主人公、拒否権無しの脅迫をされる。
「ソヨって方、いらっしゃる?」
朝食中、まだ診療所は開いていない時間に、金髪で高そうな服を着た女の子が入ってきた。
「…誰?」
「ちょっと、マリ!?この街の領主様の娘さんですよ!?」
エリーが耳打ちしてくれた。
「領主の娘!?……あ。」
思わず叫んでしまった…。
「マリ…。」
全員が絶望した表情になる。
「ふふふふふっ…貴女がマリですね。遠くの国からいらしたことは承知しておりますので、大丈夫ですのよ?」
「すみません…。」
でも、領主の娘がどんな用事なのかな?
見たところ、私より年下、中学生くらいに見える。
「あらためて、私がこの街、インタルの領主、レコン・インスタールの娘、ミレーヌ・インスタールよ♪」
レンコンインスタグラムが見れぬインスタグラム?
お、覚えやすい名前だね…。
「その…私に何かご用ですか?」
ソヨさんはオドオドしている。
「貴女に興味は無いわ。」
じゃあ何でソヨさんがいるか聞いたのよ!?
「貴女ならマリって人の居場所がわかるかと思ってね。そしたら本物がいらっしゃるのよ?整った顔立ちスラッとしたフォーム美しい黒髪…あぁ…。」
…異世界の女の子って変な奴ばかりだね。
金髪、癖っ毛だかパーマだかわからないが、かなり綺麗な女の子。
…こういうのを気品がある、とか言うのかな?
「えぇと…私に何のよう?…ですか?」
変態だったら厄介な敵だ。
「私はリーゼさんみたいな変な趣味は持ってなくてよ?身構えなくても大丈夫よ。安心して。」
何だかホッとした。
さりげなく変な趣味とか言ってたけど。
「うふふ…でもリーゼさん、残念がってたわぁ~♪」
「知り合いなんですか?」
なんだか凄い厄介臭がしてきたぞ?
「えぇ!私もいつかはあの人のような権力者になりたいんですの!」
やめなさい!!…とは言えなかった。
「リーゼさん、貴女がとっても強いこと、知らなかったみたいで、ただの遠くから来た可愛い常識知らずと思っていたみたいなの。だからゴブリンキングの事を教えたときはとっっても悔しがってたわ♪あのとき調教しておけばよかったってね。」
危ね~…。
超危なかったじゃん!!
「でもまぁ、リビナードさんに守られてる限りは、大丈夫だと思いますけど…。」
リビナード先生は、凄い人らしい。
「それでその…用件とやらは…。」
「唐突ですが、紫のミスリルいりません?」
唐突過ぎません?
…そういえばガイルさんが言ってたやつじゃない?
「ガイルを脅したら欲しがってると聞きまして…。」
脅した!?…何で?
「何か裏があるのでしょう?」
「勿論♪…で、欲しいの?欲しくないの?」
嫌な予感が膨れ上がってくる。
「今は…必要ないかな…。」
秘技、先伸ばし!!
「欲しいのね!?」
え!?…ま、まぁ、欲しいけどさ…。
「…純度も高い高級品なのだけれど…マリには恩があるし、差し上げるわよ。加工はガイルにしてもらってるわ。まだミスリルタートルの甲羅のままだから。」
ミスリルを食べるミスリルタートル。
そうすることで様々な種類のミスリルが生まれるらしい。
…加工は…してもらってる?
つまり…
「元々、拒否権は無いのだけれど。」
マジですか…。
「恩がある…とは?」
ガチガチなエリーが横槍を投げてきた。
エリーなりの気遣いなのかな?
「ああ、フェイスマスクよ!あんなに大きくて綺麗なマスク、他の貴族達に見せたら驚いてたわよ♪」
買ったのここの領主家だったのね。
インスタグラム…だっけ?
…だからお金が届くまで早かったのか。
「本当は遠くに売るつもりだったらしいのだけれど…一家全員一目惚れでねぇ…良い買い物をしたわぁ♪」
一家全員って…趣味悪くない?
…でも、妙に引っ掛かる。
「マスクの加工って何処でしているかわかります?」
私は皆に訊ねた。
「この街のアイテム袋屋でしょうね。全国でも名の知れた有名な方ですから。」
ソヨさんが答えてくれる。
これで、疑問の原因が判明した。
「あの、糞ジジイ~!!!」
私は領主の娘が目の前にいることも忘れて叫んだ。
「どうしましたの?」
領主の娘…見れぬ…あぁ、ミレーヌ様が話しかけてきた。
「あ、すみません。」
私は慌てて謝る。
「あの糞ギルマス…輸送費ぼったくりやがったんです!!」
奴は加工費と輸送費を引いてきた。
でも、輸送されていなかった。
されていたとしても、徒歩5分な距離だ。
「ギ、ギルマスだって苦渋の決断だった…はず…です…?から……。」
恩のあるエリーも擁護出来ていない。
騙されたのだ、私は。
「うふふ、なら、お金を取り返しましょう!」
ミレーヌ様が提案した。
「はい!…って、何か嫌な予感が。」
ミレーヌ様はとっても笑顔だ。
「うふふ…では、契約成立で良いかしら?」
「はい?…取り敢えず、私に何を求めているのですか?」
何のためにここまでしてくれるのか。
嫌な予感が今にも弾けそうだ。
「実は…、このチケットを見てくださいな♪」
ノリノリで見せてきたチケットを見た四人は、固まった。
「……これ…は?」
意味がわからない。
チケットには仮面を被った私と猛獣が今にも闘いそうな絵が描かれている。
「一応、変装後のお姿ですので、問題無いかと。因みにもうチケットは完売しておりますの♪」
…は!?
「……名前は?」
「謎の美少女格闘家…としか。」
ホッとする。…だが、
「私、魔術師なんですけど…。」
「だからこその格闘家なのです!正体がバレたら大変でしょう?私も恩人には気を使うのですよ?」
なら、本人から許可を得た後に計画しようよ…。
「王都のコロシアム…8月18日、まだ夏休み中ですわよね?」
「…はい。」
「王都に行く予定もあり、ですわよね?」
「…はい。」
「なら、決定ね。」
「なんでそんなに色んな事を知っているのですか!?」
個人情報だだ漏れだ。
「それは、私がこの街の領主の娘だからですわよ!!」
この人、かなりリーゼさんの影響を受けているようだ。
「…それと、」
「まだあるんですか…?」
もう絶望しかない。
「貴女の手のサイズが知りたいとガイムから。午前はそちらに顔を出して、昼食を食べてから、徴収に行きましょう!!…皆さんも一緒に!!!」
「「え…。」」
「そうだよ!数は正義だよ!!」
「マリ!?」
不幸は分かち合わないとね♪
…?そういえば、サヤの声が聞こえない。
「サヤ…サヤ!?」
サヤは立ったまま気絶していた。
ザラさんだって偉い人なんでしょう?
なんで気絶しているのよ…。
「わ、私は診療所のお仕事があるので…。」
「ええ、お仕事頑張って頂戴ね?」
「は、はい!」
ソヨさんは安堵の表情を浮かべる。
「わ、私もギルドの…」
「今日は貴女、お休みよね!」
「ひぅ…。」
「安心して、貴女を解雇させるような真似はさせないわ。友達のため、頑張りましょう!」
「は、…はい!」
エリーも自棄になって返事をする。
…でも、エリーの心配はお偉いさんが近くにいるのに、自分がへまをしてしまわないかの方だと思うけど。
「よし、午後が楽しみね♪…あ、そうだ!昼食は私の家で食べない!?作戦実行メンバーの四人で!!」
「「「え…。」」」
「家の前で、1時に待ってるわね♪」
そういうと、ミレーヌ様は出ていった。
そして、私達は、再び固まっていた。
私は診療所を出て、ガイルさんの鍛冶屋に向かう。
だが、頭の中は、マナーの事でいっぱいだった。
ガチガチに緊張してろくに食べられないのが目に見えていた。




