幸か不幸かわからないけど。
「おぉ~!」
「意外と大きいわね!」
かなり街の外れだが、敷地はかなり大きく、小さな牧場みたいな庭がある。
「これなら一緒に遊べますわね!」
「私と遊ぶと死にますよ…?」
私が両親の束縛が無い世界でやってみたかったことの中に、スポーツ、という項目があったのだが…
少しでも熱くなると人を怪我…いや、殺してしまいそうで怖い。
そして、私でも遊べそうなゲームが思い付かなかった。
「と、取り敢えず中に入ってみましょう!」
そういうとミレーヌ様は持っていた鍵で家の鍵を開けた。
私は静電気が怖いのと、力んで鍵を消してしまいそうなので、ミレーヌ様に渡していた。
…早めに対策考えないとね。
中はまあ、何もない。
「随分と広く感じますわね…。」
「家具がありませんからね。」
確かに寂しい気もするが、最悪物置にする気でいる私には、丁度良い気がした。
「保温庫はあるわね…あと、キッチン!!さぁマリ、何か料理を作ってくれないかしら!」
いや、無理だって。
「食材がありませんし、…というか、領主の娘さんが素性の知れない者が作ったものを食べちゃ、駄目でしょう…。」
「そうなのよ、毒味係とかのせいで温かいものは食べられないし…だから、今がチャンス!」
「めっちゃ窓から覗いてますけどね、お付きの人。」
「へ!?」
ミレーヌさんがリーゼさんのようになるには、まだまだ時間が必要そうだね。
「…これって、不法侵入じゃないのかしら?」
「「すみません」」
二人の男の人がミレーヌ様に怒られている。
でも、彼等は悪くない。
もし私が悪人なら、大変なことになっていたかもしれないし。
「ミレーヌ様に何かあったら我々の命は無いのですから…。」
「ミレーヌ様ももう少し慎んでいただけると…」
「無理だわ!私の憧れの人はそんなことしないから!」
二人の男の人が訴えるが、ミレーヌ様は断る。
リーゼさんに憧れるのはいいけど…あれになろうとするのは命の危険がある気がする…。
「ピアノのお時間です、帰りましょう。」
そんなとき、バルモワさんがやってきて、ミレーヌ様を連れていってしまった。
「ちょっと!?私にはまだ沢山やりたいことが…」
「音楽を嗜むことも、また貴族の嗜み。マリ様、ご迷惑をお掛けしました。今後とも、ミレーヌ様と仲良くして戴けると嬉しいです。」
「は、はい…。」
「マリ!王都のコロシアムの約束、忘れてないですわよね~!!」
「あ…ワタシ…ナカヨクデキナイカモ…。」
思い出した瞬間、私のミレーヌ様への好感度は0になった。
「…さて、シャワーも出るし、サヤ達は…こんな時間だから帰ったよね。寝る準備しようか。」
「「こんばんわ~♪」」
変にフラグを立てたせいか、サヤとエリーがやって来た。…着替えを持って。
「ミレーヌ様がお帰りになられた瞬間を見計らって来たんだけど。」
「そんなに緊張する?」
「しますよ!マリはもっと常識を学んで下さい!」
エリーに言われてしまった。
でも、私の行動が一番正しかった気がする。
まぁ、今それは良いとして。
「何で来たの?」
「酷いよ!」
「酷いです!」
…いや、そうじゃなくて。
「ベッド…一人用が一つだけなんだけど。」
しかも、エリー…だと…。
「確かに~!!」
「どうしましょう?」
無計画にも程がないかな?
「それに、檻も無いよ?」
「確かに~!!」
「そこは同意しないで下さい!」
どうすんだよ…。
私達は家を出て、街の家具屋さんに行く。
一つ新たにベッドを買い、更に冒険者用のテントも売っていたので買った。
そして毛布を何枚か買った。
夕食用の野菜や肉まで買った。
「出費大丈夫?」
二人に心配されたが、大丈夫だろう。
「明日から依頼受けるからね。」
ランクBの依頼ならある程度稼げるだろう。
「さて、料理を作りましょ~!!」
「「お、お~!」」
張り切るエリーと料理をしたことがない私とサヤ。
「「エリー…任せた!!」」
「一緒にやりましょうよぉ!」
この五分後、私とサヤは、
「危なっかしくて見てられません!」
と言われ、キッチンから追い出されることになる。
「旨っ!?」
「美味しいね!」
「よかった~。」
エリーはとても料理が上手だった。
話を聞く限り、母親の看病時代やその後に自炊せざるを得ない状況にいたらしく、気が付いたら上達していたらしい。
…親がいなくなる気持ちってどういう感じなのかな?
私は悲しまないと思うけどなぁ…。
私達は暫く雑談した後、一人ずつシャワーを浴び、眠りについた。
翌朝、エリーが消えた。
「マリ、窓が空いてるよ!!」
「嘘!?」
だが、何かを盗まれた様子は無い。
私達は室内にエリーがいないことを確認すると、外へ出てみた。
広大な庭には芝生が生い茂り…真ん中ら辺にエリーが寝ていた。
「寝相なの…?」
「ま、まさかぁ?…エリー!起きて!!」
「ん…むぅ…眩しい……?、!!?」
「あのぅ…エリーさん?」
「ここどこ!!?」
「「マジすか…。」」
寝相で窓を開けて外に出る人初めて見たよ。
私とエリーは屋台で朝食を済ませ、ギルドに向かう。
サヤはソヨさんの診療所に向かうらしい。
「またね~!!」
サヤと別れ、ギルドに入る。
「ブラッディ…マリー…。」
その呼び方やめて!?ホラー苦手なんだから!!
私は出来る限り目を会わせないようにして、依頼板を見る。
『ラドラムットの街、西の岩場、赤岩の採集 6000G』
「これ、良いわね!面白そう!!」
新たな街に引かれ、この依頼を持っていく。
「何でお主はこんな時に…わざとか!?」
「マリさん…危険過ぎますよ!?」
…はい?
「今、ラドラムットの東の岩場で、ドラゴンが暴れていて、多数の犠牲者が出ているんです!!」
ドラゴン!?何それ面白そう!
「興味本意で近づくと死ぬぞ!」
「…でも、東の岩場でしょう?西なら大丈夫だよね?」
「…まぁ、そうなんだが。討伐難易度ランクSの化け物だ。一人で戦える相手じゃない。見つかったら全力で逃げろ!わかったな!!」
「うん!!」
「それと、ラドラムットの街まで、馬車で6日の長旅になる。準備を怠るなよ?」
「そんなに!?」
予想外だか、何とかなるだろう。
「このタイミングでラドラムットに向かう商人を探すのは骨がおれると思うが、頑張れよ!!」
「気をつけて下さいね!!無茶は駄目ですよ?」
「わかってるよ。ありがとう!!」
商人と交渉して馬車に乗せてもらう。
この世界の移動手段としては常識みたいだ。
私は依頼を受けてギルドを出た。
だが、直ぐには出発しない。
ドラゴンと戦うのだ!!
紫ミスリルのグローブは必須だろう。
私はガイルさんのいる鍛冶屋に向かう。
依頼の内容などすっかり忘れて…。




