文系脳万歳!!!
「ねぇ…普通にメッチャ人がいるんだけど…?」
中庭は中庭と言うのかわからないくらい広くて、兵士達が鍛練とか何かの練習をしていた。
「少ない方ですよ?今はパーティの準備とかに人手を割いてますから。ここにいるのは腕の立つ護衛隊に任命された方達です。…あと、隠密機動部隊。」
隠密機動!?
…やっばい、超かっこいいじゃん!!
試しに私もなれないか聞いてみると…
「隠密機動の意味、知ってます?」
まぁ、派手にぶん殴ってる所見せちゃってるからなぁ…。
ナイフとか力んで消しちゃいそうだし。
「クレア様!!…どうされましたか?」
兵士の一人がクレアと話している。
「全員ここから移動をお願い出来ますか?」
…ちょっと待て。
それ、結構迷惑かからない?
「あ~…まってまって…」
「うわっ!?不審者だ!!?」
おい…。
「あの…キララって…聞いてない?」
「へ?…あ~…。ピンクの仮面…あぁ、失礼いたしました!想像以上に変な…あっ、…個性的な仮面だったもので…」
「もういいよ。」
こりゃ面倒だなぁ。
私を初見の人も多いのか。
「マリ…あ~…うっうん。えっと、キララさんを今度馬鹿にしたら死刑ですからね!貴方も立派な兵士でしょう?…笑いそうになったら目を反らして耐えなさい!!」
クレアはいつもお姉ちゃんって呼んでくれてんじゃん!
何で間違えるのよ!
…というか私、クレアに凄い馬鹿にされた気がしたんだけど、気のせいよね?
「で、続けるね、…私の魔法の最大火力が見たいなら、ここじゃ危険だよ?」
「そうなのですか!?」
「魔術師だからね!!!」
折角の決め顔が仮面で隠れてしまうのは残念だね。
「じゃあ、近くの荒野にでも行きますか?」
「そんなところあった?」
近くに…荒野?
「直ぐに着きます。」
そう言うと、クレアは地面に何か難しい…魔法陣のようなものを何処からか出したステッキで描き始めた。
「乗って下さい。」
いつになく真面目な表情で、クレアは呪文を唱え始める。
「さぁ、入れ替われ!『チェンジ』」
気が付くと、荒野にある小屋にいた。
荒野…小屋…ふふふっ…。
…そこには沢山のお菓子が、謎の球体に覆われていた。
う~ん…お菓子って言っても、桜餅みたいなやつだ。
シュンッ
突如、そのうちの1つが消えたかと思うと、クレアが現れた。
「入れ換え魔法です。最近生き物も入れ換えられるようになりました。大きさ、重さも関係無しに。対価交換の原則敗れたり~…ですね!」
対価交換の原則とはこの世界の魔法の原則。
デメリットありの魔法とか、ほら、相応のリスクが必要…とかのあれ!
この魔法も以前は同価値の物しか入れ換えられなかったようだ。
「半径10㎞までしか入れ換えられないんですけどね!」
…それが、近いの範囲なんだね。
「さぁ、お姉ちゃんの魔法!見せて下さい!!」
何というか…難易度が跳ね上がったね。
窓から外に出る。
…嘘だよ?
ドアから外に出る。
「広っ!?」
島っ!!
…いや、高校時代に一時期クラスで流行ったのよ。
「私のお気に入りの場所なんです!」
…所々にえげつない痕がある。
この子、将来が怖いね。
「…雨を降らす魔法とか無い?」
雨が降っているのといないのとでは、まるで威力が違うからね。
「無いですね…地道に雲を作ったりするしか…。」
あったら悪用されること間違いなしだしね。
「…じゃあ良いや。雲さえあれば出来るし。」
私は手を雲に向かって突き出す。
「ふぅ…はぁ!!」
手から伸びた雷の線が雲に向かって伸びてゆく。
バシュン!
「よしっ!繋がった!!」
後は雲の中を色々とコントロールして…
…うん、こういうのは理論じゃ無いね。
感覚でやろう。私も原理知らないし。
文系脳万歳!!
「…さて、と、もう少しかな?…気を付けてね。」
「なっ…何をするつもりなのですか…っというか…まさか…」
「身体が溶けるから、バリア張っておいた方が良いかもね、あと、鼓膜…えっと、耳が壊れるぐらいの音がするから気を付けてね!あぁ、直に見ると目もやられるから…」
「ひいぃぃぃ~!?」
クレアは完全防御体勢に入る。
…これ、私が魔法使う意味無くない?
でも、落とす!!
「響き砕けろ!『天帝の怒号!!』」
ギュオ~ン
ジュワァ…
荒野の一部分が溶けている。
私の耳が音を捉え、目が見えるようになってからの図だ。
雲は役目を終えたかのように無くなっていた。
この魔法にはリスクがある。
まず、身体が溶ける。(物理)
近くに落とすと、溶けた身体は治せても、服が直せなくなって最悪全裸となる。
初めて出来たときにしてしまった失態だった。
次に、目に激痛が走り、見えなくなる。
更に、耳に激痛が走り、聞こえなくなる。
まぁ、身体が焼け溶ける痛みで中和されるが。
とにかく、チート回復魔法あっての魔法だった。
「クレア、生きてる?」
彼女の防御魔法は凄かった。
「…お姉ちゃんこそ、大丈夫?溶けてたけど。」
クレアはドン引き…というか、へなへなしている。
「私が一番得意な魔法は自己回復だからね!」
自己…だ。
他人を回復する場合は飴が沢山必要になるからね。
「あんなのが直接当たったら…死にますね。」
「普通は近くいるだけで死んじゃうわよ…。」
クレアの防御魔法が凄すぎるだけだ。
「なんでそんな危険な魔法を私がいるのに使ったんですか!!」
「クレアなら何とかなると思って…ほら、最悪回復…あっ無理だ…。」
アイテム袋がやられると、中の物は取り出せなくなる。
それを知ってさっきの小屋に置いてきていた。
私は、飴を食べないと他人は回復出来ない。
つまり…
「ほんと…ごめん。クレアが凄くて助かったよ…人殺しになる所だった…。」
急いで小屋に戻って飴を取りに行けば何とかなるかもだけど。
「特別に許してあげます。…マリお姉ちゃんが凄いのはよくわかりましたから。ところで、どういう原理なんですか?というか雲まで飛ばしたあれは何ですか!?」
まぁ、興味持っちゃうよね。
「雷魔法。電気の魔法だよ。」
バチバチバチ
私は少し見せてあげる。
「うぅ…トラウマです…。」
「ご、ごめんって…。」
私は泣きそうな小さな女の子との付き合いかたを知らなかった。
あぁ…スマホ欲しい…。
ネット見たい…。
「それにしても、雷魔法って…神話の中だけの話じゃなかったんですね!」
あぁ、出たよ…変な神話。
「それに、聞いたこともない言葉の魔法名でしたし…」
つい日本語で叫んでしまった…。
「もしかしてですけど…」
「違うよ、多分。私は天帝なんかじゃないよ。」
私は普通の女の子だ。
「…でも、真似出来そうもない魔法ですね。」
クレアはしょんぼりしている。
「魔力の質自体が違うみたいだからね。」
でも何で私はこんなチート性能になったんだろうね。
「変わってますね。故郷は何処なのですか?」
一番困る質問だ。
「ずっと遠くの…遠い所だよ。とっても遠い…。」
「…何か、変わってますね。」
宇宙人と疑われる心配は不要だ。
この世界に向こうの世界と同じような宇宙という概念は無い。
何故なら宇宙には魔力が無いからだ。
宇宙に物を飛ばすことすら出来ていないらしい。
魔力以外の力について研究している人は極めて希で、この世界では石炭や石油を燃やす等の行為はとても非効率的らしく、魔力についてばかり研究しているみたいだ。
「私のいた所に来たら、クレアの方が変わってるって言われるよ。」
もしくは驚かれる。
「そんなものなのですかねぇ…。」
クレアは年齢にそぐわない遠くを見るような目で、そう呟いた。




