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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
ジュジュ誘拐事件
39/45

四つ目のキーホルダー1

 ヒナがゆっくり目を開けると、目の前には真っ青な空が広がっていた。

 あたりには、種類はよくわからないが、数十センチほどの背の低い草がびっしりと生えている。

 ゆっくりと起き上ると、見慣れた顔と、良く知らない顔が見えた。

「あ、タクたん! えっと……そっちの男の人が、サクたん?」

 ヒナはタクではない男に声を掛けた。

 程よく焼けた薄こげ茶色の肌に、白いTシャツとタンクトップ。茶色に染めた髪が、少しチャラそうな雰囲気を出している。

「ようヒナちゃん、そう、俺がサクだ……へぇ、ヒナちゃんって、意外とかわいいんだなぁ」

 サクはそう言うと、ヒナをじろじろ見回す。

「か、かわいいだなんて、サクたんも、良く見ると意外とかっこいいかなぁって」

「お、そうかい? ヒナちゃんに言ってもらえるとうれしいなぁ」

 サクが照れていると、タクがポン、とサクの肩を叩いた。

「サク、そんなことしている場合じゃないだろ。ほら、あそこ」

 タクが指さした先を見ると、小さな女の子が、ゆっくりと起き上るのが見えた。女の子はあたりを見回すと、慌てて立ち上がってさらにクルクルと周りを見回した。

「は、はわわわ、ここは一体どこなのです? さっきまでジュジュちゃんと楽しくおしゃべりしていたのに、どうしてこんなところにいるのです?」

 その様子を見ながら、ヒナたちは呆然としていた。

「な、なんかかわいらしいね。あの様子なら、私たちの味方になってくれるんじゃない?」

「いや、そうとも限らないよ。演技かもしれないし、とりあえず話をしてみよう」

「タクたんは疑り深いなぁ。急にこんなところに連れてこられたら、そりゃあたふたするって」

 ヒナが言うのも構わず、タクは女の子の近くに向かった。


「ねえ、君、ちょっといいかな」

 まだ慌てふためいている女の子に、タクが声を掛ける。良く見ると身長はヒナより小さい。

「わっ、な、なんですかあなたたちは! ま、まさか私のマスターみたいに、私を誘拐しに来た変態さんたちなのですか? そうなのですね! 私はどこかに連れ去らわれるのですね!」

 タクに話しかけられ、女の子はさらに慌てふためく。

「タクたん、この子のマスターも、悠たんみたいに変態さんらしいね。かわいそう」

「ヒナ、今はマスターの悪口はいらないと思うんだけど……」

「仕方ないじゃない、悠たん変態さんなんだし」

「いや、そういう問題じゃ……」

 ヒナとタクが悠のことを言っている間も、女の子はどうすればよいのか戸惑う。

「と、とりあえずあなたたちは一体何者なのですか? ここは一体どこなのですか? わ、私をどうするつもりなのですか?」

「わわ、と、とりあえず落ち着いて、私たちは、あなたと同じなの」

 ヒナが女の子の両肩を抑えながらなだめようとする。

「お、同じって、つまり、キーホルダーにされた人たちなのですか?」

「うん、私は浅見比奈。ヒナって呼んでね。こっちの背が高い男の子がタクたんで、ちょっとチャラいのがサクたん」

 ヒナはタクとサクを指さしながら、女の子に紹介をする。

「ちょ、チャラいってのはどうかねぇ。まあ、よろしく」

 サクが手を差し伸べると、女の子は「ひぃっ」と悲鳴をあげた。

「だ、大丈夫だよ、サクたんは、女の子を取って食うような悪い人じゃないから!」

「ヒナちゃん、フォローしてるつもりだけど、なんだか複雑な気分になるんだけど」

 手をひっこめられたショックからか、サクはがっくりと肩を落とした。

「えっと、とりあえず名前、教えてもらえないかな」

 タクが声を掛けると、女の子は恐る恐る頷く。

「わ、私はユキって言います。学校でうとうと寝てたら、何でかキーホルダーになってマスターのカバンにぶら下がってたんです」

「へぇ、ユキたんかぁ。かわいい名前だねぇ」

「え、そ、そうですか? てへへへ……」

 ヒナに言われ、ユキは頭を掻きながら照れ始めた。

「えっと、その、ユキのマスターって、どういう人なんだい?」

 タクがユキに声をかけると、ユキは一瞬体を引きながら「うんとね」と答え始めた。

「なんか、いつもヤンキーみたいな人たちと一緒にいまして、怖くて偉そうな人にいつも頭を下げてるんです。それで、あと、B型とか言ってました」

「おお、B型! これは有力情報だね!」

 ヒナが感激していると、タクは「それはどうでもいいでしょ」と突っ込んだ。

「それで、君のマスターは何かの組織に入っていたりしない?」

「組織? えっと、なんとか組っていうところに行ってます」

「それって、『ナカダ組』っていうところじゃない?」

「あ、そうかもしれません」

「やっぱり」

 タクはうんうん、と一人で納得するように頷く。

「タク、やっぱりジュジュちゃんをさらったのは、やっぱりナカダ組の人間ってことか?」

「ユキの話を聞くと、そうなるね」

 サクとタクの話を聞き、ユキは「あっ」と声を上げた。

「ジュジュちゃんって、今マスターが誘拐してる女の子ですかぁ? さっきまで話してましたよぉ?」

「お、おお、やっぱりジュジュたんは、ユキたんの近くにいるんだね!」

「うん、マスター以外にも私の話が聞こえる人は珍しいから、ついつい話し込んじゃいました」

 喜々として話すユキの顔を見て、タクはため息をついた。

「ユキ、小さい女の子が誘拐されようとしてるのに、君は止めようと思わなかったのかい?」

「そ、そんなこと言われても、キーホルダーにはできることなんて何もないですよ!」

「あ、それもそうか。そもそもナカダ組の人間だし、普通の人はそんなこと考えないよね」

「ま、まあマスターはマシな方ですよ! ちょっとオタクな趣味があるだけです!」

「オタクって……」

「いやぁだって、マスターの部屋はすごい数のフィギュアがありますし、エロいポスター貼ってますし、毎日毎日パソコンの画面見ながら気持ち悪い声出してますし……」

「は、はぁ」

 ユキのマシンガントークに、タクはあっけにとられてしまった。

「よかったね、悠たんはそんなにオタクじゃなくて」

「ヒナ、だからこんなところでマスターをディスっても……」

 タクがヒナに突っ込もうとすると、サクが「そんなことより」と割って入った。

「タク、ジュジュちゃんのことは大丈夫なのか?」

「あ、そうだね。てかサクに言われるとなんか違和感があるんだけど」

「お、俺だってたまには真面目な時もあるさ」

「それでユキ、ジュジュちゃんのことなんだけど」

 ぶつぶつと言っているサクを後目に、タクはユキに尋ねた。

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