昼食捕ってくるね!
「皆はお弁当なの?」
「それ以外に何があるんですの?」
アトラに聞き返された。
「えっと…学食的とか?」
それを聞いたカルネが白目を向いた。
「学食は明日からですよ?」
マルグリットが説明してくれた。
…マジですか。
リビナード先生のせいだよね、きっと。
「えっと、皆でマリに分け合いましょうか。困ったときはお互い様と言いますし…。」
アトラはそう言い、皆も賛同してくれているが、魔術師組のアトラとマルグリットは少量、剣士組のカルネとエリナは大量の弁当。
シルヴィは…並み盛り?
何かここまでバラバラだと貰いにくい。
それに、剣士と格闘家は午後から、闘いの厳しさを教える授業があると聞いている。
ご飯が足りなくて倒れたとなっては気まずい。
「買ってくるよ!」
「この時間帯、相当混んでいますわよ?」
「もしかしたら、買えた時には授業が始まっているかもしれないぞ?」
アトラとカルネに言い返された。
アトラが常識人にしか思えないくらい、私はこの世界、この国、この街のことを知らないのだと実感する。
…こうなったら、思い付く手は一つしかなかった。
「私、とってくるね!!」
私は笑顔でそう言うと、走り出す。
「ちょっ!?とってくるって、なによ!!?」
「マリ!?」
皆の心配を振り切り、私は学園を飛び出した。
「急げ、急げ、急げ!!」
私は急ぎつつ、あくまでも人の速度の範疇で人混みを駆け抜けていく。
向かうのは街の外。
何かしらとれるでしょ!!
「あの、その制服、学園の生徒ですよね?こんな時間にどうしたのです?」
私は番兵に止められた。
「ちょっと昼食をとりに…逃げたりしないから大丈夫だよ?」
私はギルドカードを見せる。
「ラ、ランクB!?…格闘家…ランクA!!?」
「ぶっ殺すよ?」
私は理不尽とわかりつつも睨み付ける。
「ひいぃ!?……何でそんな方が学園に…?」
「どうでもいいでしょ!?…急いでるんだけど?」
…番兵は迷っている。
そこに…
「あらぁ…私の可愛いリリィちゃんを寝盗ったマリさんじゃない♪」
リーゼさんがやってきた。
「寝盗った覚えはないんですけどね!?」
風評被害にも程がある。
修道院でもこんな風に広まっていたらお仕舞いだ。
「大丈夫よぉ♪事実を知っているのは私くらいだからぁ♪」
「それ、事実じゃありませんけどね!!」
リーゼさんは何だかんだで優しい人…なのかな?
「本来は学園の生徒が平日、しかも授業中に外に出ることは禁止されているんだけどぉ…と・く・べ・つ♡ね♪」
そう言うと、リーゼさんは番兵に指で合図を出す。
番兵は片膝をつき、動かなくなった。
「いってらっしゃ~い♪」
「ありがとうございます!!」
リーゼさん、可愛い娘には優しいって言ってたけど…私、可愛いの?自身持っちゃって良いの?
…でも、女性にモテるのはなんか違うよなぁ。
私は森を抜け、平原を駆け回り、道なき道を突き進んだ。
そして、一際大きなオークを見つけると、貫いた。
「これだけ大きければ、一匹で十分かな?」
私はアホだと実感している。
何故なら、私はアイテム袋を忘れてきたからだ。
あるのはポケットに突っ込まれた小物入れ的なアイテム袋だけ。
勿論オークなんて入らない。
全部バッグの中…寮に置いてきてしまっていたのだから!
「担ご~♪担ご~♪私は~元気~♪」
私は必死に自分のドジを忘れようと、歌いながら街に戻った。
「あの~…」
「通りま~す!」
私は番兵を無視して学園へと走ろうとするが、リーゼさんに止められた。
「早かったわねぇ…でも、目立つわよぉ?」
そう言われて、ハッとする。
うん、私、色々とおかしいね。
私の中の常識がそう告げている。
私、常識あったんだね。
私はエリーから貰った仮面を思い出す。
あれ?今思うと、エリーとエリナって似てるよね?
エリナの渾名、エリーって言ってたし。
紛らわしいから別の渾名考えようかな?
ポケットに入っていたアイテム袋の中に、変装用のマントと仮面が入っていた。
アイリがいざというときのためにと、ポケットの中を薦めてくれていたお陰で助かった。
「どうですかね!」
私は仮面をつけて、マントを羽織った。
「完全に、不審者ねぇ。」
リーゼさんはそう言いつつ、笑って送り出してくれた。
「お前は何をやっているんだ!?」
リビナード先生が学園の門に立っていた。
「…?」
…ひょっとしてバレてる?…わけないよね。
「いや、素手で巨大なオーク貫いたうえに、それを担いで持ってくるとか、個人特定簡単だからね!?」
「あ、しまった!?」
仮面をつけた不審者が街を駆け抜けただけならまだしも、巨大なオークを担いでいたとなると、色々とカオスだ…。
「…で?詳しくせつめいしてもらおうか?…それと、学園の奴等に変に思われたくなかったら、それを置け。私が運ぶから。…で?これは何用?」
「あ、はい。…昼食です。」
私はオークを降ろす。
「あ~…。成る程な。私のせいか。わかった。レミュが料理上手いから、作って貰うか。どうせ今日学内回った時に、調理室見つけて、そこで丸焼きにしようとでも思っていたんだろう?」
「その通りです…。」
完璧にあっている。
模範解答、100点満点だ!!
リビナード先生がオークに手をかざすと、浮き上がった。
…オークが。
「凄い…。」
「一般人からしたら、お前の方が凄いよ…。」
浮遊魔法というらしく、なれてくると、飛べるようになるらしい。
「飛べるの!?」
「お前が飛べるようになったら面倒なことになりそうだから教えない。」
リビナード先生はよくわかっていらっしゃる。
でも、私は絶対に、飛んでやるんだから!!
私は一人、決心した。
「色々とおかしいけど、料理すればいいのね?」
レミュレット先生は無償で料理を提供してくれるようだ。
「でも、こんな大きなオーク、貴女一人で食べきれるのかしら?」
ごもっともな意見だ。…そして、無理だ。
「…友達呼んできます。」
私が寮に戻ると、皆いた。
…が、様子がおかしい。
「マリ、お前には私がキッチリと常識を教えてやる!!」
…と、意気込むカルネ。
「なら、私は女子力を鍛えます!!」
…と、アトラ。
「……。」
無言で見つめてくるマルグリットとエリナ。
「魔術師…なんですよね?」
「うん?そうだよ♪」
シルヴィったら何てことを聞くの?
…嫌な予感しかしないよね。
「もしかして…見てた?」
「「「「ええ。」」」」
「たっ…多分、私達しか気が付かなかったと思うけどね…。」
マルグリットだけがフォローをいれてくれる。
「…変装してたのに、何でわかったの?」
仮面で顔を隠し、マントで身体を覆う。
…バレる筈が無い!!
「…今までの非常識度、特別授業、それに、とってくるって言ってた…から…ね。」
エリナが教えてくれた。
「とってくるって何よ!?採ってくるじゃ無いの?捕ってくるなの!?しかも巨大オーク!!」
カルネは取り乱している。
カルネの言葉で用件を思い出した。
「あのぉ…私だけじゃ食べきれなそうなので、一緒に食べませんか?」
「「勿論食べるわよ!!」」
怒りながら目を輝かせる剣士二人。
「「脂っこい肉はちょっと…。」」
魔術師組はダイエット思考だ。
「調理が見たい。」
シルヴィは一足先に歩き出した。
「出来上がり~♪」
「「「「「「凄い…。」」」」」」
私達全員が同じ感想だった。
「オーク一匹で…ここまで…。」
「昼休みは短いからね…時短料理じゃなきゃ、もっと色々あるわよ?」
レミュレット先生がムフーと、どや顔した。
「後で色々と教えて下さい!」
シルヴィは料理好きなのかな?
「「うま!うま!うま!」」
「…オークはどちらかと言うと豚とか猪ですよ~?」
結局、皆オークを食べていた。
…というより、食べずにはいられなかった。
魔術師組のこともちゃんと考えて、脂を落としたヘルシー料理も作っているレミュレット先生は本当に凄かった。
…が、魔術師組の胃袋は小さかった。
ガツガツとオークを頬張っていく剣士二人を呆れた目で見ながら、マルグリットは溜め息をついていた。
結局、私だけじゃ食べきれなそうなので、クラスの男子達も捕まえて、食べさせた。
「うめぇ!!」
「すげぇ!!」
「理想の嫁だわ!!」
男子達の評判はとても良かった。
昼休みが終わる。
そして、午後から授業が始まる…。
やっべぇ…エリーの存在忘れてた…。
名前被りに気付いた…いや、かぶってはいない!!
大丈夫な筈だ…。
それと、この小説ってガールズラブ要素無いですよね?
外しても苦情来ませんよね?
…どうなんだろ。




