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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
ジュジュ誘拐事件
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オギの落ち着き

『やっぱり、ジュジュちゃんが誘拐されたっていうのは本当だったんだね』

『やった! 私の予知夢、最強!』

『喜んでばかりはいられないよ。本当に誘拐されたのなら助けないと』

『え、あ、そうだね』

 ヒナが言い終わると同時に、悠はキーホルダーがついたカバンを持って部屋を出る。ダイニングに寄ることなく、悠はそのまま玄関に向かった。

『マスター、珍しく慌ててるけど、なんだかんだ言ってやっぱり心配なんでしょ?』

 靴紐を結ぶ悠にタクは声を掛けたが、悠は「ちげーよ」と返す。

「すべてはお礼だ、お礼にキーホルダーを貰い、さらなる女体オークションを開催するのだ!」

 そう言うと、悠は玄関を飛び出し、自転車にまたがった。


 駅で氷点と合流すると、そのまま山串製作所の最寄り駅へ電車で向かう。平日の中途半端な時間のためか、駅の入口に当たる階段から出た大通りでも人通りが少ない。そこから住宅街に入ると、ほとんど人通りが無くなった。

 山串製作所の建物が見えると、その入り口には、既に執事のオギが待っていた。

「お待ちしておりました、風見川様、氷田様」

「オギさん、随分落ち着いているようだけど、ジュジュちゃんは大丈夫なのかしら?」

 当主の娘がさらわれたというのに慌てる様子のないオギを不審に思い、氷点は尋ねた。

「おおよそ誘拐犯というものは、誘拐後にこちらに要求を突き付けてくるものです。それまでは、人質に手を出したりはしないものですよ」

「はぁ、そんなもかしらね……」

 氷点は本当に大丈夫なのかしら、とため息をついた。

「ん、ってことは、まだ犯人から連絡はないってことか?」

 オギの話を聞いていた悠は、ふと気になって尋ねた。

「はい。もう二時間ほど経っておりますが、まだ犯人から連絡はきておりません」

「二時間経ってまだ何も連絡が無いっていうことは、随分遠くにさらわれたのかな。そうなると犯人からの連絡待ちってことになるけど……」

「いえ、そういうわけではないようですよ」

「え?」

「実は、ジュジュ様が囚われていると思われる場所は、既にわかっています。ここからそんなに遠くはないですね」

「え、ど、どういうこと?」

 悠と氷点は、オギの一言に耳を疑った。

「エミ様とジュジュ様の持ち物には、迷子や行方不明にならないように、GPSが付けられているのです。それで、居場所はわかるようになっております」

「場所がわかっているなら、オギさんとイワリンさんの二人で早く助けに行くか、警察を呼ぶべきではないかしら?」

「ええ、そうしたいところですが、ちょっと事情がありまして……そこで、お二人に協力をお願いさせていただいたわけです」

「事情……ねえ。とにかく、今から向かいましょう。連絡が無いからといって、いつまでも無事かどうかわからないわ」

「そうですね。現在ジュジュ様の身体に異常はございませんが、今後どうなるかわかりません。では、こちらに車を準備しておりますので、こちらへどうぞ」

 そう言うと、オギは建物の裏に案内した。


『ジュジュちゃん、大丈夫かなぁ』

『オギさんも言ってたけど、営利目的の誘拐なら、犯人の要求があるだろうね。でも、そうじゃなかったら……』

『た、タクたん、不安になるようなこと言わないでよ!』

『とにかく行ってみるしかないね。オギさんが妙に落ち着いているのも気になるし』

 タクとヒナがしゃべっている間に、悠たちはオギの車が止めてある倉庫にやってきた。

「……随分と高そうな車ね」

 案内された車は、車長が長い黒塗りの、いかにも高級車といった感じだ。

「これはさほどでもありませんよ。ささ、遠慮せずに」

 オギがカギを開けて左座席にある運転席に乗り込むと、悠と氷点は顔を見合わせながら後部座席についた。

「うお、すっげぇ、俺外車とか初めて乗った!」

「少しは落ち着きなさいよ、貧乏人に見えるわよ?」

「何を言うか、俺は貧乏人だ」

「はぁ、これだからフランクビッツは……」

 氷点はやれやれ、と手を上げながら悠の隣に座った。

 オギがエンジンを掛けると、カーナビと思われるモニターの電源が同時に入る。メニュー画面をオギが操作すると、周囲の地図と現在地を示す矢印が表示された。現在地から少し離れたところに、青い点が点滅している。

「この青い点が、ジュジュ様がいらっしゃる場所です。まだ移動はしていないようですね」

「意外と近いわね。でも、それで二時間も経っているのに連絡が無いってことは、連絡先を知らないってことじゃないかしら?」

 氷点が話しかけると、オギは「それは無いかと思われますよ」と返した。

「ジュジュ様の持ち物には、大体名前と電話番号を書いていますから、こちらに電話することは可能でしょう」

「どっちみち、電話がかかって来ても、家にいないんじゃ意味無いんじゃないのか?」

「その点は心配ありません。不審な電話は、すべて私の携帯電話に転送されるようになっておりますから。この携帯電話なら、逆探知もできますし」

 そう言うと、オギはゆっくりと車を発進させる。

「……えらい厳重な警戒っぷね。秘書一人でここまでやるなんて」

「これはまだ一部ですけれどね。私どもの会社は、一見普通の建物に見えて、いろいろと仕掛けがございます。もしよろしければ、お時間がある時にご紹介しますよ」

「あの事務所、カラクリ屋敷か何かしら?」

「そういうわけではございませんが……それはその時のお楽しみということで」

 軽快に運転をしながら、オギは笑顔で答えた。

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