表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
山串製作所の秘密
28/45

エミとジュジュ

 店から出ると、昼前の日差しに温められた生ぬるい風が吹き込んできた。

 住宅街の中なので日陰が多いものの、日が高くなると徐々に太陽のまぶしさが本領を発揮してくる。

 熱せられたコンクリートの匂いに包まれ、ぬるい風を受ける。路地裏特有のものなのか、湿った空気が、肌にまとわりつくのが気持ち悪い。

「それにしても、ナカダ組って、一体何なのかしらね」

 氷点は交差点に差し掛かったあたりで立ち止まり、腕を組んで考え始める。

「まあ、俺らには関係ないことだし、考えててもしょうがないんじゃね?」

「たしかにそうだけれど、気になるじゃない?」

「俺は別にそうでもないけど」

「はぁ、そう……」

 氷点は駅の方へ向かって歩いて行く。しかし、「ナカダ組」のことが気になり立ち止まった。

「やっぱり気になるわね。一度戻ってみましょう」

悠が歩いて駅に向かうのも構わず、氷点は振り返って山串製作所へと向かった。

「え、ちょ、ちょっと待てよ」

「悠は付いてこなくてもいいわよ。私だけで」

「いや、え、あーくそっ!」

 結局悠も、氷点の後を追った。


 喫茶店から山串製作所はさほど離れていない。少し歩くと、すぐに最初に入った山串製作所の入り口が見えた。二人とも入口の前で立ち止まると、そこから建物上部を見渡す。

「……静かね。まだ中で何か話し合いでもしてるのかしら」

「大方、借金の返済のことで揉めてるんじゃないのか?」

「悠、ナカダ組って言っても、ヤクザや暴力団とは限らないわよ。建築会社の人かもしれないし、他の会社の人かもしれないじゃない」

「だったら何で俺らと顔を合わせたがらないのさ? やっぱりヤバい連中なんじゃね?」

「そんなこと言われてもねぇ……」

 二人で言い合っていると、悠は何かが当たるのを感じた。足元を見ると、一つのボールが転がっている。

「……?」

 悠はそれを手に取ると、何だろうと回しながら見た。どうやら、ゴムボールにサッカーボールの柄が描かれているもののようだ。

「あ、お兄ちゃん、それ私の」

 声がした方を振り向くと、フリルのスカートを穿いた、肩にかかるほどのストレートヘアをした背の小さい子の方がこちらにやってきた。

「ん、君の?」

 悠の目の前までやってきたところで、悠はボールをその子に返した。

「あ、ありがとうー!」

 少女はボールを受け取ると、ニコニコしたまま悠の方を見続けた。

「あれ、あなたたち、さっきうちに来てた人たちですよね? ナカダ組の人じゃなかったんですか?」

 先ほどの少女とは別の声が、公園から聞こえてくる。今度は、ロングヘアが美しい、薄青色のワンピースを着た少女がこちらに来ながら尋ねた。

「うち? ナカダ組? ってことは、君たちはイワリンさんの娘さん?」

「ええ」

 背の高い方の少女が答えた。

「私は岩本映見(いわもとえみ)。十二歳で小学六年生。こっちの小さいほうが岩本樹里いわもとじゅり。九歳で小学三年生よ」

「ジュジュって呼んでね!」

 小学生に見えるのは体格くらいで、見た目も話し方も大人っぽいエミはそういうと、悠と氷点のもとに近寄ってきた。

「それにしても、うちにお客さんっていったら、ナカダ組の人か取引先の会社の人くらいしかいないのだけれど、あなたたちは違うみたいね。うちの会社で作ったキーホルダーに不良品でもあったのかしら」

『えっとねエミたん、私たちは、私みたいなキーホルダーになった人がもとに戻る方法を探してるの!』

 悠や氷点が言い始める前に、間髪入れずにヒナが話し始めた。思わず悠と氷点は、ヒナのキーホルダーを見てしまう。

 その様子を見てエミは特に何も思わなかったようだが、ジュジュが悠のかばんに駆け寄り、ヒナを手に取った。

「わー、このキーホルダー、しゃべるんだー!」

『え、ちょ、ちょっと、ジュジュたん、やめて、酔う! 酔っちゃう!』

 ヒナが言うのも構わず、ジュジュはヒナを手のひらで遊ぶ。その様子を見て、エミは目を丸くして驚いた。

「え、あ、あなたたち、喋るキーホルダー持ってるの?」

 目の前の公園から吹き込む風が、エミの髪を揺らした。

「ええ、私たちは、喋るキーホルダーの特性についてイワリンさん、あなたのお父さんに聞きにきたの。あ、私は氷田零。氷点って呼んでくれればいいわ。で、こっちの間抜けな男が風見川悠。ゴールデン変態おっさんとでも呼んであげて」

「誰がゴールデン変態だ、この露出狂スペシャルが!」

「ちょっと、ちっちゃい子の前であんたの性癖晒すのはやめてくれないかしら」

 言い争う大人二人を目にして、エミは戸惑いながらもなんとか話す隙を伺う。

「えっと、とりあえず、その喋るキーホルダーの話、聞かせてもらえないかしら。本来は父に話すべきなのでしょうけど、ちょっと今はごたごたでなかなか話ができないと思うから」

「えー、ジュジュ、ヒナちゃんとこのお兄ちゃんとあそぶー!」

 エミが案内しようとしたとき、ジュジュがヒナと、ついでにタクを握ってひっぱりまわしながら言った。

「ダメよ、ジュジュ。お兄さんたちは、今から私とお話があるんだから」

「えー、やだー、遊ぶー!」

 ジュジュが悠のキーホルダーを引っ張りながら駄々をこねていると、氷点が「よしよし」とジュジュの頭をなでながら言った。

「……悠、あんたはジュジュちゃんと遊んでらっしゃい」

「え、でもキーホルダーの話なら俺も」

「どうせ同じこと話すんだから、二人いてもしょうがないでしょ。それに、悠が話すとややこしくなるから」

「何だよそれ、俺だって説明くらいは……」

 悠と氷点が話していると、ジュジュが悠の手を引っ張った。

「わーい、お兄ちゃん、こっちであそぼうよ!」

「え、ちょ、ちょっと!」

 意外とある幼女の腕力に引っ張られながら、悠は公園の砂場へと吸い込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ