公園のプロローグ
雲一つない空の下、少女は公園で一人遊んでいた。
午後三時ごろの中途半端な時間、外に出る者はおらず、公園の周辺はほとんど人通りがない。誰もいない公園で、少女は一人だけの時間を過ごす。
ブランコに飽きた少女は、すべり台へと向かった。そして、階段の手すりに手を掛けた時だった。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
一人の男が、少女に声を掛けた。少女は身長百八十センチはあろうかという男の顔を見上げて、不思議そうな顔をした。
「こんにちは。おじさん、どうしたの?」
「お嬢ちゃんは、今一人かな?」
「うん、今一人で遊んでるの!」
「そう。じゃあ、おじさんといっしょに、楽しいところに行かないかい?」
「楽しいところ?」
「楽しいところ。おもちゃもお菓子も、いっぱいあるよ?」
「へー、楽しそう!」
少女は「楽しそうなところ」の話を聞き、嬉しそうな顔で跳ねまわる。男はそれを見て、にやりと口元が緩んだ。
「じゃあお嬢ちゃん、おじさんと一緒に行こうか」
「うん!」
男が手を差し出すと、少女はその手を握る。男は少女の手を引いて、公園の外に止めておいた車に向かった。
「ジュジュ、おやつの時間よ……あれ、どこに行ったのかしら?」
車に男が乗り込んだ頃、公園の近くにある建物から別の少女が飛び出してきた。そして妹、ジュジュの名前を呼びながら、公園まで歩いていく。
「あら、あの車……え?」
ふと後部座席を見ると、見覚えのある顔が見えた。
「ちょ、ちょっと、ジュジュ! 待って!」
慌てて少女はその車に向かうが、車はエンジンをすぐさまエンジンをかけて発車した。少女は必死に追いかけるが、ぐんぐん距離を離されていく。
「た、大変だわ、父さん、オギさん!」
少女は慌てて、元の建物に戻っていった。
雲一つない気持ちの良い青空に、草の波を描くように風が吹き抜ける。くるぶしほどの高さに満たない草たちが、それを受けてゆらゆらと揺れた。




