わけがわからないよ(ガッド視点)
ガッドさん目線でのお話です。
前回のストーカーズの行動を変更しました。
弓使いの人、サイという名前だったのですが、私が忘れてトーヤにしてしまったため、サイさんの事は忘れて下さい。(改稿済み)
「アイリ、もっと速度出ないか?」
「キツい。私の戦いは基本暗殺。バレたらクソ雑魚。元々は王を殺して私の手柄にする算段だった。けど、数多すぎ。王も固そう。」
「最低だな!?」
俺達がわざわざ王都からこの街、インタルに来たのには理由があった。
緊急依頼 [インタル]
ランクB以上のパーティ限定
最大規模のゴブリンの群れの殲滅
250000G
ゴブリンの割に良い金額だった。
インタルの街は観光地としても人気で行ってみたかったが、田舎であり、良い依頼があまり無いと聞いていたので、俺達には行く機会が無かった。
俺達の前に依頼を受けた新米のランクBパーティが青ざめた表情で戻ってきた為、俺達が変わりに受けた形となった。
その時は、彼等が阿呆みたいに突っ込んでいって返り討ちにあったのだと思っていた。
弓使いのトーヤは検定の日と重なってしまい悔しがっていたが、変わりにアイリが加わってくれた。報酬の山分けと食事、温泉代を条件に。
アイリは王都でも名の知れたランクBのハンターであり、次期ランクA候補筆頭だったので、迷わなかった。
そして、インタルに着いた。
直ぐに偵察に向かった。
有り得なかった。
普通、ゴブリンの群れは二、三十体程度だ。
俺達は、最大規模という言葉を嘗めていた。
恐らく、俺達の前に受けた彼等も。
ゴブリン達は、六十体を遥かに超えた、巨大なコミュニティを造っていた。
僅か三人、そして大勢相手にはバランスが悪いパーティで勝てる見込みは薄かった。
そして、何より驚異だったのが、ゴブリン達の長、ゴブリンキングだ。
ゴブリンキングの強さはコミュニティの大きさに比例する。巣穴にいるのか、姿は見えなかったが、恐らくは化け物サイズだ。
ゴブリンキングの皮膚は硬く、並の刃物では太刀打ち出来ない為、アイリのミスリルナイフが頼りだったのだが、俺達の推測するゴブリンキングの大きさと皮膚の厚さから考えて、一撃では仕留めきれないかもしれないという可能性が出てきた。
ゴブリン達はキングがやられると、焦り、逃げ出す。逃げ出した奴等は現地のハンター達とも協力して殲滅する。
これが俺達の計画だった。
たが、巣穴にいて、一撃では仕留めきれないとなれば、返り討ちにあう。それは、アイリの死、俺とマーラの負傷、若しくは死を意味する。
そんなわけで、俺達は全く使われた様子の無い、ギルドの裏の解体場で戦略を練っていた。
「せめてトーヤがいてくれれば…な。」
だが、いない人間の事を考えても無駄だ。
「アイリはどれくらい逃げられる?」
「無理。数が多すぎる。」
「なら、俺が囮になって引き付けた場合は…?」
「どちらにせよ、マーラの攻撃は爆発しか無いし、注意はそっちに集まって、囲まれる。」
「じゃあマーラを囮に…」
「マーラ確定死、それでも確率は五分五分。」
「なんか、ごめんね。」
マーラは申し訳なさそうにしている。
「いや、マーラのせいじゃない…。が、やっぱり数が足りねぇな。」
ゴブリン達のいる岩場は、特に何があるわけでもない為、商隊が襲われるようになってから群れが発見されることとなった。
商隊に付いているハンター達は盗賊避けのあまり強くは無いハンターだし、ギルドのハンター達もその日暮らしの低ランクハンター達だ。
わざわざ囮として死にたがる奴はいないだろう。
そうなると後は…。
「マリちゃんの手を借りる?」
マーラが言い出す。
「マリには悪いが、俺も同じ事を考えていた。アイリはあいつが何の依頼を受けたか知っているか?」
「さぁ?でも、簡単な依頼って言ってた。」
俺達はギルドに戻り、マリの帰りを待つ事にした。
…が、
「はぁ?何で今ゴブリンの依頼になんか出させるんだよ!?」
俺はキレた。彼女はゴブリン討伐の依頼を受けたのだという。危険度MAXだ。
「だが、東の岩場には近付くなとは言ったぞ!!」
ギルマスも反論してくる。
彼もまた、ゴブリン三匹にしてはマリの帰りが遅いことを気にかけていたらしい。
「だが、」
俺が言いかけると同時に、マリに付いていったらしい冒険者達が青ざめて帰ってきた。
「おい、マリはどうした!?」
俺は辺りを見渡す。
マリは、いない。
「………。」
誰も、何も言わずに、席に着き、無言でテーブルを見ている。
「おい、ロギ、マリはどうした!?」
ロギ…この街の冒険者では一番強いであろう、ランクCのハンター話しかける。
彼は、暫く黙っていたが、やっと重い口を開いた…。
「………あの嬢ちゃんは何者だ?」
第一声がそれだった。
「は?」
当然聞き返す。意味がわからない。
「あんなの、人間のやれることじゃねぇ…。」
ロギの話によると、彼女は平然とゴブリン達の心臓を素手で貫いていったらしい。
…ゴブリンキングも一撃で。
そして、血濡れた格好で、しかも笑顔で、嬉しそうに、彼等に声をかけてきたそうだ。
……全く意味がわからない。
…ゴブリンは六十体を超えていた。
…ゴブリンキングはミスリルの武器で何とか切り裂けるくらいに硬い。
…というかまず、素手で心臓を貫くって何だよ。
「マリ、凄い!!」
このギルド中で、正気を保っていたのはアイリだけだった。
「多分マリじゃ沢山のゴブリンを運べない。手伝いに行こう!!」
このギルドの中で、生き生きとしているのはアイリだけだった。
俺達は、無言でアイリの意見に従った。




