女達の修羅場。
「ん……ふぅ…。」
…ただの意味の無い前書きですよ。
私達は修道院にやって来た。
「本当に…女の子しかいない…。」
…しかも皆可愛い。
「世界で一番可憐で美しい場所よ♪」
「……少しはこの街の外でも見に行ってみては?」
リーゼさんは満足そうに言うが、賛同しかねる。
「リーゼ様、その方は…?」
大人びていて、かっこうよくて、それでいて可愛さも兼ね備えた…二十歳前後くらいの女性が歩み寄ってきた。
私は声が出ない。
「あらぁ?リリィに一目惚れしちゃったかしら?」
リーゼさんがからかうような声で、しかし顔は至って真面目な表情で聞いてくる。
「へ?…あ、いやいや、単に綺麗だなぁ…と。」
「あっ、ありがとう…ございます?」
リリィさんは戸惑いながら頭を下げる。
少し顔を赤らめた気がした。
「お二方は…どのようなご関係で…?」
リリィさんが訪ねてきた。
恐らく私の身分がわからないため、接し方がわからないのだろう。
「マリさんと私は…婚約者よ?」
!!?
周囲の修道女達がざわつきだす。
「嘘をつかないで下さい!!」
私は周囲に聞こえるように大きな声で叫んだ。
「私はただ…街中で…リーゼさんに捕まって…。」
「それは災難でしたね。」
リリィさんは共感するように頷いてくれた。
「…ちょっと、リリィ?」
リーゼさんが軽く怒る。
「いえ…つい本音が…お仕置きですか?」
「それじゃあ、貴女にとってはご褒美じゃない…。」
リーゼさんは何かを思案したあと、口を開いた。
「私、これから糞ジジイ共との会議があるから…代わりに院内を案内しつつ、マリさんのお部屋に連れていってあげてぇ。でもぉ、手は出さないようにねぇ。その子を目覚めさせるのは私だからねぇ?」
「…私の部屋?」
なんか言い方おかしくない?
「ふふっ、マリさんはこの街に来た瞬間から、目をつけていたのよぉ?全部の宿屋に通達だして、試験が終わるまでに皆で部屋を整えて…大変だったのよぉ?」
……はぁ!?
じゃあ、宿って空いてたの?
…全部仕組まれてたってこと!?
「私、宿にいきますね。」
「そんなことをしたらぁ、二度とこの街にはいられなくなるわよぉ?それに、変な噂ばらまくし、最悪、指名手配だって出来るわよぉ?」
……権力には勝てなかったよ…。
…というか瞬殺だ。
「じゃあ、案内お願いします。」
ならば、取り敢えずは一番危険そうなリーゼさんから離れたい。それから色々と考えよう。
私はリリィさんにお辞儀する。
「リーゼ様、いってらっしゃいませ。」
「リリィ、それに皆も、マリさんには絶対に手を出さないこと。ウブな娘を浄めるのは私の仕事だからねぇ?」
汚す気満々でしょう!?
…ここではそれを浄めると言うのか。
リーゼさんは皆から惜しまれつつも、修道院を後にする。
「ふふっ…さて、お部屋に行きましょうか?」
いきなりリリィさんが笑うので驚く。
「…笑うところありました?」
「神様っているのですねぇ…♪」
リリィさんはなんかご機嫌だ。
というか修道女なら神様信じようよ。
「そういえば、院内の案内は…?」
「それは後でもよいでしょう?荷物、ありますし。」
「え!?」
私はバックを肩にかけていることをすっかり忘れていた。
「でも、アイテム袋しか入っていないバックだし、軽いよ?」
リリィさんは首を振る。
「…取り敢えず、部屋にご案内します。部屋の場所を覚えてくれれば、はぐれたり急用が入っても対処出来るでしょう?」
…成る程。
「そうですね。」
私は賛同した。
「ここが、マリさんのお部屋になります。」
「え?こんなに広いの?」
意外と広かった。
一部屋だが、大きなベッド、トイレ、洗面所完備だ。
「リーゼ様が街で見つけた女の子を無理矢理連れ込んで目覚めさせる、来客用の部屋ですから。」
来客?…拉致だよね?
「別名、『目覚めの部屋』。私もここで洗礼を受けて、修道女になってしまいました。私、元は旅人で、ランクAの格闘家でもあるんです。」
「格闘家!?」
他にも気になる点は沢山あったが、ふっ飛んだ。
私以外にもいたんだ女性格闘家!!!
この出会いは大切にしたい。
「やはり、珍しいですよね。」
リリィさんは少し照れたように頭を掻く。
「実は…私も格闘家ランクAをとらされてしまい…」
私も話す。仲良くなりたい。
「本当ですか!?神様って本当にいたのですね…。」
リリィさんが食いついてきた。
でも、何か変だ。
「?…あ、でも私、魔術師だよ?」
「……え?」
何か凄く申し訳なくなる。
「成る程、そんなに都合よくはいきませんよね…でも、この試練、乗り越えてみせます…!」
リリィさんがボソボソと呟いている。
「…あのぉ?どうしたのですか?」
リリィさんの様子が変なので聞いてみる。
「…私は元々、一つの場所に留まるのを嫌う性分でして、前々からこの修道院を卒業しようと考えていたのですが…。何かが私をここに繋いでいるかのように、私を引き止めていたのです。」
唐突にリリィさんが語り始める。
でもそれって、リーゼさんじゃ無いの?
「ですが、今日、やっとわかりました…。」
そう言うと、リリィさんはベッドへと移動する。
私もついていく。
「ふふっ♪このベッド、ふっかふかなのですよ?」
リリィさんはベッドに座り、軽く跳ねると、寝そべった。
私も我慢出来ずにベッドに横になる。
…私の部屋だし、いいよね?
その瞬間、私の上に何かが覆い被さった。
「ちょ!?リリィさん!!?」
リリィさんが私の身体に手を回す。
「やめて下さ…!?」
振り払おうとするが、身体が動かない。
「あれ…何で……?」
がっちりと固められ、しかも力が入らない。
「私は、貴女に出会うためにここにいたのですね。」
リリィさんの顔は初めて会った時とはかけ離れ、全快に発情した、ヤバい顔になっている。
「意味が…わからな…」
「まずは、キス…しましょうか…。」
私は、どうすることも出来ない。
…私が不用意だったのかな?
あのリーゼさんが支配している修道院がまともな筈など無かった。
完全に私の警戒不足だ。
異世界に来て、努力もせずに大きな力を手にいれて、少し浮かれていたのかもしれない。
自分の力に驕っていたのかもしれない。
私の力は最強では無い。
現に今、私は抵抗出来ないでいる。
…というか、リリィさんならいいんじゃ…とか思
い始めている?
リリィさんの唇が近づいて…私の唇と…
「何しているの!!?」
いきなりのリーゼさんの怒鳴り声、そして身体を震わせるリリィさんと私。
「何で…。」
リリィさんは狼狽する。
…助かったけど、なんでリーゼさんがここに?
「ジジイ共と…って話、嘘よ?リリィの様子が変だったから、観察していたら…何?一目惚れしたのはリリィの方だったの?私の言葉には絶対服従…忘れたわけではないわよねぇ?」
リーゼさんはぶちギレている。
でも私、リーゼさんとは絶対に嫌だよ?
「…っ!!それでも、…どうなったっていいから…今だけは…!!!」
リリィさんはキスを強行してくる。
「やめなさい!!!」
リーゼさんが私とリリィさんを引き剥がす。
「私達の邪魔しないで下さい!!」
リリィさんが叫ぶ。
…私達?
「マリさんは私のものよ!!?」
リーゼさんも叫ぶ。
…違います。
「なら、マリさんをかけて、決闘とでもいきますかぁ!?」
「…殺す!!!」
私をかけて殺し合いが始まる…?
冗談じゃない…。
「当事者の意見も、聞けぇ!!!」
私は怒りに身を任せ、叫びながら全魔力を解放し、放電した。
バババババババッ!!!!
室内をに轟音と閃光が暴れまわる。
二人は気絶し、部屋は焼け焦げ。
轟音を聞いた修道女達が慌てて、続々と集まってくる。
私は慌てて二人に回復魔法をかけるため、飴を頬張った。
…そういえば、私、魔術師だったね。
雷魔法使えば、普通にリリィさんロックから抜け出せたんだね。
すっかり忘れていたよ。
魔術師への道は、まだまだ遠いね。
ついデュエルと呼んでしまうのですよね。




