午前の友は午後の敵
「あ~…も~駄目…。」
カルネがテーブルに突っ伏した。
寮の一階は食道になっていて、皆で夕食を食べる。
皆といっても女子寮なので女子だけだが。
「これからもっと修行しようと思えましたね!」
エリナはとても前向きだが、全身傷だらけだった。
「痛々しいわね…マリなら直せるのかしら?」
アトラは聞いてくる。
「飴代くれるなら…。」
魔力の入った飴は意外と高い。
学費は自腹なため、意外とお金がヤバかったりする。
「飴無しだと魔法を放出出来ないんだっけ?不便ねぇ…。」
私は皆に最低限のことだけ教えていた。
「アトラん家お金持ちじゃん。」
マルグリットは容赦なくアトラに言う。
「私は皆のお財布係になどなる気はございませんわ!?」
金持ちってお金で友達買っているような人もいるけど、彼女達は違うようだ。
「別に、直ぐに治るわ。それに、自然治癒力をあげる魔法の練習にもなるし。」
「お前はどんだけ真っ直ぐなんだよ…。」
カルネはかなり参っているようだった。
オークの酢豚みたいなもの…酢オーク?をメインとした料理がテーブルに並ぶと、剣士二人はみるみるうちに平らげてしまった。
「一緒にパーティは組みたくないわね…。」
マルグリットの呟きは、隣の席の私とアトラにだけしか聞こえなかったようだ。
私達も頷く。
「……で、よ。本題!!」
皆が食べ終わったのを確認すると、アトラが切り出した。
「マリ、貴女、シルヴィに何をしたの!?」
「え~っと…」
私の目が泳いでしまったのをアトラは見逃さない。
シルヴィは寮に帰ってからも、元気が無かった。
私とリビナード先生が怖い思いをしたのに成果を一切残せなかったことを相当悔やんでいた。
「マ~リぃ?」
「いや…その…えっと…」
だってさ、撫で回したとか言ったら殺されるよ?
というか、おさわり厳禁な子に触れたというだけでも、有罪になりそうだ…。
「マリさんは悪くないんです…。私が…私が全部悪いんです…。」
シルヴィは泣きそうな細々とした声で訴える。
「大丈夫だよ。まだまだ時間はあるし…。」
私はシルヴィの頭をポンポンとした。
「「「「え!?」」」」
「あ…。」
「ううっ…。」
しまった。
実は寮に帰ってからずっとシルヴィを慰めていたため、また、シルヴィも私が触っても何も言わなかったために、普通に…ポンポンしてしまった。
…慰めるという体でモフモフを楽しんでいたとか、そういうのじゃないからね?
……そういうのじゃないからね?
「おいこらどういうことだ説明しろや!」
カルネがヤンキー化して、私に問い質す。
皆獣人を愛でたい気持ちを押さえていた。
「だってシルヴィ嫌だって言わないし…」
「シルヴィが苦しんでいる時を狙ったのでしょう!?」
アトラまで敵に回った。
「シルヴィ弁解して!?」
「シルヴィ?本当のことを言いなさい?強迫でもされたの?」
「…されてないです。」
「なら…」
「私を悪人にするのやめてよ!!」
「悪人!?…正義の名において貴女を……。」
エリナは悪を滅ぼすヒーローのお話に憧れて、小さい頃から剣術の腕を磨いていたらしい。
なので悪にはとても厳しい。
…いや、私、悪じゃないよ?
この子も危険性を持っている気がする。
「さて、出来上がりましたわ。後はシルヴィの指印をつければ、マリを断罪出来ます!さぁ、早く!!」
…もっと危険なマルグリットがいましたね。
「だ~か~ら~!!私は悪くない!!」
「悪人は皆そう言います!!」
「なら善人は何て言えば良いのさ!?」
話が通じない。
「シルヴィ、マリは貴女に許可をとったの?」
「…とってません。」
「なら!!」
「…でも、マリさんは良い人です。」
その一言で全てが静まった。
なんか、申し訳ないね。
私、下心の塊なのにね。
「気持ち~ね~♪」
私達はシルヴィの友人権限を使って、最後にお風呂に入った。
シルヴィは毛が抜けるため、最後ということになり、ならば私達も、ということだ。
お風呂はそこまで大きくなく、寮に二つあるようだ。
普通の生徒は30分だが、私達はもう45分は入っている。
「長風呂~♪」
「さっさと出て、寝ろ!!」
リビナード先生が鬱陶しそうに怒る。
レミュレット先生は泡まみれなシルヴィのブラッシングをしていて、リビナード先生は酒を飲んでいた。
「先生~、生徒の前でお酒はよくないですよ~。」
「私の唯一のくつろぎタイムを奪うな…。いつもならレミュの丘陵を眺めながら静かに酒を嗜んでいたのに…。」
「…私の…せいで…。」
シルヴィは今にも泣き出しそうだ。
「違うから!?お前は何でもかんでも自分の責任にするのやめろ!」
「でも…」
「皆お前が大好きなんだから、気にするな。な?」
リビナード先生は恐らく私達に同意を求める。
…が、それどころではなかった。
「のぼせた…。」
「死ぬ…。」
「気持ち悪い…。」
「吐き気が…。」
「ぱたんきゅ~…。」
全滅していた。
「てっ、てめぇらさっさと出ろ!!」
「私のせいで~~!!!」
シルヴィの絶叫が浴室内に響き渡った。
「あ~…ミルクうま~…。」
リビナード先生が全員分のミルクを買ってきてくれた。
明日からに向けて準備をしていた学校の売店のおばちゃんと交渉して手に入れたらしい。
ちゃっかりレミュレット先生も飲んでいる。
レミュレット先生は仲間外れにされると悪魔が目覚める…とリビナード先生は私の耳元で呟いた。
「今度のぼせたら評点1下げるからな!!あと、風呂場で騒ぐな!!」
「「「「は~い。」」」」
リビナード先生も随分と騒いでいたような…と、思ったが、言わないでおく。
「美味しい…私の…せいで…美味しい…私の…」
シルヴィはもはや無理に責任感を引き出そうとしているようにしか見えない。
ふと周りを見ると、全員がミルクを美味しそうに飲むシルヴィを見つめていた。
眼福じゃ~。
「それにしても、二人とも胸凄かったね。」
先生達と別れて、各自の部屋へと向かう。
胸の話を切り出したのはマルグリットだ。
…この中で断トツに胸が大きい。
「嫌みか貴様!!」
どこかで聞いたことあるような台詞をカルネが発する。
「胸なんて…邪魔なだけです!!」
エリナは堂々と言ってはいるが、僅かに唇が震えていた。
「私も…胸無いですね…。」
シルヴィも小さい。
「私とマリは平均的…とでも言いましょうか?」
アトラの言葉に、カルネは身体をピクリと震わせた。
「私は平均以下と言いたいのか!?」
「現実を見なさい。」
アトラ、カルネ、マルグリットの三人に、遠慮という言葉は無いらしく、裏が無さそうなだけ、付き合いやすかった。
「それじゃ、お休み~。」
「マリ、シルヴィに手、出すなよ?」
「大丈夫ですって!」
「おやすみなさ~い。」
皆それぞれの部屋に入っていく。
「それじゃあ、寝ようか?」
「……今日だけ、一緒に寝てくれませんか。自由に触ってもらって、構いませんから。」
…なんでこの子はトラブルの元を増やすかなぁ。
まぁ、断る気なんて全く無いけど。
頼まれたんだから、仕方がないよね?
「いいよ、一緒に寝ようか。」
「…はい。」
シルヴィは私に背中を向けるようにして、横で丸くなった。
顔を布団から半分ほどだけ出している姿が愛らしい。
「シルヴィはさ、何で霊が怖いの?」
私は聞いてみる。
「だって…わざわざこの世に留まっている霊なんて、ろくな奴がいませんから…。」
そう言われると、確かに。…怖いね。
「でも、霊って元生物なんでしょう?なら、仲良くなれたりしないの?」
「仲良くなってしまうと、霊があの世に行けなくなってしまいます。霊を利用する、といった立場で扱わなければなりません。」
魂を物のように扱う魔法…か。
「シルヴィなら、なんで魂が現世に留まって、どうすればあの世に行ってくれると思う?」
「…?、強い恨みがあるのでしょうか。それか、心配事とか…?どうすれば…とは、復讐?」
うん、物騒だね。
でも、幽霊ってそんなものなのかな?
「ごめん、私もわからない。…何でシルヴィは死霊魔法なんて使えるの?」
これが疑問だ。
「私の一族は毛が黒く、獣人の中でも遥かに知能が高かったのです。人間の間で、獣人奴隷が流行った時、知能が高いレア物として、私達も目をつけられました。」
「酷い…。」
シルヴィは続ける。
「私達黒の獣人は、初めは死霊術による攻撃で人間達を退けていたのですが…繁殖期を狙われたらしく…殆どが連れ去られてしまったらしいです。」
「…シルヴィはその後に産まれたの?」
「いいえ、産まれて直ぐ後の話らしく、私は覚えていませんけど。…私を育ててくれた方が身を守るために、と教えてくれた魔法です。…今は無き家族との唯一の繋がりです。」
「…それなら、頑張らないとね。」
その死霊魔法のために、死んだ獣人達はわざと霊魂として残り、協力していたのではないかとも思ったが、もしそうならば、希望は無くなる。
「はい!…そろそろ胸を揉むの止めてください。」
「胸は揉むと大きくなるらしいよ?」
「本当ですか!?」
「ごめん、故郷の迷信。」
ゴッ!!
私はシルヴィの後頭部頭突きで顎をやられた。
「それじゃあもう遅いし、寝よっか!おやすみ。」
「おやすみなさい。」
私達は眠りにつく。
そして、再び誤解が生まれることとなる…。
学園生活編の内容が全く思い付かない…。
後一回くらいやったら夏休みにしちゃおうかな?




