あなたに好きと言わせたい
私が昔、もう10年以上前に遭遇した女の子。
当時まだツンデレという言葉は一般的ではなかったけど
今思うとこの子は本物だったな。
あなたの瞳をじっと見つめる。おでこでもない、鼻でもない、あなたの眼鏡の奥の黒い瞳を。知性の中に苦悩と憂鬱を湛えた、深い瞳を。あなたはじろりと見つめ返してくる。強い視線が私の脳髄をえぐる。「何!?」視線のおかえし。私はそう言い返す。「おはよう」あなたはやさしく答えてくれる。「おはようございます」私はやっとの思いでそう答える。私にはそれしかできないから。
二時限目に提出するはずの宿題をし忘れていたことがあって、私は一時限目が始まるまでになんとかそれを終わらせようと思ったけど、ギリギリアウト。キンコンカンと鐘はなり、カラリと教室のドアをあけて先生は入ってくる。もう、内職しかない……! と言いたいところだけど私の席は一番前で、結局内職に手をつけない前にあなたにそれが見つかってしまった。「今は数学じゃないんだけど」あなたは諭すような口調でそう言った。あわてて机にしまっても、もう駄目なのだ。私はなんだかもう恥ずかしくなって消え入りたくなった。穴があったら入りたいというのはこういう気持ちなんだろう。
私は自分の眼ヂカラにはちょっと自信がある。中庭の反対側、三階の廊下、グラウンドの真ん中にいようとあなたの姿を見つけ次第、正確無比の精度であなたに強力な視線を投げつけてみせる。そして否でも応でもこちらを振り向かせてみせる。三年もあるのだから、その内にはきっとあなたの方から視線を投げたくなる、そんなことを期待して。
いつか街でばったりあなたに出くわしたことがある。「今日は選挙の投票日なんだけど投票会場が分からない」と、あなたはうろうろしてた。わたしは「そんなの分からない」と答えたのだけれど、もちろんこれは本当の事だ。「ふーん」あなたはつまらなそうにそう言って引き返してしまった。いや、可愛い生徒に幸運にも出くわしたんだからもう少し、なんか、適切な反応があるでしょ? ところで私はその会場をすぐに発見してしまった。どうする? 選択肢は二つ、立ち去るか待つか。逡巡している間にもあなたはすぐにやって来たのだけれど。それを見つけて口を付いて出たのが「何!?」いつもの癖だ、コレ。「家で調べてきたんだ。意外と近くてびっくりした」少してれたように答えたあなたの姿は少し新鮮だ。「で、君は何でこんな所にいるんだ」「別に!?」なんだコレ。コレはもう脊髄反射だ。「ふーん」あなたはそう言って会場へと足を運んでしまった。もう私この場にいれないわ。てかもう少し……、もう少しなんか言葉があってもいいんじゃないの?
でも私はそんなあなたを諦めない。
連投するのちょっとしんどくなりました。