作戦会議1
車は住宅街を抜け、大通りに出る。ビルや店が立ち並ぶ道をしばらく走ると、田んぼや畑が増え始めた。
「へぇ、この街にこんなところがあったんだ」
悠は乗り出すように車の窓から外の景色を見た。
「はぁ……あなた、本当にずっと引きこもりだったのね」
「そりゃまあ、外になんて用事はなかったし」
「少しは外に出ればいいのに、それだからフランクビッツなのよ」
氷点が悠を見ながらため息をつくと、オギは運転しながら笑った。
「ハハハ、しかし、自分住んでいる街といっても、知らない場所は沢山あると思いますよ」
車は途中の十字路を曲がり、山道に入る。田んぼや畑もなくなり、道の両面には木々が生い茂る。
昼間だというのに、日の光は木の葉に遮られ薄暗い。
「犯人は、どうしてこんな山奥にジュジュちゃんを連れていったのかしら」
「目的はわかりませんが、人目の着かない場所、という点では理に適ってはいますね」
「要するに、人に見つからなければどこでもいいってことね」
氷点外を見ながら、ため息をついた。
トンネルのような、木々で囲まれた道路を走ると、途中左側にY字に分岐した道が見えた。そこを左に曲がり、ゆるやかな斜面を登っていくと、建物が見え始めた。
「ジュジュ様がいるのはあの建物の中ですね」
オギはそう言うと、建物から遠く離れたところに車を止めた。五十メートル四方ほどの開けた場所に、廃工場のような建物が一つ。随分前に廃業したのか、かなりサビが目立つ。
「なるほど、隠れ家にしておくにはなかなかの場所だな。よし、早速行って、捕まってる奴らをボコボコに……」
「待ちなさい、何を言ってるのよ」
廃工場に向かおうとする悠を、氷点が止める。
「相手が何人いるかわからないのに、一人じゃ無謀よ。それに、あんた喧嘩弱いでしょ?」
「な……少なくとも、お前には勝つ自信があるぞ?」
「女相手に威張って言うことじゃないわね……」
悠が「かかってこい」と構えるが、氷点はやれやれと手を広げてあきれる。
『……あれ、何か声が聞こえない?』
急に、ヒナが声をあげた。
『たしかに。マスター、もう少し建物に近づいてみて』
そう言うと、悠と氷点は数メートル、廃工場に近づいた。
『……でね、そしたらね……』
悠と氷点が耳を澄ますと、確かに小さい女の子の声が聞こえるのがわかった。
「ジュジュちゃんじゃないね。ってことは、もう一人誘拐されてるってことか!?」
「悠、あんたはアホかしら?」
氷点はそう言うと、車の前で何か準備をしているオギの方を向いた。
「オギさん、忙しそうなところ悪いけれど、ちょっとこっちに来てくれるかしら」
「はい、何でしょうか」
氷点に言われると、オギは氷点の方に近づいた。
「女の子の声なのだけれど、聞こえるかしら?」
「……いえ、何も聞こえませんが……」
オギはそう言うと、「すみません、ちょっと準備がありますので」と車に戻った。
「やっぱりそうね。これは新しいキーホルダーの声よ」
『え、じゃあ、やっぱり私たちの仲間? やっ……』
ヒナが大声をあげようとすると、氷点が「しっ、静かに」と人差し指を口に当てた。
「ヒナちゃんたちは、しゃべらない方がいいわ」
『え、だってせっかく仲間が出来たのに……』
「こっちにキーホルダーの声が聞こえているってことは、向こうにもこちらのキーホルダーの声が聞こえている可能性が高いわ。だから、ヒナちゃんたちはしばらく静かにしてね」
『え、私たちの声が聞こえるってことは、そのまま大声で向こうのキーホルダーの人に声を掛けて、状況を説明してもらえば……』
ヒナはひそひそ声で話すが、氷点は首を振った。
「向こうのキーホルダーが、そう簡単に今の状況を話してくれるとは思えないわ。こっちを敵として見るかもしれないしね。そもそも、私たちにも向こうのキーホルダーの声が聞こえているのよ? だったら、向こうのキーマスターにも、ヒナちゃんたちの声が聞こえるんじゃないかしら?」
『あ、確かに……どうしよう、せっかくお友達になれると思ったのに』
ヒナは思わずしゅんとしてしまった。
『ならさ氷点、こういう時は……』
「あ、タクは静かにしてて」
タクが何か提案をしようとした時、氷点が途中で言葉を切った。
「悠、サク、こういう時、あなたたちならどうする?」
「え、俺に聞くのか?」
「あんたも、ちょっとはアイデアを出しなさい」
「一刻を争うって時に、のんきなもんだぜ」
そう言いながら、悠は「うーん」と解決策を考えた。




