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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
山串製作所の秘密
30/45

ナカダ組と山串製作所2

 氷点が尋ねると、エミは「ええ」と返した。

「父、といいますか会社が、ですけれど、借金したのはおよそ一千万円で、三ヶ月ほど前に借りました。売り上げが無かったわけでもなく、毎月しっかり返済もしていたはずなのですが、二週間くらい前から何故か返済の催促でうちに来るようになったのです」

「……たしかに変ね。返済していないならともかく、返済しているのにわざわざこっちまで来て催促するなんて」

 氷点がふと砂場に目を向けると、ジュジュが悠の上に乗って遊んでいた。悠は四つん這いで歩いており、「ああゆうのが趣味なのかしら」と氷点はため息をついた。

「えっと、それで、何故ナカダ組の人が催促に来るのか、心当たりは?」

「特に思い当たりませんが……そういえば」

 エミはふと思いついたように言った。

「普段ナカダ組が来ている時は、私たちは外に出るように言われています。多分、子供たちには聞かせたくなかったのでしょう。ただ、一度だけ、父とナカダ組のやり取りをこっそり聞いたことがありました。どうも、お金の話じゃなくて、何かの機械を渡して欲しいというような内容でした」

「機械? キーホルダーを作る機械のことかしら?」

「いえ、既に借金の用途はナカダ組に話していますし、キーホルダーを作る機械は別に特注品というわけではありません。もしそれが欲しいなら、わざわざ父に言わずとも工場で頼めば作ってもらえますから」

「じゃあ、一体何の?」

「わかりません。例の機械、としか言っていませんでしたから」

『なるほど、要するにナカダ組は、借金を返してもらう代わりに、なんらかの目的でその機械とやらを欲しているわけだな』

 サクが割り込むと、氷点はバン、とサクのキーホルダーを叩いた。

『い、痛いよ零ちゃん! いや痛くないけど』

「零ちゃん言うな!」

 氷点はもう一度サクを叩くと、サクは『げふっ』と声を上げた。

「……? えっと、サクさんは何と?」

 氷点がサクを叩くのを見て、エミはサクのほうを見ながら言った。

「ああ、気にしなくて大丈夫よ。こいつ、ろくなこと言わないから」

 不自然な笑い方をする氷点に、エミは首をかしげた。

「ともかく、大体話は読めたわね。つまり、ナカダ組の連中は、借金の代わりにその、何かの機械を狙っているって言うわけね。それで、返済をしてるのに、こんなに早くやって来てると」

『あの、それ俺が言ったセリフ……げふん』

 サクが言いかけたところで、氷点は再びサクを叩いた。エミはそれを見て苦笑いを浮かべる。

「えっと、つまりはそういうことですね。私も、少し話を聞いただけですから、何とも言えませんが」

「こうなったら、直接イワリンさんに話を聞いた方がよさそうね。もしかしたら、その機械がしゃべるキーホルダーに、何か関係するかもしれないし」

 そう言うと、氷点は自分の荷物を持って立ち上がった。そして、悠に向かって叫んだ。

「悠、もう一度山串製作所に行くわよ」

 悠はいまだに、砂場近くでジュジュを乗せて四つん這いで歩いていた。

「え、今日は行かないんじゃなかったのか?」

 乗っていたジュジュを降ろすと、悠は立ち上がって氷点たちのいるベンチに向かった。

「ええ、そのつもりだったけど、エミちゃんの話を聞いて、もう一度イワリンさんと話してみたいと思ったのよ」

「あ、待って、氷点さん。今はまだナカダ組がいると思うから……」

「あ、そういえばそうだったわね……あら、ちょうどよかったわ。ほら」

 氷点が山串製作所の方を指さすと、背の高い黒服の男が数人、入り口から出てくるのが見えた。その中にいた、他の黒服の男よりも一回り背が小さく体格の良い、金色のアクセサリーをちりばめた紫のスーツを着た男が、玄関で誰かと話しているのが見えた。話し相手は、山串製作所の執事、オギのようだ。

「ふうん、あの紫のスーツを着たのが、ナカダ組のボスってわけね」

「ええ。ナカダ組の組長のナカダ。フルネームはわからないけれど、みんなそう呼んでいるわ」

「なんか、いかにも悪いことしてるって感じね」

「ああ見えても、表では金融会社として、結構信頼されているらしいわ。裏では何をやっているか、わからないけれど」

 氷点とエミが入り口を見ながら言い合っている間に、ナカダ組の男たちは立ち去ってしまった。車が無いところを見ると、どうやらこの近くに停めているらしい。

「お姉ちゃん、わたしたちも、帰る?」

 ナカダ組の行く先を目で追っていたエミの袖を引っ張りながら、ジュジュは甘えたように言った。

「ええ、そうね。その前にジュジュ、手が汚れているから、そこの水道で洗ってらっしゃい」

「はーい」

 エミに言われると、ジュジュはすぐに近くにある水道に走って向かった。

「……悠、あなたも手ぐらい洗ったらどう? ズボンも埃っぽいし、そのまま入ったら失礼じゃないかしら?」

 手を洗いに行くジュジュと悠の服を見ながら、氷点はため息を吐いた。先ほど四つん這いで歩いていたせいか、悠の青いデニムのジーンズは、白く汚れていた。

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