四つ目のキーホルダー1
ヒナがゆっくり目を開けると、目の前には真っ青な空が広がっていた。
あたりには、種類はよくわからないが、数十センチほどの背の低い草がびっしりと生えている。
ゆっくりと起き上ると、見慣れた顔と、良く知らない顔が見えた。
「あ、タクたん! えっと……そっちの男の人が、サクたん?」
ヒナはタクではない男に声を掛けた。
程よく焼けた薄こげ茶色の肌に、白いTシャツとタンクトップ。茶色に染めた髪が、少しチャラそうな雰囲気を出している。
「ようヒナちゃん、そう、俺がサクだ……へぇ、ヒナちゃんって、意外とかわいいんだなぁ」
サクはそう言うと、ヒナをじろじろ見回す。
「か、かわいいだなんて、サクたんも、良く見ると意外とかっこいいかなぁって」
「お、そうかい? ヒナちゃんに言ってもらえるとうれしいなぁ」
サクが照れていると、タクがポン、とサクの肩を叩いた。
「サク、そんなことしている場合じゃないだろ。ほら、あそこ」
タクが指さした先を見ると、小さな女の子が、ゆっくりと起き上るのが見えた。女の子はあたりを見回すと、慌てて立ち上がってさらにクルクルと周りを見回した。
「は、はわわわ、ここは一体どこなのです? さっきまでジュジュちゃんと楽しくおしゃべりしていたのに、どうしてこんなところにいるのです?」
その様子を見ながら、ヒナたちは呆然としていた。
「な、なんかかわいらしいね。あの様子なら、私たちの味方になってくれるんじゃない?」
「いや、そうとも限らないよ。演技かもしれないし、とりあえず話をしてみよう」
「タクたんは疑り深いなぁ。急にこんなところに連れてこられたら、そりゃあたふたするって」
ヒナが言うのも構わず、タクは女の子の近くに向かった。
「ねえ、君、ちょっといいかな」
まだ慌てふためいている女の子に、タクが声を掛ける。良く見ると身長はヒナより小さい。
「わっ、な、なんですかあなたたちは! ま、まさか私のマスターみたいに、私を誘拐しに来た変態さんたちなのですか? そうなのですね! 私はどこかに連れ去らわれるのですね!」
タクに話しかけられ、女の子はさらに慌てふためく。
「タクたん、この子のマスターも、悠たんみたいに変態さんらしいね。かわいそう」
「ヒナ、今はマスターの悪口はいらないと思うんだけど……」
「仕方ないじゃない、悠たん変態さんなんだし」
「いや、そういう問題じゃ……」
ヒナとタクが悠のことを言っている間も、女の子はどうすればよいのか戸惑う。
「と、とりあえずあなたたちは一体何者なのですか? ここは一体どこなのですか? わ、私をどうするつもりなのですか?」
「わわ、と、とりあえず落ち着いて、私たちは、あなたと同じなの」
ヒナが女の子の両肩を抑えながらなだめようとする。
「お、同じって、つまり、キーホルダーにされた人たちなのですか?」
「うん、私は浅見比奈。ヒナって呼んでね。こっちの背が高い男の子がタクたんで、ちょっとチャラいのがサクたん」
ヒナはタクとサクを指さしながら、女の子に紹介をする。
「ちょ、チャラいってのはどうかねぇ。まあ、よろしく」
サクが手を差し伸べると、女の子は「ひぃっ」と悲鳴をあげた。
「だ、大丈夫だよ、サクたんは、女の子を取って食うような悪い人じゃないから!」
「ヒナちゃん、フォローしてるつもりだけど、なんだか複雑な気分になるんだけど」
手をひっこめられたショックからか、サクはがっくりと肩を落とした。
「えっと、とりあえず名前、教えてもらえないかな」
タクが声を掛けると、女の子は恐る恐る頷く。
「わ、私はユキって言います。学校でうとうと寝てたら、何でかキーホルダーになってマスターのカバンにぶら下がってたんです」
「へぇ、ユキたんかぁ。かわいい名前だねぇ」
「え、そ、そうですか? てへへへ……」
ヒナに言われ、ユキは頭を掻きながら照れ始めた。
「えっと、その、ユキのマスターって、どういう人なんだい?」
タクがユキに声をかけると、ユキは一瞬体を引きながら「うんとね」と答え始めた。
「なんか、いつもヤンキーみたいな人たちと一緒にいまして、怖くて偉そうな人にいつも頭を下げてるんです。それで、あと、B型とか言ってました」
「おお、B型! これは有力情報だね!」
ヒナが感激していると、タクは「それはどうでもいいでしょ」と突っ込んだ。
「それで、君のマスターは何かの組織に入っていたりしない?」
「組織? えっと、なんとか組っていうところに行ってます」
「それって、『ナカダ組』っていうところじゃない?」
「あ、そうかもしれません」
「やっぱり」
タクはうんうん、と一人で納得するように頷く。
「タク、やっぱりジュジュちゃんをさらったのは、やっぱりナカダ組の人間ってことか?」
「ユキの話を聞くと、そうなるね」
サクとタクの話を聞き、ユキは「あっ」と声を上げた。
「ジュジュちゃんって、今マスターが誘拐してる女の子ですかぁ? さっきまで話してましたよぉ?」
「お、おお、やっぱりジュジュたんは、ユキたんの近くにいるんだね!」
「うん、マスター以外にも私の話が聞こえる人は珍しいから、ついつい話し込んじゃいました」
喜々として話すユキの顔を見て、タクはため息をついた。
「ユキ、小さい女の子が誘拐されようとしてるのに、君は止めようと思わなかったのかい?」
「そ、そんなこと言われても、キーホルダーにはできることなんて何もないですよ!」
「あ、それもそうか。そもそもナカダ組の人間だし、普通の人はそんなこと考えないよね」
「ま、まあマスターはマシな方ですよ! ちょっとオタクな趣味があるだけです!」
「オタクって……」
「いやぁだって、マスターの部屋はすごい数のフィギュアがありますし、エロいポスター貼ってますし、毎日毎日パソコンの画面見ながら気持ち悪い声出してますし……」
「は、はぁ」
ユキのマシンガントークに、タクはあっけにとられてしまった。
「よかったね、悠たんはそんなにオタクじゃなくて」
「ヒナ、だからこんなところでマスターをディスっても……」
タクがヒナに突っ込もうとすると、サクが「そんなことより」と割って入った。
「タク、ジュジュちゃんのことは大丈夫なのか?」
「あ、そうだね。てかサクに言われるとなんか違和感があるんだけど」
「お、俺だってたまには真面目な時もあるさ」
「それでユキ、ジュジュちゃんのことなんだけど」
ぶつぶつと言っているサクを後目に、タクはユキに尋ねた。




