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右手の親指 ――罪人。書記

 書記、黒田真司。

 副会長と双子の会計が死んだ。


 副会長は音楽室のピアノの上で首をつっていた。

 それ以前に彼は「誘拐され指を折られた」と主張しており、実際に彼の指は痛々しいまでに腫れあがっていた。

 しかし誘拐されたという彼の言葉を裏付ける証拠は一切見つかっておらず、たった一日彼の姿を見る人間がいなかった、それだけの事実のまま大きく取り上げられることはなかった。

 遺体が見つかってから分かったことだが、彼はその後家から切り捨てられたらしい。結局“小野寺”の名字を継ぐピアニストが舞台に立つことはなかった。


 双子会計は縺れあうようにして割れた窓から落ちていった。

 突然学校を休み始めたかと思ったら髪型と顔の造形を変えて帰ってきた二人。奇妙なことに二人は全く同じ顔だった。

 同じ顔、同じ髪型。それでも以前の彼らであれば笑って済ませていたはずだ。まさか亜樹が狂ったように激昂し、真樹をガラスに叩きつけるなんて思ってもみなかった。

 自分はその場にいた。憎みあい、互いを否定しながら二人は窓の外へ落ちていった。


 常軌を逸した二つの事件。ここまでくれば、誰かが生徒会を狙っているのだと嫌でもわかってしまう。

 殺そうとしているのだ。生徒会の人間を、全員。

 残りは生徒会長と……俺。



(怖い……怖い怖い怖い……!)



 次はどっちだ。会長か? それとも自分か?

 副会長は自殺、双子は事故だった。だけどこんなに違和感の残る自殺と事故があっていいはずがない。

 仕組まれているのだ。誰かに。誰かが裏で息を引いて、俺たちを殺そうとしているんだ!



「あ、あ、ああああ……っ!!」



 どうして、どうしてこんなことになったんだ。

 俺たちが何をした? 俺が何をした?! 何でこんな目にあわなきゃいけない!

 どうして、誰が、どうして、怖い……!

 助けてくれ、皐月……!!



 ぎしり。 右手の親指 の爪をきつく噛み締めた。




*  *  *




『あなたのかけがえのないものを奪います』



「……?! う、あ……!!」



 靴箱を開けると同時に落ちてきた黒い手紙。それほど大きな字ではないのに赤く書かれたその文章は即座に頭に入ってくる。

 ついに来てしまった。これから奪われる“かけがえのないもの”が何かは分からない。分からなくても、これだけは分かる。

 ――次は、自分なのだ。



「あ、あれ……」

「副会長と会計が持ってたヤツだよな……?!」

「うそ、じゃあ次は書記様?!」

「マジ? やばくね? 副会長、会計と続き次は書記か……あと何人死ぬのかな」


「っ、た、すけ、て……!」


「ひっ……!」



 バシッ!

 一番手前にいた女子に、プライドも棄てて懇願の手を伸ばした。しかしその手は宙半ばで叩き落とされる。

 え……、と呆然とした声が息と共に逃げた。手を、叩き落とされた? 絶対的な支持をもつ、生徒会の自分が……?



「の、呪われてるのよ!」

「え……?」

「じ、自殺したあの子の呪いよ! だって生徒会の人たち、みんなあの子を虐めて、追い詰めて殺したじゃない! 死んだあの子の祟りだ!」



 彼女が言う「あの子」が誰のことか一瞬わからなかった。なぜなら生徒会の人間も、ほとんどの生徒も、そして自分も、「地味女」「根暗女」としか呼んだことがなかったから。

 「あの子」だなんて呼ばれる人間ではなかったはずだ。親友さつきを使って生徒会に近づいた薄汚い女狐として、誰からも嫌われていた。

 目の前のこの女生徒だって、きっとそうだ。化粧の濃い顔を歪めて、「死んじゃえばいいのに」と言っていたはずなんだ。


 なのに何で、今更、あの根暗女がそんなふうに呼ばれている?

 何だ、この視線は。



「み、見るな……っ」



 俺の手を叩き落とした女生徒は、一歩、二歩と俺から離れていった。

 いや、そいつだけじゃない。俺の足もとに落ちている黒い手紙を見た全員が、気味悪いものを見るような顔で俺を見上げている。

 ぽっかりと、自分の周りだけ穴が開いていた。手を伸ばして届く距離に、人はいない。



「な、なん……で……?」



 ファンクラブは? 「かっこいい」とか言って勝手に俺を取り巻いてたヤツらは? 俺を護るとか言ってたヤツらは?

 なんで、なんで必要な時にいないんだ……!



「自業自得だよな……」

「祟られても仕方ねぇよ。あんだけのことをしたんだから」

「ざまぁみろ」


「……っ、……っ!!」



 人相の悪い生徒が、ここぞとばかりに声を大にして嘲笑う。人気の中心である生徒会を疎ましく思っている連中だ。

 いつもなら、こいつらはファンクラブの報復を恐れてこんなことを言うはずがないんだ。

 その声につられるようにして周りが囁き声にうるさくなる。決して大きな声ではなかったが、節々に聞こえてくるフレーズが不気味でたまらない。


 「次は書記」「自殺した」「虐めるから」「恨まれて」「呪いだ」俺を庇う言葉は聞こえない。俺を守る言葉は聞こえない!

 俺は耐え切れず、人ごみをかき分けるようにして黒い手紙の元から逃げた。


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