廃工場バトル2
氷点が顔を上げると、男の右手が氷点めがけて振り上げられていた。
「まったく、こんなところで……」
男の腕が振り下ろされる。もうだめだ、そう思った時だった。
「ぐはっ!」
うめき声とともに、男は氷点の目の前で崩れるように倒れた。
「……え、ど、どうしたのかしら?」
何が起こったのかわからず、氷点は倒れた男を見続ける。
「氷田様、大丈夫でしたか?」
不意に、聞いたことのある声が、通路に響き渡った。
「あ、あれ、お、オギさん? いつのまに……」
男の後ろには、いつの間にか迷彩服に着替えたオギが立っていた。
「裏の事務所の外から様子をうかがっておりましたら、見張りが一人になりましたもので。すぐさま残った一人を片付け、ジュジュ様をお助けしたのです。そうしたら、奥から物音がしたので、すぐに駆けつけた、と言うわけです」
「え、じゃあ、ジュジュちゃんは……」
氷点が驚いていると、オギの後ろからひょこっとジュジュが顔を出した。
「私はここにいるよ! オギ、とっても強いんだから!」
「ジュジュちゃん、無事だったのね。よかったわ」
ほっと胸をなでおろすと、氷点はゆっくりと立ち上がった。
「えっと、風見川様は……壁に頭を打ち付けているようですが、そこまで酷くはないようですね」
「あら、あんだけ強く吹き飛ばされて無事とはね。骨が粉々になっているのかと思った」
『氷点たん、それ悠たんが貧弱みたいに聞こえるんだけど』
「まあ、うじむしはしつこそうだし」
『それはそれで酷いなぁ……』
氷点とヒナが悠の容態について話している間に、オギが悠の身体を起こす。すると悠は「うぅ」とうめきながら目を覚ました。
「あいたたた……ったく、俺の華麗なる技名くらい言わせろよな」
『マスター、そんなこと言っている暇があったら、さっさと攻撃してしまえばよかったのに』
「何を言うか、必殺技の名前を叫ぶのは男のロマン……あいたたた……」
悠が大声を出すと、それが響いたのか腹のあたりを抑え始める。
「風見川様、けがは大したこと無いようですが、かなり強い衝撃を受けているようです。無理はしない方がいいですよ」
そう言うと、オギは悠に肩を貸し、抱え起こした。
「ったく、しょうがないわねぇ。ほら、肩貸してあげるから、捕まりなさい」
悠は一人では立ち上がれず、オギ一人で抱えるのは大変そうだ。氷点は悠の手を取ると、自分の肩に回した。
『あ、あの、さっきは、えっと、ごめんなさい!』
悠たちが外に出ようとした時、後ろから声が聞こえた。ジュジュの声ではなく、ジュジュの腰あたりからのようだ。
『あ、ユキたん、一緒に来たんだね!』
『え、あ、はい、ジュジュちゃんに言って、カバンから外してもらったんです。ずっとあの人といるのが嫌になって』
『へー、そうなんだぁ。よかったねぇ、変な男から解放されて』
『え、ま、まあ、そうですねぇ』
ヒナに言われ、てへへ、とユキは笑った。
『ちょっと、ユキちゃん、酷いじゃないか、俺らをだますなんて!』
サクが怒鳴ると、ユキは『ひいっ』と悲鳴をあげた。
『ごごご、ごめんなさい! あの時、いきなりヒナさんが大声で叫ぶものですから、マスターが飛び出しちゃって……そしたら、そちらのオギさんが入ってくるのが見えたので、マスターが戻ってこないように、そちらに注意をひきつけさせたのです』
『ああ、なるほどね。たしかに、ユキが誘導しなくてもこいつはこっちに向かってきてただろうから、どうせならオギさんが助けに入るまでひきつけておいたほうがよかったかもね』
タクが『ふむふむ』とつぶやくと、ユキは『ごめんなさい』と元気なさげに言った。
「ユキちゃんが指示して、中の人を一人にしてくれたの。そしたら、オギさんが助けに来てくれたんだよ!」
ジュジュが飛び跳ねながら言うと、オギは「なるほど」とつぶやいた。
「外で様子を見ていたのですが、二人だと少々厳しいと思っていたのです。ところが、突然一人が外に出ていったので、素早くピッキングをして中に入ったのです。なるほど、その、ユキさんと言いましたか、キーホルダーのおかげだったのですね」
「うん、ユキちゃん、大活躍だったんだよー!」
ジュジュは嬉しそうに、ユキのことを話す。その一方で、氷点は気になることが一つあった。
「そういえばオギさん、もう一人はどうしたのかしら?」
「事務所にいた人ですか? 隙だらけだったので、後ろから手刀を入れて気絶させておきました。しばらくは起きないと思いますから、ゆっくり脱出できますよ。入口がロックされていたようですが、既に解除しておきましたし」
「……よくよく考えれば、廃工場なのに電気通ってるのね」
そう言って、氷点が扉を開けようとした時だった。
「おーい、あそこに誰か車停めてるけど、客か? それにさっきから騒がしいみたいなんだが」




