マリさんは忘れん坊
ピシュッ
ピシュッ
ピシュッ
私は指先からの電流を真っ直ぐ飛ばせるようになっていた。
「随分と上手になりましたね…。」
シルヴィは素直に喜んでくれる。
寮の自室に雷魔法で焼き跡のマトを作り、そこに向かって電撃を放つ、電気ダーツ的なことを私はしていた。
回復魔法のお陰で跡は消せるし、何故か魔力量が半端ないので、暇潰し感覚でやっていた。
「初めの頃はそこら中焼き焦がしてたのに…。」
「シルヴィがおかんになっとる…。」
部屋が焦げ臭いとバレそうになったときもシルヴィは助けてくれていた。
「でも、シルヴィのお陰だよ、ありがと!」
「私もマリのお陰で色々と上達しましたし、お互い様ですよ。」
私達はとても仲良くなっていた。
「な~に、二人だけで良い感じになってるのよ?」
アトラ達が部屋に入ってくる。
私は慌てて、バレないように壁の跡を消す。
「嫉妬ですか?」
「シルヴィもよく冗談言うようになったわね…。」
正確には、注意を私からそらすため、という理由で初めは冗談を言い始めたのだが、結果皆とかなり親密に打ち解けられることとなった。
「準備は出来ました?」
「え、あ、うん!」
マルグリットの声で我に返る。
今日は夏休み初日だった。
私達は荷物を持って学校を出る。
「それじゃあ、8月10日、正午、王都のケモカフェ前に集合!!流石に忘れないわよね?」
「ちゃんと覚えてますよ!!」
「当たり前だ!!」
アトラの確認に剣士二人が答えた。
「私は忘れるも何も無いですし…。」
シルヴィは、そりゃそうか。
「商人の血を引くものとして、未来の大富豪として、約束は絶対に守ります!!」
マルグリット家は家族全員商人一家だった。
「…で、よ。」
囲まれる。
まぁ、原因はわかっている。
私は忘れっぽいからね。
「今度こそ、忘れないわよ!!」
「何度目だよ…。」
皆に呆れられた。
「顔に書いときます?」
「刻みましょう!!」
マルグリット、怖いよ…。
「顔じゃあ鏡見ない限りわからないけどね。」
「何常識人面してんじゃボケ~!!」
アトラの突っ込みが入る。
アトラは去年までは貴族出身な為か、非常識人ポジションに居たらしいのだが、今は私が独占していた。
お陰で異世界の色々なこと(常識)がわかった。
「どちらにせよ私も絶対に王都にはいるから、探してくれれば見つかるかと…。」
「王都にどれだけの人が集まると思ってんのよ!?」
皆コクコクと頷く。
…国王の誕生祭ってそんなに凄いんだね。
日本の近くの某国のパレードみたいな感じなのかな?
「まぁ、最悪王都のギルドに捜索願い出すわよ。」
「やめてよ迷子みたいじゃん!!」
「似合ってる…かも。」
「シルヴィお母さん!!?」
皆で笑い合った。
「さて、お別れですわね。」
「まぁ、たかが一ヶ月だ、寂死ぬなよ?」
「そう言うカルネが一番寂しがり屋なのよね~。」
「なっ!?」
「カルネとエリナは随分と仲良くなったのね。これでマルグリット商隊の安全性がまた上がったわね。」
「マルグリット商隊って…せめて苗字にしようよ。」
「私の私有の商隊ですからね?」
「商隊の分際で貴族を護衛に使うとは、良い度胸ですわね?」
「「「「「確かに~!!」」」」」
「…このままだと、日が暮れちゃいそうなんだけど。」
皆との会話が楽しすぎて、なかなか出発出来ない。
「そうね、もう三時間も経ってるわね。」
「えぇ!?お母さんとの約束の時間過ぎちゃってる!?」
マルグリットは慌て出す。
「よ、よし!解散だ!!」
カルネの指示で皆がそれぞれの方向へと別れ、走り出した。
「8月10日ですわよ~!!!」
アトラの声に手を振って応えた。
「…さて、インタルへはどうやって帰ろうかな?」
私は全力疾走しながら呟いた。
「このペースで行けば、二日半、くらいで着くかな?」
そこで気が付く。
「サヤ!!!」
私は反転すると、全力でラシャの街に戻った。
「えっと?医療魔術学校…だっけ?」
私もサヤも寮生活で、サヤは私が来ていることを知らなかったため、会える機会がなかったのだ。
「面倒だから、夏休みは一律って…。」
リーゼさんがトップだと先生方は大変そうだね。
夏休みの期間は全ての学校で同じらしい。
「…サヤちゃんなら、もう馬車でインタルに向かっているんじゃないかしら?」
医療魔術学校から出てきた大人の女性に聞いたところ、私達が長話している間に、行ってしまったらしい。
「あの子、ザラさんの娘として期待され、しかも、未成年は学校に一人だけ…大変よねぇ…。」
ヤバい、早くあって愚痴だけでも聞いてあげたい。
「ありがとうございました!!」
私は再び走り出した。
国道を走ると馬に驚かれてしまい、大事故になりかねないと思った私は、国道の隣の獣道を突っ走る。
時に迂回し、時に飛び越え、馬車を一つ一つ探っていく。
「ここにサヤさんはいらっしゃいませんか?」
「…どちら様でしょうか?」
「サヤって子の友達なんだけど。」
「残念ながら、おりませんね。」
「すみません、馬車を止めてしまって。」
「いえいえ。」
「では…」
ズギューン(疾走)
「なっ!!?」
これが三度も続いた。
テンプレ会話だ。
「くっ…四度目の正直!!」
そんなことわざ知らないが、何度目でも正直にしてやる!!
自分でも意味不明な事を考えながら、馬車の隣にゆっくりと現れる。
「どちら様…ですか?」
「えっと、サヤって子の友達なんだけど…。」
「サヤさんの!?」
そう言うと馬車を止め、ドアを開けてくれる。
「サヤ!!!」
「…え?……マリ!!?何でこんな所に!?」
正真正銘、サヤだった。
「本当にサヤ様のご友人でしたか…。」
「サヤってボッチなの?」
「しょうがないじゃない!!話が全然会わないのよ!!腰の痛みの話とか、知らないし!!」
サヤはどうやらとてもストレスが溜まっているらしかった。
「一番年が近くて26歳、その次が32歳よ?私、服のブランドとか知らないし、全く話が会わなくて…うぅっ…。」
サヤは私に泣きついてくる。
「マリさん…でしたっけ?良ければこのまま乗って行ってくださいな。皆さんも、それで良いですよね?」
馬車内は温泉目当てのお年寄りばかり。
誰も異議は唱えない。
「…ふぅ。泣くのお仕舞い!!」
「いくらでも愚痴聞くよ?」
「そんなのいいわよ。それより、マリとは楽しいお話しがしたいの。…ところで、何でこんな道端にいたの?」
私は、小声で今までの出来事を全て話す。
「ううう~っ、スッゴい!スッゴいね!それに、スッゴい羨ましいし、スッゴいズルいぞ!!」
サヤは一々オーバーリアクションをするので、回りに聞こえてないか心配だった。
サヤのハイテンションは収まることを知らず、結局、インタルに着くまでの5日間、寝る間も惜しんでお話ししたり、遊んだりして、はしゃぎまくった。
お年寄り方は皆若い子を見るのが好きな方々で、五月蝿くしても文句を言わずに微笑んでくれていた。
そんなわけで、インタルに着く。
…何にも緊急イベント無かったよ?
国営馬車は安全だね!!
さて、あの頃のぶっ飛んだ言動を繰り返すエリーは健在だろうか?
途中でサヤの事を思い出し、書き直してました。




