領主の娘と共にギルマスを討伐!!
「それじゃ、よろしくお願いしますね。」
私はガイルさんに挨拶をして鍛冶屋を出た。
少し手を計られただけだった。
ガイルさんは謝ってきたが、仕方ない事だろうから許した。
領主の娘に脅迫されたのだ、誰だって話すよね。
「えっと、第一回マナー講座を開講します!」
「「「おお~!!」」」
診療所に戻ると、ソヨさんが有り難い講座を開いてくれた。
「…この中で、マナーに詳しい人!!」
し~ん…。
「ごめん、私も知らない。…以上で、マナー講座を…」
…おい。
「まてまてまて!!こっちは命かかってんの!!」
サヤが涙目で訴える。
「大丈夫、最悪おじいちゃんが庇ってくれるよ…。」
多分…。と、ソヨさんは俯きながら呟いた。
「じゃ、私の分まで、美味しい料理、食べてきてね♪」
ソヨさんは未だ嘗てない程に輝いた笑顔で、私達を送り出す。
「昔、生ゴミ盗み漁ってた頃が思い出されます…あの時って、もしかするととても幸せだったのかもしれませんね…。」
エリーは頭がイカれかけている。
「ほ、ほら、百聞は一見に如かずって言うし…。」
「…何?それ。」
ああ、ことわざシリーズが通用しない…。
「実際行ってみて初めてわかるってこと、それに、こういうのは協力して乗り越えないと!」
「そうだよね!」
「今日のマリは頼りになります~!!」
エリー…いつもの私って頼りないの?
領主の館の門前にミレーヌ様が仁王立ちしていた。
「遅い!待ちくたびれましたわよ!?」
「へ?」
「「ヒイィィィ!」」
二人は真っ青になる。
「…いや、冗談ですの。…そこまで驚かなくても。何かショックですわ…。」
「「ゴメンナサイゴメンナサイ…」」
「身分差があるんですから…質が悪いですよ…。」
「ごめんね?」
ミレーヌ様は素直に謝る。
「「イエ、ワルイノハワタシタチデス。」」
駄目だこの子達…。
私達はミレーヌと従者に囲まれて、邸に入る。
ズテンッ!!
派手な音を立ててエリーがすっ転んだ。
…何もないところで。
「だ、大丈夫ですの?」
「…。」
エリーは顔を真っ赤にしたまま、ピクリとも動かない。
「そ、そんなところで寝られると迷惑ですから…起きて下さる?」
シュタッ!
「誠に申し訳ございませんでした!」
エリーは深々と頭を下げた。
「いや、別に何かを壊された訳でもないし…それより、怪我は無い?」
ミレーヌ様は意外と寛容…というより、私達と親睦を深めたそうに見える。
「ふ、ふぁい!」
エリーは鼻血を垂れ流していた。
「バ、バルモワ!直してあげて!!」
「畏まりました。」
バルモワさんという、執事?みたいな人が回復魔法でエリーの鼻血を止め、拭う。
「あ、血がついて…」
サヤは真っ青になりながら自分のハンカチを差し出し、断られる。
「あの…もう少し、普通に接しられたり…出来ないかしら?」
「「すみません。」」
二人には難しそうだった。
「それにしても、ザラさんの孫娘がこんなにも身分馴れしてないとは…ごめんなさいね?」
「ふぉい!…ふ…すみません。」
「両親はそこまででも無いらしいですし、ザラさんと会えるのも三ヶ月に一回だけらしいですから。」
料理を口に運んでは口に入らずに皿に落としている二人に代わって、私が答える。
「マリは普通に話せるのね、嬉しいわ♪」
「無知過ぎて実感が湧いてないだけなんですけどね。」
ミレーヌ様が嬉しそうにしているし、これで良いのだろう。
「ふぅ…御馳走様…って、貴女達、全然食べてないじゃない!」
「無茶言わないであげて下さいよ…。二人も必死なんですから。」
…ちゃっかり私はおかわりしてたけど。
高級レストランでご飯を食べた気分だ。
…行ったこと無いんだけどね。
「私、二人とも仲良くなりたかったんだけど…。」
「もう少し、時間がかかりそうですね。」
私とミレーヌ様はかなり打ち解けていた。
「これじゃあカイン退治も上手くいかなそうですわね…。」
「それは貴女一人で充分なのでは?」
「そんなこと言わないで下さい…きっと皆で押し掛けた方が楽しいですわ!」
結構生意気な口の利き方をしても平気どころか、話せるのが嬉しいらしい。
「マリの友人な時点で私が手を出したりは出来ませんわ。リビナードさんのお気に入りみたいですし、レミュレットさんから神聖視されているらしいですし…。」
「二人にはさん付けなのですか?」
妙に違和感がある。
ただの学校の先生じゃないのかな?
「リビナードさんは外道魔術においては世界一とまで言われている鬼才、レミュレットさんは…様は…悪魔…というかなんというか…とにかくヤバい人ですわ…。」
二人ともヤバい人じゃない!?
いや、凄いけど…外道って何よ…。
レミュレット先生に至っては様付けされてたよ!?
「レミュ先生ってそんなに怖いのですか?」
ミレーヌはブルッと身体を震わせる。
「その話はここまでにしましょう。」
青ざめているミレーヌ様の代わりに、バルモワさんが話を切った。
「私も…リーゼさんみたいに…あのくらいの人を…この街に置けるようにならないと…。」
ミレーヌ様の呟きは、恐らく私にしか聞こえていなかった。
そして、『あのくらいの人』というのが私の事だとも、気が付いていた。
「さて、気を取り直して、ケイン討伐に出発!!」
ミレーヌ様の号令で、私達はギルドに向かう。
ただ、気になるのは後ろに従者達がこそこそと尾行してきているのが気になる。
そういえば、結局領主とは会わなかったね。
「ケイン!覚悟しなさい!!」
「ギルマス、許しませんよ!!」
「……。」
「……頑張れ、マリ…。」
私達はギルドに入るなり、ギルマスを呼びつけた。
二人は完全に置物になっていたので、ミレーヌ様と二人で問い詰める。
「フェイスマスク代から輸送費を引いたとは、本当ですの!?」
「輸送してないのに!!!」
「そ、そんなことの為にミレーヌ様を…!?」
ギルマスは狼狽している。
「そんなこと!?」
「私は、善意で、自分の意志でここにいますの!」
…善意?
突っ込みたかったが、ここは抑える。
「すまんかった…でも、ギルドに少しくらい払ってくれたって…。」
「私は、嘘をつかれたことに怒ってるの!お金が必要なら多少は分けたわよ!!別に輸送費を今から貰おうって訳じゃないから、もう二度と嘘をつかないと約束して!!」
「…え?お金いらないのですの?」
「うん、お金なんて直ぐに稼げるからね。」
「じゃあ、マリは何が欲しいのですの?」
「う~ん……友達?」
「ですって、ケイン!」
「ジジイと友達にはなりたくないよ!?」
「そうじゃなくて、ケイン、ギルドにもう少しお金を回せるようにお父様に掛け合いましょうか?」
「い、いえ…何とかやっていけてますし、大した成果も出していないので…。」
「家!!!」
私は思い出した。
「家は!完成したの!?」
「お、おおぅ、これが鍵じゃ…。」
「ありがとう!」
「あ、私も庶民の家、見てみたいですわ!」
「じゃあ行きましょうか!!」
私達は目的を忘れて家に向かった。
「…あれ?ケインさん討伐は…!?」
サヤとエリーが正気に戻った時には、私とミレーヌ様は私の家に着いていたのだった。




