その服、不服です!!
暫く歩くと、服屋に辿り着いた。
うん、でも良かったよ。
まあまあな大きさだが、女性服はこの店のみだ。
恐らく、田舎では需要が少ないのだろうか。
異世界にデパートは無いであろう。
私は高校時代、寂しさからか、女性同士の様々なこと(R18な事は除く)について調べていた。
女性の買い物は大変だと載っていた。
なんでも、女性は色々な物を長時間物色したあと、結局しょうもない小物で妥協するのだという。
しかも、これ可愛い~!!と対して似合ってもいないものをオススメして、 あくまでも自分の方が可愛いという状況を作り出そうとするらしい。
でも、マーラさんはそんなことはしないよね。
恐らくあの人は、着せ替え人形感覚で、人と服で遊びたいだけだろうから。
私達は服屋に入る。店員さんは女性だ。
まぁ、女性の服専門店を男性が経営していたらちょっと引く。
「あっ、これ可愛い~♪」
入るなり、マーラさんはテンプレ的な言葉を吐き出す。
「あっ、これも可愛くない?」
「あっ、これとかどう?よくない?」
何度も私達に振ってくるが、全て苦笑いで返す。
「…なんか、やりにくいわね。」
ついにマーラさんが止まった。
「王都の友達と買い物行くときとか、凄く盛り上がるのに…。なんかないの?その…反応というか…?」
ごめんなさい。苦手です。慣れてないです。
よし、適当に返そう。
「「ぬ~ん。」」
見事にアイリと息があって、私達は驚きつつ、笑いあった。
「ぬ~ん、じゃ、ないわよ!!」
マーラさんだけ不服そうだが。
「仕方ないわねぇ。服選びしましょうか。まず最優先にマリが明日着ていく服ね。」
私達は店内を回る。
「あ、着物?」
着物があった。
「この店は他国の衣装が色々と入ってくるからね。珍しい物は多いのよ。」
マーラさんが答える。
「マリ、知ってるんだ。大和の国の正装だよ。」
アイリさんは、勿論知っている。
でも、正装なんだ。…正装ってなんだ?
「マリは着付け出来る?」
アイリは聞いてきた。
「出来ない。」
日本人だが、着物など着たことがない。
私に七五三なんて無かった。勉強しろって…。
「私も。」
答えたのは、アイリだった。
「え?大和の国出身だよね…?」
私は驚いた。
「大和の国の人間が全員着付け出来ると思うなよ?私が知っている限り、普通の人は出来るけど。」
アイリさんが完全に開き直って言ってくる。
でも、その回答は、アイリさんは普通の人ではないということだ。
何故、国を出て、この王国で冒険者をやっているのだろうか。
聞いて良い事か迷っていると、マーラさんが話し出した。
「私は着付け出来るわよ?教えてあげようか?」
「「お断りします。」」
正直、出来なくても困ることは無いと思う。
私達は再び店を回る。
「…なんか、ドレスが多い?しかも安い…?」
私は素朴な疑問を口にした。
「そうね…。この国では奴隷制度は廃止されてるけど…。隣国では今も根強く残っているのよ。安物のドレスは、女奴隷を出来る限り高く買い取って貰う為かしらね。公にはしてないみたいだけどね。」
…奴隷制度が普通にある世界か。
私は複雑な心境になった。
マーラさんは暫く店内を彷徨きまわると、幾つか服とズボンやスカートを持ってきた。
私の前に持ってきて、眺める。
…いや、どう見ても似合ってない服なのだが、本人は真剣だ。
マーラさんは持ってきた服とズボンを合わせて頷いた。
「これなんて…」
「流石に無いです。ごめんなさい。」
私はマーラさんのあまりのセンスの無さに驚いた。
「残念…ならもう少し待っててね。」
マーラさんは服を持ってまた店の中へと突き進んでいく。
その間に、アイリに質問する。
「もしかして…」
聞ききる前にアイリは察して答えてくる。
「その通り。マーラは驚くほどにセンスが無い。その癖何故か自分のセンスに自信を持っている厄介者。」
うわっ…成る程…嫌だなぁ…。
本人に自覚がないのも悪質だ。
「あれ?」
だが、一つ疑問が出てくる。
マーラさんの服はとてもオシャレだ。
冒険者の服、という感じではあるが、小物や装飾品で良い感じになっていた。
「あれは、王都にいるマーラの友達が決めてるらしい。ファッションデザイナーの人。マーラを誘導するスキルでは右に出るものはいないってトーヤが言ってた。」
もしかして、トーヤさんの制御能力?もその人から伝授されたのかな?
「マリ、この場を切り抜けるなら、自分で服を決めてマーラを説得するしかない。」
アイリは手に服を持っていた。
いつの間に!!
私も服を選びだす。
マーラさんのネタでしかない服選びに付き合いつつ、探す。
あ、これとか良いかも。
これなら、これが合うよね。
以外と早く決まった。
「むぅ…中々やるわね…。」
マーラさんは認めてくれたようだ。
「その服とパンツは買いましょう、あと、下着も幾つか選んで。でも、もう一着くらい必要でしょう?…スカートね。」
スカート指定されました。
実は私、スカートは制服しか履いたことありません。…これが普通かどうかわからないけど。
アイリの方を見ると、もう買い物は終わっていた。
「アイリ、私に何も言わないで買っちゃうんだもの。」
私ならもっと良いもの選べたのに…とぶつぶつ呟いている。
「じゃあ、マーラさんとアイリに選んでもらって、私が気に入った方を買うってどうですか?」
私の提案にマーラさんはすぐさま賛同してくれた。
「良いわね。貴女のこのみを意識しつつオシャレに仕上げる…。腕がなるわ♪」
マーラさんは自信満々だ。
「了解した。」
アイリもOKなようだ。
私は念のため、アイリの耳元で囁く。
「ふざけたら、許さないから。」
「わ、わかってる。」
アイリは少し動揺し、残念そうにしたような気がしたが、流石にこの状況での悪ふざけは許さない。オシャレは女のなんとやらだ。
「勝者、アイリ!!」
アイリは控えめながらも主張は忘れない、凄く良い感じの組み合わせな、黒地に軽い模様の入ったカットソーとひざ丈スカートを選んでくれた。
…マーラさんはというと、春物らしい紫の穴あきセーターモドキに、赤と青のどこかの民族衣装のスカートだった。
…これが私のこのみだと思われていたのかな?
「私、二人の服、一つも決めてないじゃん!!」
マーラさんは店を出てから気が付いたらしい。
店に戻ろうとするマーラさんを、私達は必死に止めた。
…そのため、宿までの帰り道は、ずっとマーラさんの愚痴を聞くはめになってしまった。
「う~今度は私が選ぶからね!!」
「そのときは、マーラさんの友達と一緒でお願いします。」
「ふふっ。あの子も私に負けず劣らずなファッションセンスしてるからね。期待して良いわよ♪」
一気に不安になったが、マーラさんを見る限り、恐らくは大丈夫な筈だ。
何はともあれ、服は無事に買えた。
これで、面倒臭い状態のマーラさんともおさらばだ。
明日には、また頼もしいお姉さんなマーラさんが帰ってくると信じて、私達は宿に向かうのであった。
今回から、0時更新に統一しようと思います。




