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右手の人差指 ――罪人。少女

少女。宮川皐月。

 転生する前は、地味でオタクで、ゲームの世界でしか人生の楽しみを見いだせない人間だった。自分に自信を持てるような顔じゃなかったから、うまく笑うことなんかできない。だからどんどん暗くなっていく。

 友達ができなかったから学校に行かなくなって、親が怒鳴るようになって、引きこもりを始めたら持っていたゲームを全部捨てられて。

 ぜーんぶ嫌になったから電車に飛び込んだ。あんな親大っ嫌い、せいぜい賠償金で苦しめ。


 報われない人生を送ってきた私に、神様がご褒美をくれた。ゲームの世界のヒロインになれたんだ。

 ヒロインだから、もちろん可愛い。雪のように白い肌、朱がさした頬、大きな瞳、サラサラの黒髪。絶世の美少女ってきっと、私のことよね。

 もちろん目指すは逆ハーレム! 攻略対象は全員生徒会役員だった。あんまり難易度の高くないゲームだったから簡単にみんなの好感度を上げることができた。


 でもこのゲーム、いまいちスパイスが足りなかったんだよね。だって悪役がいないんだもん。すごーく平和な世界!

 唯一いるとすれば会長の婚約者で、ヒロインの親友だった朔夜かなー。でもあの子もゲームの中では準ヒロインみたいな感じで、悪役らしいことなんて一切しないんだっけ。

 私が会長ルートに進んだ時は別の攻略対象とくっ付くんだよね。他の攻略対象ルートならそのまま会長と結婚するし、逆ハールートなら大人しく身を引くし。


 ――――そういうのって、なんかさ、つまんない。


 大体この世界は私のための世界なんだからさ、準ヒロインとかさ、邪魔なだけじゃない? 私だけが攻略対象に愛されてる世界のほうがよっぽど気持ちイイ。

 だから“彼”の助言通り、あの子には物語の“悪役スパイス”となってもらった。方法は簡単、彼の言うとおりに表情を作るだけでよかった。


 たとえば、陰であの子にいじめられてるの、と悲しそうな顔をしてみたり。

 たとえば、あの子の前ではちょっと暗い顔をして、あの子がいないときに抜群の笑顔を見せてみたり。


 そしたら、とっても面白い展開になっちゃった。

 副会長を筆頭にあの子をどんどん虐めるようになって、学園の皆からも無視されて、準ヒロインから凋落した悪役スパイスになった二階堂朔夜。

 誰からも愛される私とは対極の存在。やっぱりこういうのがいないと私の存在が引き立たないわよね。


 でも朔夜、自殺しちゃった。何が原因かな。


 副会長小野寺真琴のファンクラブに暴行、強姦され、その汚らわしい写真をばら撒かれたこと?

 会計音泉亜樹・真樹に階段から突き落とされて左足に後遺症を持ったこと?

 書記黒田真司に体育館倉庫に閉じ込められストレスで右目の視覚障害を患い、さらにその右目を思い切り殴られたこと?


 それとも案外、ふふっ、


 恋人だった会長柏原雄介を私に盗られたことかな。


 死体を見るのなんて初めてだったからちょっと興奮しちゃった。

 ぐちゃぐちゃで気持ち悪い。こんなのが準ヒロインだなんて、やっぱり原作はおかしかったんだよ。

 私の改定した世界のほうがよっぽど胸がすっきりする。雄介も他のイケメンも、ぜーんぶ私の物。


 でもやっぱり引き立て役がいないとグダグダになっちゃうから、さっさと代わりを見つけないとね。

 そんなことを考えていたら、これまた神様の贈り物かしら。ちょうどいい時期に女子生徒が転入してきた。


 さぁ、私の世界を引き立てて?



「君が転入生だねっ!」



  右手の人差し指 で、その整った顔を指さした。




*  *  *




 学園全体のあこがれであった生徒会役員の、連続不審死。全員死因は分かっていて他殺の可能性はゼロとされたものの、普段の彼らからは想像もつかない死に方に学園は騒然としていた。

 副会長は音楽室で首を吊って自殺。双子の会計は生徒会室の窓から転落して死亡。書記は昔住んでいたという場所の近くの道路で、トラックにはねられ即死。

 警察は学内に立ち入ることはせず、すべては暗黙のうちに金で片を付けられた。醜聞となる要素は徹底的に排除する、という学園の体質が、奇しくも正しい捜査の手を阻んでいたのだ。


 事件性はなし、という言葉に納得するほど生徒たちは能天気な頭をしているわけではなかった。

 生徒会役員がある女子生徒を虐め、自殺に追い込んだことから、「あの女の祟りだ」と実しやかに囁かれた。

 やがて噂は芽吹き、伝染する。



「ついに真司まで死んじゃった……」

「……悲しいですか?」

「そりゃあ、悲しいよ。友達だったもん。でもそれ以上に怖いの」



 めったに使われることのない理化学準備室。そこが彼女と彼の逢引の場所だった。

 スーツを完璧に着こなしている美麗な男と、学生服を自己流にアレンジしている女。そこに年の差があるのは明らかであり、誰が見ても“禁断の恋”をしているように思えた。

 実際に彼女と彼は既に肉体関係があった。彼女は数か月前まで生徒会役員を侍らせており、処女も捨てていたが、学生とはまるで経験値が違う彼に夢中だった。

 最近では授業をさぼっては、この準備室にきている。そうして、示し合わせたように現れる彼と、何度もまぐわっていたのだ。



「順番どおりにいけば次は会長で……そのあと私にきたらどうしよう。あの子の祟りなんでしょ?」

「ですが、その女生徒とは親友だったのでしょう?」

「でもっ! でもでもっ、逆恨みされてるかもしれないじゃん。雄介も私のこと好きって言ってたし……」



 他にもいろいろした覚えがあるのだが、女はそれ以上は言わなかった。彼には最高の自分を見せたい。そんな思いが彼女の口を噤ませた。

 悲しそうに目を伏せる彼女の肩をやさしく抱き込み、その額に唇を落とす。

 ついさっきまでの情事の名残なのか、彼が触れた個所から熱が伝わる。彼女は珍しく、演技でもなく、頬を真っ赤に染めた。



「大丈夫ですよ。皐月さんのそばには私がいますから」

「うん……私のこと、守ってね? 要さん」



 密やかに愛し合う二人とはそう遠くないところで、最近転入してきた女生徒が「自殺した女の祟り」という噂にこう呟く。

 本当の始まりはそこだったのか、と。


 やがて噂は変容し、伝染する。


いつもは4話同時に投稿するのですが、執筆中小説が10を超えて管理しづらくなったので今回は2話に分けて投稿します。

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