人類は皆、ストーカー。
「おはよ~ございま~す。」
「あら、マリちゃん、おはよう。」
二階の宿泊部屋から宿屋の食堂に向かう途中でマーラさんとアイリにバッタリ会った。
「ガッドさんは?」
「さっき鍛冶屋に武器を取りに行った。」
アイリさんはまだ眠そうに目を擦っている。
私達はそのまま、食堂で朝食を食べる。
「サンドイッチにスープ…美味しい!!」
朝はあまり食べない派の私が完食するくらいに美味しかった。
「さてと、マリ。今日から依頼行くんでしょ?」
アイリさんが突然切り出した。
「うん、まずは簡単そうな依頼から、かな?」
「一人で行くの?」
マーラさんも聞いてくる。
「うん、簡単そうな依頼なら大丈夫でしょ…。」
多分。言ってて少し不安になったが、大丈夫な筈だ。
「私達はフォーメーションの最終確認とか、決戦への準備とかあるから…取り敢えず、問題は起こさないようにね。」
アイリさんがフラグを建てた気がしたが、気のせいであろう。
「気を付けてね。」
マーラさんも心配してくれる。
こういうのって嬉しいね。
お金はまたもやマーラさん達に払って貰った。
依頼で稼いで、今度は私が奢ってあげられるように頑張らないとね!!
私達は少し食後の雑談をしたあと、別れた。
私はギルドに向かう。
「あ、マリさん!!」
ギルドに入ると同時に、エリーさんの嬉しそうな声がギルド全体に響き渡った。
ハンター達もギルド職員も、一斉に私の方を向く。何か、凄く恥ずかしい。
…エリーさん…怒るよ…?
「エリー、五月蝿いよ!!それに、マリちゃんが可哀想だろう?」
エリーさんは私の代わりにオバサンに怒られている。
「…すみませんマリさん。」
エリーさんは私に謝ってきた。
良い人だということはわかっているので、普通に許す。
「それで、ギルド登録は…。」
「はい、完了しましたよ。それでなんですけど…。」
エリーさんが言いずらそうにしていると、奥から筋肉ジジイが出てきた。恐らくは…
「…ギルマス?」
「おお、よくわかったな!!」
何か、風格あるからね。
強そうな感じがする。
「すまない。」
ギルマスは出てくるなり、謝罪してきた。
やっぱり近接魔術師は駄目だったかな?
「こんな田舎の街でいきなりランクCになる者が出るとは…予測出来なくてな。」
ギルマスは頭を掻いている。
白髪だが、おでこから天辺にかけての大部分はもう剥げている。これならもう抜け毛の心配しなくて良さそうだね。
私がとてつもなく失礼な事を考えていると、エリーさんが説明してくれた。
勿論、ギルマスの頭について…ではない。
「ハンターはランク毎にそのランクに見合ったアイテム袋が貰えます。しかし、ランクCは想定していなく、現在、ランクE用の物が最大になります…。」
「ランクDも想定していなかったんだ…。」
「わざわざこの街でハンター登録をする者なんて殆どいないからな。」
ギルマスも説明に加わる。
確かに、実力のある人がこの街でハンター登録する場合なんて想像つかないね。
「商人とか、持っているんじゃないの?」
「商人は基本、商業ギルド指定のアイテム袋しか持っていません。交易には普通のアイテム袋は使えないのです。」
何?その地域指定のごみ袋システムみたいなの。
でも、密貿易との見分けがつきやすそうだ。
確かに理に適ってはいるのかも。
「で、だ。少しの間、ランクE用のアイテム袋で我慢してはくれんか?」
うーん、私は異世界チート系主人公が大抵持っている筈の無限収集アイテム袋を持っていない。
力と収納のバランスが最悪だ。
「因みに、どらくらい入るの?」
「ゴブリン3匹くらいかのぉ。」
少なっ!?
「…少ないね。でも取り敢えずはそれで良いや。」
そこで私は閃く。沢山貰えば良いじゃないか!!
「何袋あるの?」
「…丁度一袋しかない。この前三組のパーティが一斉にランクEになってな。新しく届くのはもう少し先になるらしい。」
本当に、すまん。とギルマスは謝ってくる。
「大丈夫ですよ。それで、ギルドカードの方は…。」
取り敢えず、もう禿頭は見飽きたので、妥協する。
「はい、こちらがギルドカードになります。それと、これがここら一帯の地図になります。あ、因みにアイテム袋には生きている物は入りませんからね?」
これも、異世界系小説ではよくある設定だ。
私はエリーから、ギルドカードとアイテム袋の他に、地図を貰った。
それらをアイテム袋に投げ入れ、依頼が貼られているボードの前に行く。
色々ある。
が、アイテム袋の容量を考えての依頼選びとなる。
うん、丁度良い依頼がありますね。
ゴブリン3体、討伐。
ランクEの依頼だ。
カウンターに持っていくと、エリーさんは微妙な顔をする。ギルマスもだ。
「このタイミングでゴブリンですか…。」
どうしたのだろう。
「えっと、街を出て真っ直ぐの森でゴブリンを狩って下さいね。絶対に深追いは禁物です。特に、東の岩場には絶対に行ってはいけません。」
ギルマスも何度も頷いている。
「わかった。行ってくるね。」
「待って下さい!!」
私は依頼を受注し、ギルドを出…ようとすると、
エリーさんに止められた。
「その格好で行くのですか!?」
「虫とか凄いの?」
Tシャツと短パン、動きやすい靴。
これの何がいけないの?
「いえ、汚れますよ?それに防御力無さそうですし…。」
「汚れは回復魔法でどうにでもなるみたいだから大丈夫。それに、動きやすいし。」
実は朝、サンドイッチを服に落とした。
が、二人にバレたくないと、全力で回復魔法をつかったら、何とかなったのだ。
「き、気をつけて下さいね。」
「うん、行ってくるよ。」
私は笑顔でギルドを出た。
街の外へと歩いていると、後ろから男のハンター達がコソコソとついてくる。
門兵にギルドカードを見せて、外へ出る。
やはりついてくる。
ここで考えられるのは四つの可能性だ。
一、新米ハンターには見張り的なハンターが必要。
人数的にこれは無さそうかな?
二、一人でクエストに出た私を心配してついてきている。
これはありそう?ガッドさんの進言をギルマスは普通に信じたみたいだが、 普通は信じられないもんね。
三、獲物の横取り。
これは…意外とありそう。
四、私がゴブリン達にあんなことやこんなことをされるのを期待している。
これだ!!多分男なんて皆そんなことしか考えてないと思う。微妙に女ハンターも混ざっている気もしたが、気のせいだろう。もしくはそういうのが好きな女性かな?
私の偏見により、ついてきているハンター達は皆、変態なドクズということに決まった。
そんなどうでもよい事を考えながら森の中へと入っていくと、ゴブリンを見つけた。
一匹だ。角の生えた兎の死体を担いでいる。あれが角兎かな?
私は観察を続ける。
依頼は三匹だ。足りない。
それに、角兎を食べていない。何処かに運んでいるようだ。つまり…。
「これについて行けば、巣に着いたりしないかな?」
そうすれば、三匹どころか沢山倒せる。
持てない分はついてきているハンター達にあげてしまえばよい。
突然、ゴブリンが走り出した。
もしかして、ばれた?
慌てて後を追う。
方角を、一切確認もせずに…。




