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怪力少女にご注意を!  作者: アエイラ
本編
59/93

デートとフィナーレ

「やっほ~アイリん♪」

「や、やっほ~…抜けてきて良かったの?」

「え?…いいのいいの。私もちょうど…」

私は向こうの世界の実家の近所のおばさんが使っていた、女性特有のありきたりな返事をそのまま使おうとして言葉がつまった。

「なにそれ。」

「あ、あ~…。」

…なれないことはしないに限るね。

「ん~…普通の女性になろうとして失敗したの。」

「へんなの。」

「アイリさん?…先程から少し冷たくありませんか?」

「え?…ごめん。……何か、嬉しくて。」

「そ、そう?…ありがと♪」

…いや、デートみたいな雰囲気になってるんだけど!?


「…えっと、何処行こうか?取り敢えずあの子達から少し離れて…」

「ねぇ、どうやって抜け出してきたの?リリィが何かしてたけど。」

アイリは遠くから見てたから会話を聞いていなかったんだね。

「えっとね、リリィさんが私にデートを申し込んできたから、他に相手がいるの的な感じでバレないように迂回してここに来たの。」

「え、…じゃあこれはデート?」

「いや、…友達付き合い?…だと、何かイメージ悪いな…。」

「私達、付き合ってるしデートで良いんじゃない?」

「何でそんなに堂々と胸張って言えるのよ…。」

そんな事実ありませんからね~。


「…で、どーする?」

「うむ、取り敢えず何か奢って♪」

アイリはここぞとばかりに普段は滅多に見せないであろう全力スマイルを見せてくる。

うぐっ…可愛すぎかよ…。

…なんて、口が裂けても言えない。

アイリが調子にのりそうで…いや、違う。

追い打ちを掛けられたら…私がおかしくなりそうだからだ。

「…今回だけ、だからね?」

お金はある。…凄く。

「…同居しない?」

突然の告白!?

「…お金目当てでしょう?」

私は目を細めた。

「うん、マリは私の理想の彼女だからね。お金、性格、容姿、欠点が見つからない。」

…まず、女の子が理想の彼女像を持ってることに突っ込んじゃ駄目かな?

「例え、養わないとしても?」

「マリは優しいから大丈夫!必ず恵んでくれる!」

凄い自信だね。

…でも何かさっきからニートの親になった気分なんだけど。

「アイリが駄目な子になっちゃいそうだからやだね。」

「…う~ん、じゃあせめて、一緒に寝よ!!」

「変なことしないなら…考えるけど。」

「…一緒に寝よう?」

「いや、だから…変なことしないなら…」

「一緒に寝よう!?」

「変なことする気満々じゃん!!」

下手くそか!?

…この子はもっとうまくやれないのかな?

それとも、単なるジョークかな?

「女の子が一緒に寝るんだよ?…することは一つでしょう?」

…ここで、食い下がってくる?

「いや、しない人のが多いと思うな~!?」

異世界に来てから女の子に襲われまくってるから半信半疑なところはあるけど、私は間違ってはいない…筈だ。



「…ん?ここは…教会?」

「うん、『聖アイリス大聖堂』ってとこ。世界で一番大きな…そして、不思議な教会。」

「…綺麗だね。」

建物全体がライトで照らされ、神々しく光輝いている。

「うん、丁度良い。街中は明るすぎる。」

街全体がイルミネーションや色のついた街灯で照らされているため、確かに眩しかった。

ここは幾つかの黄色いライトが白い大聖堂を照らしているだけだ。

…でもそこに出来る影やライトの優しい光がとても幻想的で綺麗なのだ。


私達の近くにキスをしているカップルを見つけたので、

「アイリ、私達も…キス、してみる?」

と、言ってみた。

勿論冗談で言ったのだが…

「んっ…」

アイリは目を瞑って私に顔を向けた。

「あ、いやいや、冗談だからね!?」

アイリは聞こえていないかのように迫ってくる。

「ストップ!…アイリさんストップ!!」

私はアイリを止める。

「…酷いよ。私の乙女心を踏みにじって…。」

アイリは今にも泣き出しそうな顔をする。

「いや、そのっ…ごめんって…。」

「キスしてくれるまで許さない。」

一変して怒り出す。

…この子、実は表情豊か?

私の前では、みたいだけど。


「あのぅ、アイリさん?…何か以前会ったときと随分違うのですけども…その…寂しいとか…友達付き合いがわからないとか…そういう類いでのあの行動だったん…だよね?」

この子もリリィさんの同類だったら…私はどうすれば…。

「そうだったけど…マリは友達が多いから…その…マーキング…的な感じで?…ほら、特別な何かが欲しいじゃん…。」

「それで肉体関係とか既成事実的なのに走るのはどうかと思うな~…。」

…う~ん。何とも言えないけどさ。

「…取り敢えず、教会入れるみたいだし、入ってみる?」

「結婚式?」

「…もういいから。」



「あら、珍しいお客様だこと。死神さんに…マリさん、でしたっけ?」

「何で知ってるの…?」

教会関係者に良いイメージ無いよ?

「私はお偉いさんですからねぇ。」

自分で言っちゃうあたり、何かあれだ。

「ふふっ、私はイスカ・フィリーブ・リゼン。アイリス様を讃えてる系教会のトップよ。イスカ様でも、イスカさんでもいいわ。」

…トップですか…怖いですね。

…マジで凄い偉い人だった。

「ところで、何の用です?」

「ただの観光です。」

私は面倒事を回避するためにアイリの手を取って逃げようとする。

「何も逃げなくてもいいじゃな~い♪」

出口にイスカさんがいた。

「幻影魔法、実体は無い筈。」

後ろにはしっかりとイスカさんがいる。

「「ちょっとお話しましょうよ~♪」」

「なっ!?」

「えっ!?」

二人から声がする。

二人のイスカさんはゆっくりと歩いて近付いてくる。

「ア、アイリ?…これはどうすれば…。」

「下手に殺せないし…。厳しい。」

…あんたは死神ですか!?

あぁ、死神って呼ばれてるんだっけ。

「なら、これで!」

私は指から電撃を飛ばす。

バチッ!

幻影は弾けて、消えた。

というか、明らかに当たったから、幻影じゃない?

「…レミュが言ってた通りね。まさか…本当に…?」

イスカさんのレミュという言葉に引っ掛かった。

「レミュレット先生…?」

同名の人はいるだろうが、あの人は私のことを天帝とか言ってたし…。

「あぁ、今は教師やってるんだっけ?…私の妹、レミュレット・リゼンは。」

「妹!!?」

「でも、ちょっと性格にギャップが凄いから…半ば追い出される形で家でしちゃったんだけどね。私とは結構仲は良いのよ?」

いや、まぁ、『悪魔』だもんね、渾名。



「…少し、試して欲しい事があるのよ~。」

そういうと、イスカさんは大聖堂の礼拝所、本来なら立ち入れない所に私達を招き入れた。

教会は、死神が教会にいると聞いてか、ギャラリー的な人達が増えていた。


「因みに、アイリスさんってどういう方…何ですか?」

私は何やら作業しているイスカさんに話しかけてみた。

「ふふっ…貴女は何も知らないの?」

「あ…天帝って人が天使とか呼ばれる人達を率いてこの世界を統一した…とかいう所までなら。」

「ふぅん…続き、聞きたい?」

「アイリスって人の話なら。」

「わかったわ。」

アイリも黙って耳を傾ける。

「天帝と天使達は雷魔法しか使えなかったから、雷魔法こそが選ばれし者の力だ、的な感じで結構な圧政を敷いていたみたいなの。で、各地から反発されて六つの属性の連合軍に負けちゃうの。その天帝の妻がアイリス様。アイリス様は献身的な女性で、天帝が遠征に出るときは常に飲食物を提供し、天帝が寒さに震えるときは進んで火をおこし、天帝が床に伏したときには直ちに駆け付けこれを治した…って言われているわ。この姿が女性の理想像として祭り上げられたのがうちの始まりって聞いてるけど…この建物、明らかにそれ以前からあるのよね~…。っと、話がそれたわ、ごめんなさい。えっと、彼女なくして天帝はこの世界を統一することは出来なかったって言われてるくらいに聖女アイリス様は凄い方なのよ!!…まぁその後、天帝と天使達、そしてアイリス様も六つの属性の連合軍にこの世界から追放されたとか何とかって言われてたりもするけど…うちの教会が推してるのはアイリス様が新しい世界を造って、天帝や天使達だけを招いたって説。…因みに一番メジャーなのは天帝がこの世界を見限って元の世界へ帰っちゃった説かな。彼ら、何処から来たのか謎だし。…貴女は何か心当たりはないのかしら?」

いや、正直色々と困惑していてヤバい。

イスカさんもアイリも私のいた世界のことは知らないし、言って良いのかわからない。

「…わからない。」

嘘はついていない。

…天帝の子孫な可能性微レ存!?

まさか…ね。

「あと、アイリス様が聖女って呼ばれる理由はね、何でも治せちゃう凄い回復魔法が使えたらしいからなの。」

ビクッと身体が震えた。

…スッゴい心当たりがあるのですがそれは。

これ、少しちゃんと考えた方が良い系な問題だったりする感じ?

「…少し、考えて、後で私なりの仮説をたててみようかな…そういうのも、楽しみ方の一つ、ですよね?」

「楽しみ方って言い方は誉められたものじゃ無いけれど…楽しいわよね。」

イスカさんは作業をしていたので私の表情の変化に気が付いていなかったみたいだが、アイリは心配そうに私を見ていた。

「…私も、わからないよ。」

私の呟きをアイリは聞き取ったらしく、

「マリはマリだよ。」

と、優しく肩に手を置いてくれた。



「さってと、これなんだけど。」

大きな水晶玉が出てきた。

「これね、どうにも遥か昔からこの教会にあるらしくってね?…教会全体に繋がる回路的なものが通っているの。…で、300年間ぐらいの間、様々な人が魔力を流し入れたんだけど反応がなくってね。学者がいうには特別な魔力が必要とかで…まぁ、諦めてたんだけどね。…試しにやってみて。」

…私は触れてみる。

魔力をゆっくりと注ぎ込んでゆく。

ピシッ

ピシピシッ

水晶玉は淡く輝き始める。

イスカさんは目をキラキラさせている。

…やめさせては貰えないんだろうね。

なら、いっそ、思いっきり!!

「はああぁぁ!!!」

大量の魔力を注ぎ込む。

回復魔法で魔力精製速度も上げる。

バシュウゥゥゥ…


カッ!!!


その瞬間、教会が 輝き出した。

青に、緑に、黄金色に。

「やはりこれは…天帝がいた時代の……マリさん、貴女は…」

「わからない、わからない、わからないよ…。」

私以外に向こうの世界から此方に来た人はいないのか。

色々な説があったが、どれが事実なのか。

私は、私のいた世界は、何なのか。

色々な情報が頭のなかを駆け巡り、痛い。

「…貴女が何者であろうと、どうもしませんよ。天帝の子孫がいたって不思議ではありませんしね。アイリさんも仰ってたではありませんか、貴女は貴女だと。」

そんなことより、とイスカさんは続ける。

「天帝とマリさん、アイリス様とアイリさん…とても運命的だとは思いませんか?」

確かにアイリとアイリスって名前は似てるけど…「こじつけ過ぎない?…でも、そうだね。考えるのは後でだって…。それより、今は。」

私はアイリの手を握る。

突如輝いた教会に興味を持った沢山の人々が教会に押し掛けて来ていて、内も外も凄いことになっていた。

そして私達のいる場所は、教会内からならよく見える。

…だからこそ、私はアイリの手を握り、振り返る。

アイリが、中心で輝く、大きな水晶玉を光らせた者の、神の祝福を受けたとでも思われていそうな人の、大切な人だということを示すために。

見せ付けるように抱き合う。

そして…

「乙女心を弄んじゃってごめんね♪…んっ。」

「んっ…。…え……。」

それは、ほんの一瞬の重なり合い。

「…これじゃあ本当にデートだね。」

「マリ…大好き…。」


こうして、教会の壮大なライトアップ?によって、国王の誕生祭は壮大に締め括られたのであった。

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