電気娘はサ○ヤ人の夢を見るか
「広い…。」
ものすごく広い街だ…。
あれは、領主の家かな?
あそこが服屋か…。
お、食べ物屋。
屋台もいっぱいあるね。
八百屋さんまである!!
これは…調味料!?
本当に様々なものが売っている。
珍しいものが沢山売っているためか、観光客も多い。それに、見るからに異国の人も少なくない。
なけなしのお金で買ったジュースを飲みながら、適当にブラつく。
見たところ、私の知っている食べ物も結構あった。
「このミニトマト、ソースにする前提なんだ…。」
私のもといた世界でも、品種改良前はそんな感じだったと聞くが…。
「うん、食べていくには困らなそうかな?」
ジャガイモに小麦粉、パンも売っている。
お米も高いがあるっちゃある。よしよし。
お魚は乾燥している奴しかないか…。
「ん?おっ!?」
ある店の前で足が止まった。
「鍛冶屋!!」
そっと店内に入る。
かなり長い時間散策していたため、もうガッドさん達はいなかった。
「おお~。」
ナイフとか盾とか!!
ヤバイ、興奮してきた!!!
「ん?嬢ちゃん何かようか?」
カウンターのオジサンに話し掛けられる。
「あ、いえ…お金が無いので…。見学…的な?迷惑でしたか…?」
店からしたら迷惑な客だろう。
「構わん、そんな嬉しそうにナイフ見られたら俺も嬉しい。」
本当に嬉しそうだ。
「この盾、触っても良いですか?」
鉄で出来た盾を指す。
「頑丈だから大丈夫だぞ。」
お言葉に甘えて軽く触る。
「バシュゥゥン」
「いったぁぁ~。」
私は静電気体質な事をすっかり忘れていた。
中学時代、友達に静電気の音を聞いたときは驚いたものだ。
私はバチッなんて生温い音の静電気を知らない。
私の中の静電気の常識は、指が弾け飛ぶようなとてつもない痛みと、青白い電光、そして、指の神経を感じられるほどジンジンするか、感覚が無くなり、少しの間痙攣するかだ。
「嬢ちゃんどうした!?」
オジサンが慌てて出てくる。
「ごめん、静電気。」
「…?なんだそれは。」
あれ?静電気…知らない?
というかサヤから貰った言語記憶のどれにも静電気という意味の言葉が存在しない。
それどころか…
「電気って知ってますか?」
「はぁ?何かの武器か?」
まさに、電気という概念が存在しない世界、だ。
というか、電気が存在していない?いや、雷くらいあるでしょう?
じゃあ、解明されていないのか?
「鉄を触るとバチッとなることとかって…。」
「嬢ちゃん金属アレルギーか何かか!?」
あれ?異世界人って静電気起きないの?
そんな事を考えていると、奥から奥さんが出てきた。
「ガイル?どうしたの?」
「ラッタム…嬢ちゃんがな…。」
ガイルさんが説明する。
「静電気?知らないし、鉄を触って痛かったことなんて無いわ。」
「だよな。」
「ありがとう、この話はもういいよ。」
私の頭のなかにもしかしたらの可能性がよぎる。
「そういえば嬢ちゃん、商人か何かか?」
「マリよ、冒険者になったばかり。」
「冒険者!?…なったばかりってことは、ナイフとかもってねぇのか?」
便利だぞ?と宣伝してくる。
「でも…お金が無いから…。」
「後払いで良いぞ?」
この世界の人は優しすぎる。でも、私が可愛い女の子だからかな?
「じゃあ、お言葉に甘えて…。」
ガイルさんはナイフを出してきて、私に持たせてくれる。
「クシャ」
明らかにナイフを持ったときに出ない音がした。
私がゆっくり手を開くと…。
柄の部分が消滅、粉砕され見るも無惨なことになっていた。
「「……。」」
「ごめんなさいぃ…。」
私は謝る。
「こんなの初めてだ…。」
ガイルさんは壊れたナイフを眺めている。
ラッタムさんは奥に行ってしまった。
「弁償は…。」
「しなくて良いわよ?武器が壊れたのはこちらの責任だしね。」
ラッタムさんが戻ってきた。
手に何かを握っている。見た目で用途はわかった。握力計みたいなものなのだろう。
「その代わり、少し実験させて欲しいの。」
ラッタムさんは少女の時の気持ちを取り戻している…
かのように、目をキラキラさせてこちらを舐めるように見てくる。
「はい、まずこれを握って!!」
ナイフを壊した手前、私に拒否権は無さそうだ。
私は軽く握った。
「クシュ」
少女のくしゃみのような音がした。
が、勿論ここに少女なんていない。
くしゃみのしたのは握力計だった。
持ち手は崩壊している。
「武器、持てないな…。」
ガイルさんがボソッと呟いた。
ラッタムさんは嬉しそうに加工してある、小さくて綺麗な鉱石を持ってくる。
「今度はこれ!!」
私はそれを指で摘まみ、力を込める。
「ぬぬぬ…。」
固い。が、今の私の敵ではない。
「プシュッ」
格闘すること六秒、鉱石は呆気なく潰れてしまった。
ガイルさんもラッタムさんも白目を剥いている。
これ、そんなに固い鉱石だったの?
「…それ、ミスリルなんだけどね。加工して強度も増してるはずなんだけどね。」
ラッタムさんがボソボソと呟いた。
ミスリルでしたか。異世界最強度の鉱物としてよく異世界系小説に出てくるあれだ。
私の力、どんだけあるんだよ…。
「嬢ちゃん、武器は要らねぇと思うが、もしかしたら宵闇のミスリルって呼ばれている紫黒のミスリルなら、嬢ちゃんの力に耐えられるかもしれねぇ。ミスリルを喰らう、ミスリルタートルの中でも紫黒の、希少種からしか取れないレアな素材だが…。見つけたらここに持ってこい。最高のグローブか何かを作ってやる。」
ミスリルって食べられちゃうの?そこまで固くないのか?
だが、ミスリルタートル…これは覚えておいて損は無さそうだね。
「ガイルの腕は王国一なのよ?今こそ歳で隠居する感じでこの街に来たけど。昔は十ヶ月先まで予約でいっぱいだったわ。王都で知らない人はいなかったわね。」
そんなに凄い人なのか!!
これは頼もしい。というかこの街すげぇ!!
「わかった、見つけたら必ず持ってくるから、その時はよろしくね。」
私は約束をして、武器屋を後にした。
もう少ししたら夕方かな?
私はこの街の端にある空き地に来ていた。
勿論、試したいことは山程ある。
先ずは、身体能力。
ジャンプ!!!
雲を遥かに飛び越した。
「ぬぉっ!?」
頭が痛いっっ。
飛びすぎた。気圧の変化に耐えられない。
しかも変な声出たよ…。
でも、これなら…。
私は軽くジャンプすると、高速でパンチとキックを次々と繰り出した。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ~。」
あぁ、やはり力が入らない。
群馬県民は度々戦闘民族と呼ばれるが、本物の戦闘民族には程遠いようだ。
続いては魔法、使えるようになったかな?
ギルドに行く途中の雑談で、マーラさんから話を聞いたが、魔法には得意不得意があり、三属性使えるのが平均らしい。
先ずは火、
「灼熱の爆炎よ、燃え盛れ!!!」
手を翳す。すると…
掌にマッチかライターレベルのショボい炎がついて、消えた。
はっず!?恥ずかしすぎる!?
私は慌てて周囲を確認したが、誰もいなかった。
続いては水、私の頭より大きい水球が出来た。
まぁ、私の頭が小さめなだけかもだけど。
「お、水球操れる!!」
漫画感覚で操れた。ギュンギュン音をたてて洗濯機の内部のように水が暴れまわる。
…が飛ばせない。全く。
そして、風、土、光、闇は全く使えなかった。
どれも便利だから使いたかったのに。
だが私にはアレがある。私は両手の掌を近付け、電気をイメージする。
「バチチチチッ!!」
出来た!!かなりの出力だ。
やはり私の得意属性は電気魔法のようだ。
だとしたら、もといた世界の人々は皆電気の魔力を持っているのかな?
もしかしたら、魔法核が僅かに開いているから静電気が起きるのかな?完全に開くと、電気魔法が使えるようになる…と?
色々おかしな感じはするが、取り敢えずはそれで納得することにした。
そして、最後に必殺技だ。
私は腰を落とし、右側に捻りつつ手に力を込める。
「か~め~…」
結果は駄目だった。
「明日は依頼を受けて、ついでに電気魔法を試してみようかな?」
実戦で電気魔法を使う。そう考えるとワクワクしてきた。
「♪」
私は上機嫌で宿に向かうのであった。
これは…許される範囲…ですよね?




