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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
キーホルダーの世界へ
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ヒナの夢

『……ここは、どこ?』

 気が付くと、ヒナの視界に住宅街の道路が映った。しかし、どうもヒナには見覚えがない。

 何とか場所を特定しようとあたりを見回すと、視界がぶらぶらと揺れる。隣にはたくさんのキーホルダーと、タクのキーホルダーがあった。と言うことは、ヒナがいるのは、ヒナの持ち主である悠のかばんだろう。

『ねえ、タクたん、ここはどこ?』

 ヒナはタクに話しかけるものの、反応がない。視線を上に移すと、悠らしき男の姿があった。

『悠たん、今どこにいるの?』

 今度は悠らしき男に声を掛ける。しかし、やはり反応がない。

『ねえ、二人とも黙っちゃってどうしたの……わ、わぁっ!』

 突然、ヒナの視界が激しく揺れた。視線を前方に移すと、見知らぬ女が悠に向かって攻撃体勢を取っていた。 

 悠と同じく、ハンドバッグには多数のキーホルダーが付いている。ということは、悠と同じキーマスターなのだろうか。

『ね、ねえ、悠たん、あの人、誰?』

 悠は答える間もなく、両手にエネルギー弾のようなものを作ると、女に投げつけた。しかし、女はそれを悠々と回避する。すると、今度は女が右手の人差し指を上に向け、指先に光る玉のようなものを作った。右手を何度も振り下ろすと、そこから小さなエネルギー弾のようなものが悠に向かって飛ばされる。その弾は、ことごとく悠の体に当たった。そのたびに、ヒナの視界が目まぐるしく揺れる。

『ちょ、ちょっと、悠たん、大丈夫? ねえ、悠たんってば!』

 悠は一向に返事をしない。よろけながらも、悠は何とか体勢を立て直す。しかし、悠の息は切れ、反撃する様子はない。

 ふと女の口を見ると、何かをしゃべっている。ヒナがその唇の動きを読み取ると、『これで最後よ』と言っているように見えた。そして、女は右手を挙げ、手のひらに大きな光の塊を作ると、それを一掴みにして右手を引く。その右手を勢いよく振りかぶると、光の弾を高速で悠に向かって飛ばした。

 悠はその光の弾になすすべなく、直撃を受けて吹き飛んだ。


 カーテンから洩れる光がヒナの目に入り込み、ヒナは目を覚ました。意識を取り戻した、と言ったほうがいいのだろうか。

『ん……夢?』

 目の前には薄暗い部屋、ベッドにはいまだにグースカと寝息を立てている男の姿がある。

周りにはいくつものキーホルダーが見え、体を動かそうとしても動かない。

『あぁ、やっぱりキーホルダーになったのは夢じゃなかったのね……』

 ヒナは現状を確認してはぁ、とため息をついた。実際はため息が出ているのか確認はできないのだが。

『あ、ヒナ、おはよう』

 ヒナが落ち込んでいると、近くから声が聞こえてきた。タクの声だ。

『タクたん、おはよう。やっぱり寝てもキーホルダーのままなんだね』

『まあ、寝て起きたら元に戻っていればいいんだけどね』

『やっぱりタクたんも、元の姿に戻りたいんだ』

『そりゃまぁ、不自由だからね』

 エアコンをつけずに窓を開けっぱなしにしていたのか、外から風が吹いてヒナたちキーホルダーを揺らす。本来なら夏の暑い日、涼しげな風を受けて奪われる熱に快感を覚えるものだが、ただ視界がゆらゆらと揺れるだけで面白くない。

「ん……うぅん……」

 ヒナとタクが少し話をしていると、持ち主の悠が眠そうな目をこすりながらゆっくりと起き上がってきた。

『マスター、おはよう』

「ん、あぁ、おはよう」

 起き上がったはいいが、悠はベッドに座り込んだまままだ目をこすっている。

『悠たん、おはよう』

 今度はヒナが悠に声をかける。すると、突如、目をこすっていた悠の右手が止まった。

「はっ、女体!」

 悠はヒナの声を聞くと、何故かあわてて時計を見る。時刻は午前七時半だった。

「ふむ、まだ時間はあるか。とりあえず飯かな」

 そういうと、悠はかばんを持ち、部屋を出た。

『ちょ、女体って……』

『多分オークションのことじゃないかな。多分終了時刻が近いんだよ』

『はぁ、私の運命もこれまでか……』

 階段を下りる間、悠のかばんでぶら下がっているヒナは、しばらく自分が売られる心配をしていた。

『どちらにしても、今日マスターにいろいろ聞いておくといいかもね。僕でも知らないことはたくさんあるし、逆にマスターがヒナに聞きたいこともあるんじゃないかな』

『そうだね。じゃあ、朝ごはんが終わったら聞いてみようか』

 悠がダイニングに着くと、かばんをテーブルの近くに置き、席に着く。かばんが置かれたショックで、キーホルダーがじゃらじゃらと揺れた。

 ヒナがキッチンを覗くとそこからはジュージューと何かが焼ける音がした。それに加え、チン、とトーストが焼ける音が聞こえてきた。

『ねえタクたん、私たちの朝ごはんは?』

『言ったでしょ? 僕たちに空腹という概念はないんだよ』

『つまらないなぁ……』

 ヒナはぼやきながら、テーブルに並べられる食事をじっと見つめていた。

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