入学式に出られず…。
「学校に出発~!!」
「少し、お話しながら行きませんか?」
私は朝食を頂き、修道院を出た。
…何故かリリィさんもついてくる。
「いいけど…リリィさん、服が…。」
リリィさんは修道院の服ではなく、私服だった。
ヤバいかっこいい惚れる。
これで優しくて頼れるお姉さんなんだからどこからも需要はある。
その証拠に後ろから二十人くらいの修道女がついてきている。
「私、修道院やめました。」
リリィさんはにっこりと笑う。
後ろの修道女達がざわつく。
「…そうですか。出来れば雑談は後ろの方々を説得してからで…。」
リリィさんは後ろを向く。
「あはは…長くなりそうなので、取り敢えずマリさん、お別れの挨拶をさせて下さい。それと…出来ればお別れのキスを…。」
「えっと…キスはしないよ?でも、元気でね。…因みにこれから何処に行くつもりなの?」
少し迷った自分を殴りたい。
私も一日で修道院に毒されかけていたらしい。
「一応、王都でハンターとしてやっていこうかと。」
王都…ね。なら…
「それなら、一つお願いがあるのだけど…。アイリって人、知ってる?」
アイリという名前に、リリィさんは目を細める。
「『死神』と呼ばれている方なら噂程度に。」
…皆知っているんだね。
「その子、私の友…ううん、親友でね。人付き合いは上手くないけど、良い人だし、優しい子だから…出来たら仲良くしてあげて…欲しいんだけど…。」
「マリさんが言うのなら、悪い人ではないのでしょう。私は元々旅人、友と呼べる者など大しておりませんゆえ、その願い、お受け致します。」
リリィさんは本当に修道女って感じがする。
旅人って感じはしないけど、なんで旅人なんてしているのだろうか。
「あの、お時間が…。」
「あっ、学校!?」
リリィさんの腕時計を見ると、後15分程度しかない。
急がないと遅刻する!!
「私の名前出してくれれば大丈夫だと思うから、よろしくお願いするよ。…また、ね。」
私は初めて、リリィさんに全力の笑顔を向けた。
「は、はい!!…また、会いましょう!」
リリィさんは頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
…恋愛感情がなければ同居して紐になりたかったな。
あれ?やっぱり私ってクズ?
…そんなわけないよね。
リリィさんと手を振り合い、私は足早に学校へ向かう。
時間が無いのもあるが、何より周りの修道女達の顔が怖かった。女の嫉妬ほど怖いものはない。
しかも、恐らく、私のせいでリリィさんは修道院を抜けたのだろう。
リリィさんが王都に向かうとなると、修道女達のヘイトは私に向かう筈だ。
リリィさん、しっかり説得してください…。
女の苛めは表面に出ないから…ネチネチしてて、終わらないから…。
「ギリギリセーフ!!!」
「遅刻、だ。入学式の日は5分早いって紙に書いてあっただろう!!」
校門にはリビナード先生がたっていた。
「紙?…なんのこと?」
心当たりが無い。
「…ん?……あ、やっべ。」
え?ちょっと!?
まさか…。
「あ~。すまん、渡し忘れてた。」
私は合格時に貰える筈らしい紙を三枚貰った。
「…取り敢えず、入学金の手続きしよか。…金、あるよな?無かったら私が死ぬぞ…。」
リビナード先生は真っ青になっている。
「一応、お金はありますけど…」
「あ!リビナード先生!!」
「レ、レミュ!?」
「あ、マリ様、何をしていらっしゃるのですか?」
…レミュレット先生!?
ねぇ、やめてよ…話し方が変だよ…?
「レミュ、これには深~い訳が…」
「まさか…プリント…だから入学金も…。」
「リビナード先生!!ちょっとお話があります!」
レミュレット先生はかなり怒っているようだ。
「マリ様は何も悪くはありませんよ?この者にはキツく言い聞かせておきますので、どうか、この度の不手際、お許し…」
「やめて~~!!!」
耐えられなかった。
「なんなんですか!私はただの一般人です!!」
「でも…天帝の使いの方なのでしょう?」
「いつ私がそんなこと言いましたっけ!!?」
「でも雷魔法…」
「普通の生徒と同じ扱いでお願いします!!」
「は、はい、承知しました!」
「普通の生徒にそんな返事しませんよねぇ!?」
「ひいぃ~!!?」
「だ~か~ら~!!リビナード先生も何か言ってやってく…」
リビナード先生は焦点の会ってない目で虚空を見つめていた。
「ああっ!?もう、使えない先生だなぁ…!!」
「すみません!!この者には私から…」
「だからぁ!!!」
説得に45分、お金の件で説明含め15分。
完全に遅刻だ。
いや、元から遅刻だったのだけれど。
…私のせいじゃないし。
「マリ様、この度は私を庇っていただき、本当にありがとうございます!!」
リビナード先生が私に土下座してくる。
「ぶっ飛ばしますよ!?」
リビナード先生まで…。
「マリ様…さ…さん?あぁ、でも畏れ多い…。」
レミュレット先生は…何なんだよ…。
「そういうのいいからぁ!!!」
私は叫んだ。
何でドキドキの入学式でこんなにストレス溜めなきゃならないのだろうか。
完全にスタート失敗した。
友達つくれるか凄く不安になった。
「リビナード先生、これは貸しですからね?」
「あ、あぁ…勿論だ…。」
「成績はちゃんとつけて下さいね…あ、勿論マリさんがそんなことするとは微塵も思っておりま…いませんからね?」
あぁ、もう、嫌いだよ…。
でも、雷魔法は使う場所には気を付けないと大変な事になりそうだね。
そんなこんなで色々あり、私が教室に向かう頃には、入学式は終わっていたのだった…。




