初授業は肝試し!?
「さ~て、何する?鬼ごっことか?」
この世界に鬼ごっこという言葉はないが、ルールが似ているゲームなので、私はそう訳した。
「授業…ですよね?」
私とシルヴィは二人で、リビナード先生と特別授業だ。
「予定とかないんですか…?」
シルヴィも質問する。
「無い!!」
リビナード先生は堂々と答えた。
「いや~、午後の授業は各職種の目指すべきレベルを見せつけるためにあるようなもんでねぇ。うちらにゃあんまり関係ねーんだわ。」
リビナード先生は適当そうに言った。
「それでは、何をするのですか?」
シルヴィは真面目な子なのだろう。
サボれて嬉しいなんて微塵も考えなさそうな澄んだ、真っ直ぐな目でリビナード先生を見つめている。
「マ、マリ、ヘルプ!」
「先生なんですからちゃんと仕事してください!」
私は正論で返した。
「じゃあ、お前らの課題を提示するか…。」
リビナード先生は急に雰囲気を変え、話始める。
「マリ、お前は取り敢えず、雷魔法を飛ばせるようになりたいんだよな?」
「は、はい!」
出来るのだろうか?
「なら単純だ。世界は魔素で満たされている。魔素を使うんじゃなくて、魔素で伝えろ!」
あ、成る程。
私は試しに誰もいない方向に手から雷を、魔素で伝えるようにイメージして、飛ばす。
「ひぎゃっ!?」
誰もいない空間が光で満たされ、私の服が焦げた。
「まずは指で、真っ直ぐ飛ばせるように、だな。利き手…右手の人差し指から始めてみろ。その後、左手の人差し指。両方出来るようになったら、中指とか、交互に練習しろ。夏の休みまでにここまで出来れば凄い方だろう。」
「はい!」
リビナード先生は、凄い先生らしくなった。
「それと…。」
少し間をおいて、リビナード先生は再び話し出す。
「真っ直ぐに、一直線に伝えるには、魔力の制御、イメージ力の他に、真っ直ぐな心も重要だ。」
「私は純真で真っ直ぐな女の子ですよ?」
…何が言いたいんだろうね。
「さて、問題はシルヴィの方だ。」
「…はい。」
「…シルヴィは獣人族だから特別って訳じゃないの?」
私はてっきりそうだと思っていたんだけど…違うっぽい?
「獣人も魔法自体は似たようなものなんです。」
シルヴィは私が常識を一切知らないと踏んで、説明してくれた。
…凄くありがたいです。
「私が特別なのは…私が死霊魔法を得意とするからです。」
「死霊魔法!!?」
なんかとんでもない感じの魔法だ。
「そう、死霊の力を借りて使う、強力な魔法だ。」
なんだが…と、リビナード先生は口ごもる。
「私、…幽霊が怖いんです…。」
それ、致命的過ぎない!?
「そういうわけで、これから墓場に行くぞ~!!」
「「え!?」」
リビナード先生に連れられ、私達は墓場に向かう。
「なんで森の奥にあるんですかぁ…?」
私は歩きながら愚痴を吐く。
「しっ、知るか!?…いや、雷ってよく森に落ちるから、そんときに天に帰れるとか何とかって話だ。」
…知ってんじゃん。
でも、リビナード先生…もしかして、いや、まさか…ね。
「獣人族は…逆に、日の当たるっ…所に…お墓を作るん…です。」
シルヴィは震える足を必死に前に出そうとしている。
「日の当たる所の方が良いよね!私もそう思うよ!!」
私は震えるシルヴィに寄り添い、励まそうと頑張る。
「…なぁ、引き返さないか?」
一番始めに弱音を吐いたのは、あろうことか、リビナード先生だった。
声が完全に震えている。
「べっ、別に…怖いわけじゃないんだが…」
ふぅん、なら…。
「わっ!!」
「ひゃん!!?…………てめぇ、殺すぞ!?」
リビナード先生はビビりだった。
「お墓が沢山…雰囲気あるね…。」
私の声も震えていた。
僅かな光しか届かない森の中、聞こえるのはカラスのような鳥の鳴き声だけ…。
「なぁ、やめようって、なぁ!?」
提案者は今にも気を失いそうにしながら、逃げ道確保に勤しんでいた。
「…やってみます。」
シルヴィは意外にも落ち着いていた。
「…ふぅ、」
カサッ…
木の葉が落ちてきて、シルヴィの耳をかすめた。
「ひゃん!?」
シルヴィはとんでもなく可愛い声で驚き、魔法は不発に終わる。
「…も、もう一度、…ふぅ、……。」
何も起こらない。
というか、魔法を使えてない。
「ごめんなさい…さっきので…恐怖心が…。」
彼女なりに覚悟を決めて、ここに来たのだろう。
…怖いのに頑張っている姿は、真面目で健気でかっこよくて可愛い。
パーフェクト!!!
いつの間にか私の恐怖心は消え失せ、全ての興味は目の前のパーフェクトに可愛い目の前の獣人の女の子に向けられていた。
「…なんか、寒気がしてきました。誰かに見られているような…霊達です…か、ね…?」
…私です。
そしてシルヴィは我慢の限界にきたのか、私に抱きついてきた。
ヤバイよ、マジでエンジェルだよ!!
私、昇天しちゃうよ!!?
「マリさん…温かい…。」
シルヴィは抱きついたまま、涙目ですりすりしてくる。
「ズギューーン!!!!」
私の理性は吹き飛んだ。
私はシルヴィを撫で回す。
「う……んっ♡」
嫌がるどころか甘い声を出してくる。
もう、止まらないよ…?
「マリ、シルヴィ、帰るぞぉ!!!」
リビナード先生の決死の叫びで理性が甦る。
周囲が墓であることを思い出し、震える。
シルヴィもハッとして私から離れる。
「マリはシルヴィを抱いて全力疾走!!」
リビナード先生の指示が飛ぶ。
私はシルヴィをお姫様抱っこすると、全力で走り出した。
リビナード先生は自分に浮遊魔法をかけ、森を脱出し、森の入り口に向かう。
「ずるいですよぉ!!」
私はまた愚痴を言いながら森を疾走した。
森の入り口でシルヴィをおろす。
「大丈夫だった?」
「…うぅ…。怖かったですよぉぉ…。」
シルヴィは泣いていた。
私はシャツが濡れていることに気付く。
「ごめん…。」
「うぅ…マリのせいじゃ無いです、お墓が怖かっただけですぅ…付き合わせてしまい…ごめんなさい~…。」
これは、霊に対する意識をどうにかしないといけない感じかな?
でも、なんでこんなシルヴィが死霊魔法なんか使えるんだろうか?
私がシルヴィを慰めていると、リビナード先生が降りてくる。
「今回の件は、私の責任だ…。すまん!!あんなにも怖いとは思っていなかった!!!」
リビナード先生の顔は真っ青だった。
「かなり早めだが、今日の授業はここまでで良いよな?夕食は19時、寮の一階だ。」
「「…はい。」」
異議を唱えるものはいなかった。
私はお墓大好きなタイプなので、怖がる人の気持ちがよくわからなかったりします。




