表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
キーホルダーの世界へ
8/45

女体オークション

 悠がダイニングのカーテンを開けると、薄暗かった部屋にまぶしい朝日が差し込んでくる。そのまま冷蔵庫に向かい牛乳を取り出すと、手に持っていたグラスに牛乳を注ぎながらダイニングのテーブル席に着いた。

「悠、今日バイトは?」

 キッチンから大人の女性の声がする。おそらく悠の母親だろう。

「昼から。午前中は何もないよ」

 悠は運ばれてきたトーストを口にしながら、返事を返す。

「そう? 母さん、今日は少し遅くなるから、昼と夜は適当に食べておいてね」

 そういうと、悠の母親はキッチンに戻った。

 さくっ、というトーストを口にする音と、食事の支度が終わったのか、キッチンから食器を洗う音が聞こえる。トーストの香ばしさ香りと目玉焼きの焦げた匂いがしそうなものだが、キーホルダーにされてしまったヒナ達には残念ながらそれが感じられない。

『あうぅ……私もごはん……』

 悠の朝食風景を、ヒナはうらやましそうに見ながら言う。今にもよだれが見えてきそうだ。

『別にお腹なんてすかないでしょ?』

『でもぉ……』

『でもぉも何も、僕たちは食事なんて摂れないんだから』

『うぅ……』

 ヒナはじっと悠の食事姿を見続ける。ヒナとタクのやりとりを気にせず、悠は黙々と朝食を摂り続けている。

『でもさ、悠たんって、私たちの声、聞こえてるんだよね。よく平気で食べていられるよねぇ』

『まあ、悠も長いことこの生活をしているからね。キーホルダー相手に話してたら不審に思われるでしょ』

 しゃべらない物に対して独り言のように何か話しかけていたら、事情を知らない者には当然おかしいように思われるだろう。

『まあ、今の会話もマスターにはきちんと聞こえているはずだよ』

『そういう風に見えないけどなぁ』

『試してみる?』

 テーブルでは、悠が目玉焼きを食べ終え、トーストの最後の一切れを口にしようとしているところだった。そこを狙ったかのように、タクはぼそりと呟く。

『爆乳戦士』

その瞬間、悠はげほげほとせき込み出した。トーストが喉につまりかけたのか、慌てて牛乳で流し込もうとする。そこに追い討ちをかけるように、タクはもう一言呟く。

『乳魔道士』

 悠は飲みかけた牛乳を吹き出しそうになった。しかし、すんでのところでなんとか止まった。

 口に入ったものを何とか飲み込み、悠ははぁはぁと息を整える。

「悠、どうしたの?」

「あ、いや、なんでもないよ」

 悠の異変に気が付いたのか、悠の母親が顔を覗かせた。特に何もないことを確認すると、不思議な顔をしながら再びキッチンに戻った。

『タクたん、さっきの何?』

 謎の発言に驚いたヒナは、タクに尋ねる。

『特に意味はないよ。まあ、これで一応、マスターには僕たちの声が聞こえているってわかったかな』

『う、うん。悠たん、こっちにらんでるし』

 ふとタクが上を見ると、悠がタクをにらみつけていた。

「タク、後で覚えていろよ」

 悠はそう呟いていたように見えたが、タクは

『ははは、僕は忘れっぽいからねぇ』

 と呟き返した。


 朝食を終えると、悠はかばんを持って再び自分の部屋に戻った。途中、『なんでわざわざ荷物持って降りたの?』とヒナからつっこみが入ったが、『きっと何か事情があるのさ』とタクに流された。

 かばんを机の近くに放り投げると、悠はベッドに腰掛ける。

「おい、人の食事中に変なことをいうな」

 ムスッとした顔で、悠はトーンの低い声でタクに言う。

『ヒナがなんか疑問を持ってたみたいだからね。それよりもマスター、もうすぐオークションの終了時間じゃない?』

 タクがオークションのことをいうと、急に悠の顔つきが変わった。

「おお、そうだ、女体オークション!」

 慌てて悠はパソコンを開き、電源を入れた。

『女体オークションって、なんだかいやだなぁ』

 ヒナが呟く間にも、ジジッというパソコンの起動音が鳴り響く。起動する時間が惜しいのか、悠に落ち着きがない。

『あぁ、私はとうとう売られてしまうのね』

 ヒナが不安そうな声で呟く。

『それはどうかな。まあ、結果を見ればわかるさ』

 パソコンの起動が完了すると、すばやいマウス操作と、カタカタというキーボードの音が鳴り響く。そして、オークションのページを開いたのか、マウスの操作が止まった。しばらくすると、悠の叫び声が部屋中に響いた。

「よし、落札者一人!」

 オークションの結果を見て、思わず悠はガッツポーズをする。同時に、部屋内に謎のうめき声が聞こえ始めた。

『終わった……私の人生終わった……』

 なにやらヒナがぶつぶつと呟いているようだが、悠の耳には届いていない。

「え、な、まさか……」

 ヒナがぶつぶつ言っている先で、悠の先ほどまでルンルン顔がガクガクと震え始める。

「くそっ、行くぞ、タク、女体!」

『だから女体って何よ!』

 ヒナの声が届いていないのか、悠はそれを無視して簡単に着替えを済ませると、カバンを持って部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ