痛み止めの魔法が効かなかったらしい。
「少し、触るね。」
体温を感じない。
私は新技を試してみる。
目を瞑り、意識を集中させる。
「ふうぅ…。」
器官、組織、細胞、…。
男の子の身体を意識する。
「…身体が、別のものになってる…?」
「あぁ、臓器も何もかもがなくなってしまうのだ…。」
「…違う、食べてるんだ…。」
「何!?生き物なのか!?」
「いや、…侵食しているって言った方が正しいのかな…。これ、魔力を持った癌だ…。」
「癌だと!?」
「うん、多分複合的な理由が重ならないと起きない最悪のケースなのかも…例えば、癌の近くに魔力詰まりが起きたとか…。」
「魔栓のことか?」
知らないけど、多分そうかな?
血栓の魔力版?
「変異した癌が魔力を求めて進軍してる…的な感じかな?」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「雷魔法の応用だよ。」
電気をビビビッとして私の意識と男の子の身体をリンクさせた…的な?
意外と万能だよね、私。
「…だが、もう治せないということ…か…。」
「いやあぁぁぁ~!!!」
「…、祈ってあげる。天女の私が!!」
私は男の子のお腹から微弱の回復電流を流し、そこにチート回復魔法を貯蓄させる。
貯まった回復魔法は、ゆっくりと漏れ出していく。
…これで、3日後くらいには治ってるだろう。
そして、一応祈る。
「…後は、お姉さんの弟さんへの想いの力しかないでしょう。大丈夫、想いはきっと、通じますから!!」
「…はい、…そうですね!…お気遣い、ありがとうございます。」
お姉さんはお辞儀をしてくる。
「…早く元気になると良いですね。」
…他に何と言えば良いのだろうか。
ザラさんには耳元で呟くようにして一応教えておく。
「今回は私がバレないように治しましたけど…早く治療出来るような何かを考えて下さいね。」
あえて、『魔法』ではなく『何か』と言ってみた。
「なんじゃと!?」
「…私、天女ですから☆」
「…お主は…何なのだ…。」
「…平和に暮らしたいだけの女の子だよ。誰にだって秘密の一つや二つくらいあるでしょう?」
「まぁ、そうだが…。」
「数日は安静にさせといて下さいね♪」
私はドアを開ける。
「…それじゃあ、私はこの病院のリリィさんって人に用があって来たので…これで失礼しますね。」
「あぁ…。」
「ありがとうございました。」
…家族ってあんなに心配するものなの?
お姉さん、隈が凄かったよ…。
…姉弟だから、だよね。きっと…。
私は何とも言えない気持ちで地下を出ていった。




