無知で勘違いで忘れん坊な女の子。
私がゴブリンの後を追うと、草木が減っていき、石や岩がゴツゴツしてきた。
そのまま尾行を続ける。
暫くすると、開けた場所に出た。
木々は無くなり、日光は眩しい。
そして…。
「ゴブリンが沢山いる!!」
これは… ゴブリンの巣だね。
凄く多い!
とっても沢山!!
メッチャいっぱい!!!
気持ちを落ち着かせて、取り敢えずは観察してみる。奥の岩山に洞窟があるね。沢山。
真ん中の一際大きいのがボスの巣穴…とかかな?
「ゴブ~!!」
私が冷静に観察していると、さっきのゴブリンが獲物を置いて、こちらにやって来た。
完全に、私を見ている。
もしかして、嵌められた?
ゴブリンの掛け声で、一斉にゴブリン達がこちらを見てくる。
私は興奮してきた。
あ、違う違う、ゴブリンに見られて興奮したわけじゃないから。
捕らえられたその後を想像して興奮したわけでもないから。
君達、そういう想像しか出来ないの?
初めての実戦で興奮しているだけだ。
「私の初めてはゴブリンか~…。」
正直、ドラゴン的なのを倒して、華々しくデビュー戦を飾りたいとか、少しだけ考えていたが、そんなに上手くはいかない。
アイテム袋小さいし。
後ろから、ハンターの叫び声が聞こえた気がしたが、無視する。
どうせ、
「共闘しよう、ゴブリンは山分けな!!」
的な考えだろうし。
私の獲物だ。譲るものか!!!
私はゴブリン達の前へと飛び出す。
小手試しに跳び膝蹴りを叩き込む。
ゴブリンは弾け飛び、絶命した。
…やっぱり弱いね。
裏拳でも一撃。吹っ飛んだ。
あれ…?これってどこかで…?
チョップ!!
「ちゅどーん」
………。
ウルフ戦だ、これ。
私の初めてはウルフでした。
私はいちいち技を変えるのも面倒になり、ストレートを打ちまくった。
皆ワンパンだよ…。私、禿げてないよね?
どうやら、私の電光のようなストレートを交わせるゴブリンはいないらしい。
やはり、耐えられるのは歴史ある古武術使いくらいなのだろう。
私は一度辺りを見渡し、大問題に直面した。
ゴブリン達が吹き飛びまくっているせいで処理がとても大変そうなのだ!!
「これは、不味いよね?」
どうすれば吹き飛ばないかな?
試しに、ゴブリンの片腕を持ちながら殴ってみた。
「ズドッ、バスン」
あ、腕が抜けた。
肩からブツンと切れている。
「駄目…か。」
失敗は成功のもと。
すぐさま次の案を思い付く。
手を広げ、指間を閉じ、爪にゴブリンの肉が入らないように指先を少しだけ曲げる。
そして、ゴブリンの心臓に全力で打ち込む。
「ギュンッ」
貫いた。吹き飛ばない。成功だ!!
ゴブリンは絶命する。
…なんか、ゴブリンが可哀想になってきた。
「ギュンッ」
囲もうと、何しようと、奴等に私を止めることは出来ない。
「ギュンッ」
このゴブリン達、全員が悪さをしてきた訳では無いだろうに…。
「ギュンッ」
見た目は悪く、人間に近いものを食べる為、害獣認定されていると、マーラさんとの雑談で聞いたが、ちゃんと知能はあり、愛もある。
「ギュンッ」
子供を守る親ゴブリンも結構いた。
「ギュンッ」
子供だけでも逃がしてあげたいが、人類の敵だ。
後に敵になるような存在を生かしてはおけないのだ。
「ギュンッ」
洞窟の中もしらみ潰しに探していく。
…ちゃんと、家庭になっていた。
「ギュンッ」
ゴブリンの子供が必死に隠れている。
「ギュンッ」
私が洞窟に入っている間に逃げ出そうとするゴブリン達も殲滅する。
「ギュンッ」
いつか、人類とゴブリンが和解出来る日が来れば良いのにな。
「ギュンッ」
先程から、考えている事とやっている事が矛盾している気がする。
私のニート適性度、高いな。
そして、全くゴブリン達に情は湧かない。
…それほどにゴブリンは醜く、臭く、気持ち悪かった。
見た目と清潔度って大事だね。
気が付くと残りは一番大きな洞窟だけになっていた。中から大きいゴブリンが…
「ギュンッ」
ゴブリン殲滅完了。
後は、処理するだけだ。
この大量のゴブリンを…。
私は着いてきていたハンター達を呼ぶ。
「今ならゴブリン、無料でプレゼントですよ~!!」
がさがさっ…。
ざっ…。
冒険者達は、何故か一斉に逃げ出した。
…答えは本当に四だったようだ。
私がゴブリンを呆気なく倒しちゃうから、残念がって帰ったのだろう。
「ざまあみろ。」
強がってそんなことを言ってはみたものの、ほんの少しだけ寂しかった。
…このタイミングで気が付いた。
この場所は…恐らくエリーさんの言っていた場所に違いない、と。
確か、ゴブリンを追って東に向かってしまった筈だ。そして、岩場。
間違いない。と、すると…。
何かヤバイのが居るのかな…?
ゴブリン片付けてたら来るかな?
取り敢えず、冒険者達はこの岩場に出没する何かを怖れて逃げたのであろう。
しかも、声だけだが、私を引き止めるどころか、遠くからではあるが、見守ってくれてまでいたのだ。
「やっぱり、異世界人は良い人ばかりだね。」
感謝で胸がいっぱいになる。
私はゴブリンを出来る限り持ち帰る方法を考えながら、来るかもしれない決戦の時に向けて、覚悟を決めた。
ゴブリン三匹、というのは一気に三匹を相手にしろという意味ではありません。
一対多が避けられない依頼では、ランクは跳ね上がります。
興奮にムラムラとフリガナを振るのはアウトだと思い、止めました。健全な小説ですので。




