皆良い人だった!!
手が痛くなってきた。
いつまで叩き続ければいいのだろうか…。
私が謎の使命感に動かされて尻を叩いていると、
ドアを開く音がした。
恐らく私が夢中になっている間に街に着いたのだろう。とても有難い。
奥の部屋に連れていかれた後、私は柔らかい布の上に寝かされた。とても高級感溢れる布だ。肌触りが…超気持ちぃ…。
布を撫でまわしていると、見たことのない老人が私を覗き込むようにして見ていた。
この老人もまた、二人の女性を侍らせている。
異世界では男一人に女二人が当たり前なのかな?
そんなことを考えていると、老人が話しかけてくる。
「ーーーーーーーーーーーー?」
やはり、何か言っているが全く理解出来ない。
私が困った顔をしていると、老人はジェスチャーしてきた。
鳥のポーズかな?
手を口の前でパクパクしている。
まぁ、恐らくは私に何か喋れということだろう。
私は疑問を口にする。
「この世界では、オッサンが女性二人を侍らせるのは当たり前なのですか?」
老人は驚いた顔をして首を傾げている。
やはりこの老人も日本語は知らないらしい。
老人は暫く考え込んでいたが、何かを決めたかのように手をポンッと叩いた。
それ老人がやっても需要ないよ…。
老人は背筋を伸ばすと、私と同じくらいの歳に見える女性に指示を出す。
女性は嫌そうな顔をするが、諦めたかのように目を瞑った。
老人は彼女の両側のこめかみに両手の人差し指をそれぞれ添える。そして何かをボソボソと唱えたかと思うと、今度は女性の頭に手をおいた。
老人が女性の頭から手を離していくと女性と手との間が何やらモヤモヤしている。
老人はモヤモヤを取り出すと、それを二つに増やし、片方を女性に戻した。
老人は、もう片方のモヤモヤを持って私に近付いてくる。
何か別の意識でも入れられるの!?
もしかしてオッサンといい、老人といい、女性を侍らせてるのはこの魔法のお陰なの!?
私は嫌な汗を掻きつつも、抵抗しないことにした。老人の目が女を見る目ではなく、好奇心で溢れていたからだ。
『ポンッ!!』
老人が私の頭に両手をおくと同時に、私の意識は途切れた。
気が付いたら布団に寝かされていた。
あぁ…布団だ…。懐かしい…。温かい…。
寝起きで微睡むのは初めてだ。
いつもは親に朝ご飯だ、と無理矢理にでも起こされたし、二度寝なんて許される筈がなかったからだ。
「最っ高♪」
「それはよかった。」
私が気持ちよく伸びをすると、突然何者かに刃物で…、じゃなくて話しかけられた。
私は慌てて声の主を探すと、話しかけてきたのは、先程の老人だった。
「足の具合はどうかね?」
そう聞かれて、初めて足が痛くないことに気が付く。足首が普通に回る。
「オジサンが治してくれたのですか?」
私は質問する。
「ああ。頼まれたからね。」
「頼まれた?」
どういうことだろう?
疑問に思っていると、老人の後ろからオッサンが現れた。
「俺が嬢ちゃんの怪我を治してくれとザラさんに頼んだんだ。」
私の中で、オッサンは優しいオッサンに進化した。
「ありがとうございました。」
私は二人にお礼を言う。
「ワシはお金を受け取ってるからのぉ、礼ならガッドにしてやってくれ。」
老人…ザラさんが言う。
つまりオッサン……のガッドさんがお金を払ってくれたってこと!?メッチャ良い人じゃん!!
疑ってごめんなさい。私は心の中で謝る。
「ありがと、えっと…ガッドさん?」
「ああ。宜しくな。」
「うん。それで、お金の方は…。」
「その事なんだが…嬢ちゃんはお金持っているか?」
あれ?やっぱり私に払えと?
…お金なんて持ってないよ?
「ごめん、全く無い…。」
私は正直に答える。
「だよな、で、なんだが…。嬢ちゃんが倒したウルフ、換金しても良いか?骨折の方の金は出せたんだが、言語記憶複写の方は払えねぇ…。」
「ワシが勝手にしたことじゃから気にするなて…。」
「ですが…。」
あれ、ザラさんも良い人?
あぁ、あの狼はウルフって呼ばれているのか。
それより、言語記憶投射って何よ?
「あれあれ?起きたんだ?成功?私の声聞こえる~?」
ザラさんガールズの若い方が部屋に入ってくるなり、ハイテンションで話しかけてきた。
そして私が頷くと、勝手に自己紹介を始めた。
「私の名前はサヤ、宜しくねぇ~♪」
ニコニコと笑いながら挨拶してくる。
続けて入ってきたザラさんガールズ二人目がこちらにお辞儀をして、自己紹介をしだす。
ここは面接会場かなんかですか!?
「私はソヨです。」
「もうわかってるとは思うが、ワシはザラだ。そして二人はワシの娘であり、優秀な弟子なんじゃよ。」
ザラさんがデレデレしながら自慢げに娘を紹介してくる。あ、でも、娘なんだ。少し安心した。
その後ろにガッドさんガールズ二人が入ってくる。大人びた方の女性から自己紹介を始める。
「私はマーラ、こう見えても全属性+回復魔法が使える天性の才能が…」
「魔力量が少なすぎて実力はあれだけどな。」
ガッドさんが突っ込みを入れる。
「…私はアイリ、宜しく。」
アイリさんは日本人女性にかなり近い容姿をしている。ここにいると少し違和感があるが、とても綺麗で可愛い人だ。
「チョップありがと。」
「あれはガッドが悪い、貴女がぶん殴っても良かった場面。」
「勘弁してくれよぉ…。」
ガッドさんは少し疲れた顔をする。
「で、えっとだな、普段は俺とマーラと…もう一人、トーヤっていう弓使いでパーティを組んでいるんだが、トーヤは狙撃手の試験でなぁ、臨時でアイリを雇ったってわけだ。アイリは報酬が高い仕事に誘えばホイホイついてくる実力派ハンターって感じで有名なんだ。ただ、気紛れだからいつまで一緒にいてくれるかわからないって不安もあるがな…。」
「えっと、一応今は三人でパーティを組んでいるのですか?」
「ああ。Bランクのパーティだ!!」
成る程、私は少し異世界を警戒し過ぎていたようだ。ちゃんと女性にも人権がある世界のようだ。
「で、次は嬢ちゃんの番だが…。名前は?」
少し間をおいて、ガッドさんが質問してくる。
……。やはりきたか、名前聞いてくるイベント。
隠れてスマホゲームやっていた時に一番苦戦したイベントだ。ゲーム内だと、かっこつけた名前は死ぬほど恥ずかしい。漫画のキャラ名をつけてしまった時は死にたくなったものだ。
そして、これから暫くは異世界にいるだろう私には超重要イベントだ。ゲームのようにやり直したり、別のゲームに逃げたり出来ない。
やはり美麗という名は嫌だ、正直嫌いだ。異世界に来てまで親の呪縛を受ける必要はないはずだ。
…でも、思い付かない。どうしようか…。
暫く悩んでいると、妙案を閃いた。
私は笑顔で、口を開いた。
主人公の名前が決まらない…。