悪魔の噂とアダルトコーナー
「お祭りの準備、手伝わなくていいのかな?」
私とクレアは小屋でお菓子を食べて寛いでいた。
「いいんですよ、普段から私に頼ってばっかりな罰です!戻ったらどーせあっちにこっちに引っ張り凧なのわかりきってますもん…私みたいな幼い女の子を酷使し過ぎなんです!!」
指南役を任されるくらいだ。
余程便利な魔法を沢山使えるのであろう。
「あ、じゃあさ、痛覚…感覚を無くす魔法って何か無い?」
私はふと思い付いた。
私の弱点の内の一つ、痛みで気絶した場合、回復出来ずに死ぬ可能性があること。
これの対策が欲しかったところだ。
「あることにはありますけど…感覚が無くなったら反応が遅れますし、そもそもそんな魔法使う機会が余り無いですからねぇ…。どこぞの国は兵士達に使いまくって特攻させてますけど…この国では医療魔術として登録されている魔法ですので、医療魔術の第一人者、ザラおじさん辺りなら使えるかもですね。…後は、レミュレットさんとか?」
兵士が自爆特攻してくるとか…怖すぎだよ…。
「う~ん?ザラさんはわかるけど…何でレミュ先生?」
確か…あの人悪魔とか呼ばれてたけど…。
「おぉ!お二方とも面識あるのですか?凄いです!…話して良いのかわかりませんが…レミュレットさんの得意魔法は『操り人形』って魔法で、敵の感覚を無くして、リミッターを解除した状態で操り、敵を心体共に破壊し尽くす…恐ろしい魔法なのです。」
うわぁ…えげつねぇ…。
「それで、悪魔とか呼ばれてるの?」
クレアは顔をしかめた。
「積み重ねですかね?…私も一昨年とあるドラゴン討伐の任務に同行したのですが、ドラゴンの子供を操って親をなぶり殺していく様は…うぅ…。」
それが今や教室で笑顔を振り撒いている。
…何があったのだろうか。
恋かな?
「流石にそろそろ、戻りますかね?」
私がお菓子に伸ばした手をクレアが止める。
「食べ過ぎですよ…夕食もあるのですから、もう駄目です!」
小さな女の子に諭される18歳女性の図。
…なんとも情けない。
「でも、この球体、凄いね!」
「私の保存魔法のお陰でこの国がやっていけてると言っても過言ではありませんからね!」
クレアはドヤッと胸を張る。
…やっぱり、ミレーヌより大きいよね?
き、気のせい…か…な…?
「さてと、『チェンジ』」
私は何かと入れ替わった。
「ここは…?」
どうやらお城の部屋のようだ。
…恐らくクレアの。
部屋の中は女の子らしいピンクで染まっていた。
「何か無いかな~♪」
幼女の部屋にエロ本などあるわけもなく…
エ本…絵本は沢山あった。
「何勝手に見てるんですか!」
クレアは少し顔を赤くして私のももをつねった。
「いっ…ごめんって…やっぱりクレアもお姫様に憧れたりするの?」
沢山ある絵本の中の一冊に、お姫様のお話があった。
「お勉強とか政略結婚とか…色々と大変そうなので今は別に…。何も知らないって幸せなことなのですね…。」
うわっ…幼き身で色々と悟り過ぎじゃ無いかな?
「ま、まぁ、大人になったってことだよ!」
「そうですよね!…私はお手伝いに行く予定ですが、お姉ちゃんはどうします?」
私は…無知過ぎて迷惑かけそうだね。
「私は少し図書館にでも行ってこようかな?」
この国で一番大きな図書館!
「わかりました。七時には帰ってきて下さいね。…後、門番にはギルドカード見せれば王室関係者として、マリさんの名前でも通れるようにしときます。」
一々変装しなくて済むと?
…すっごく有り難い!!
「お願い!」
私は荒野の小屋で着替えていたので、今は完全にマリ状態なことに今気が付いた。
「そういえば、変装忘れてた…。」
「…そういうことがあっても大丈夫なように、です。ただし、自分の部屋に入るときは、くれぐれもお気をつけ下さい。自己責任ですからね?」
…そこは、何とか頑張る。
「領土領空了解!」
異世界では誰も理解出来ない言葉なので滑らない。
その代わり、首を傾げられる。
「それじゃあ、行ってらっしゃい!」
完全に保護者化しているクレアに見送られ、私はお城を出た。
「う~!!…お城はキツいねぇ…静電気に常に気を使わないといけないし…金属多すぎ~!!」
私は愚痴をこぼしながら図書館に向かった。
「ふぇ!?…えっと、これを。…どうぞ、お通り下さい。」
ギルドカードを渡し、女性従業員がスキャンしたら、女性は驚き、カードを返すと同時に、首に謎のカードを掛けさせられた。
「これは…?」
「?…ご存知ありませんか?…それがあれば、この図書館の何処でも、自由に出入り出来るようになっております。…本は大切に扱って、元あった場所に返してくださいね?」
ギルドカードに王室関係者と書かれたせいで、権力レベルが上がったのかな?
RPGに権力レベルとかあったら何か嫌だね。
…まぁ、私は勇者なんかじゃないし、便利だからいいけど。
「本が…沢山…ハリポタな世界だよ…。」
権力を行使して、一通り色々な部屋を回ってみた。
中でも一番凄かったのが、一流魔導師しか入れない、魔導書のみの部屋だった。
高さは200メートルを超えていそうだ。
普通、重さで潰れそうだが、そこは魔法の力らしい。
そして、皆階段を使っていなかった。
「ここに来る魔導師達のレベルなら、浮遊魔法なんて当たり前に使えるからねぇ♪」
マーラさんが教えて…ん?
「マーラさん!?」
「し~…静かにしないと。」
「あ、すみません…。」
マーラさんも図書館に来ていたらしい。
「ガッドもトーヤも誕生祭準備のアルバイトよ?」
当然だ、というように、マーラさんは言った。
「マーラさんは…?」
「女性がやることじゃ無いわよ。」
…そ、そうなのかな?
マーラさんは何か習得したい魔法があるらしく、別れることになった。
因みに、この図書館は一部を除いて貸し出し禁止なので、コピー魔法の類いや、記憶魔法、暗記などで魔法を覚えるのだそうだ。
私も、一つの魔導書を手に取った。
「ふふふっ…。これは便利な魔法だねぇ…。」
私は面白い魔法を見付けて、一人悪い笑みを浮かべていたのだった。
「わ!もうこんな時間!?」
私が大体魔法のイメージを掴んだ頃には、時計は六時半を指していた。
「早く帰らないとね♪」
「お待ちください。…此方に、マリさんにオススメの本があります。」
帽子を深く被ったお姉さんが出口付近で待ち構えていて、私はその人に捕まった。
…あれ?
名前を知られている!?
お姉さんに手を引かれながら、私には緊張が走っていた。
もしかしたら、悪い人かもしれないからだ。
…何故か私の名前を知っていて、帽子で顔を隠している。
私は女性に連れられて、まだ行っていなかったフロアに入った。
一通り回ったが、この部屋は入ろうとは思わなかったとこだ。
…アダルトフロア。
そして、お姉さんの声で、正体がわかった。
「…リリィさん、急いでいますので、また今度で。」
「え!?…いつからバレてた?」
「アダルトフロアに入った時から。」
「…それじゃあ、私が変態みたいになっちゃうんだけど。」
「その通りでしょう?」
リリィさんは帽子を脱ぎ、正体を現した。
リリィさんは美人だ。
綺麗で可愛くてかっこいいお姉さん、勿論アダルトフロアにいた殆どの人間は一斉に振り向く。
リリィさんは気にせず、アダルトフロアを突き進む。
「ちょっと!?…急いでいるので、用件は早めにお願いしますよ。」
「…あ、あったあった!…ここの本、一人二冊まで借りられるんです。私が奢りますから、是非、この本を読んでみて下さい!」
リリィさんが進めてきた本。
目次ページから、修道女の悲哀と女性同士の素晴らしさが書かれた本だと、容易に予測できた。
「お城に…これを持っていけと?」
「え?…お城?」
あぁ、リリィさんは知らないのか。
一応お客の身分で、お城にアダルトな本を持っていく人など…それこそ、ある意味勇者だろう。
「色々あって今日はお城に泊まることになってるから…それで急いでるんです…と言うわけで、またいつか。」
「あ、…。」
私はリリィさんを置いて図書館を出た。
「ふぅ…何とかギリギリセーフ…。」
「アウトですよ。」
時計は七時十分を指していた。
…でも、リリィさんのせいだし。
…時間に余裕を持たなかった私も悪いけどさ。
「でも、王様がまだお仕事中みたいですし、夕食はもう少し後になりそうですね。」
「やっぱり、美味しいんだよね?」
「凄く、美味しいです!」
…とっても美味しかったよ。
でも、王族やお偉いさん等、私達以外の来客も数名いて、小パーティ状態だったので余り味わえなかったよ。
…少し、インスタール家でのエリーとサヤの気持ちがわかった気がした。




