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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
山串製作所の秘密
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ゲストルーム

 作業場を後にし、岩本は悠と氷点を二つ奥の部屋に案内した。少し準備があるからと、岩本はさらに奥の部屋に向かった。

「とりあえず、何らかの収穫はありそうね」

「そうだな。あの社長さんも、悪い人じゃなさそうだし」

『マスター、それは失礼じゃないかな』

 口を開きながらも、悠たちは「ゲストルーム」と書かれた部屋の前に立った。

 氷点が二、三回ノックし、ゆっくりドアを開く。その瞬間、ふわりとよい香りが鼻をくすぐった。

「あら、紅茶……かしら?」

 そう言いながら完全にドアを開くと、四人掛けの木製のテーブルが目に飛び込んだ。そこには、並べられたおしゃれなティーカップが三つ並べられており、オギが一つ一つティーポットから紅茶を注いでいるところだった。

「おや、いらっしゃいませ。ささ、こちらへどうぞ」

 ちょうどすべて注ぎ終わったところで、オギは悠と氷点を席へと案内した。四人席の片側に座ると、オギは目の前に小さな皿に盛られた茶菓子を差し出した。

「旦那様――岩本は、少々そっけないところがありますが、ああ見えても近所の方々からは『イワリン』という愛称で親しまれているのですよ。ですので、遠慮なく『イワリン』とおっしゃってください」

「え、いえ、社長に向かってそれは……」

 氷点がそう言いかけると、オギは「いえいえ」と首を振った。

「遠慮なさらずに。旦那様も、そちらの方が話しやすいでしょうから」

「そう……なのかしら」

「はい、是非ともそうお呼びください」

 オギがティーポットを持って部屋の入口に向かうと、入れ違いに岩本が入ってきた。オギは「ごゆっくりと」と一礼し、岩本に代わって部屋から出ていく。岩本は悠たちの向かいの席に座ると、目の前のティーカップを手に取り、紅茶を一つ口にした。

「おや、どうした? 遠慮はせんでいいぞ?」

「え、あ、はい。いただきます」

 ぽかんとしている悠と氷点に向かって岩本が言うと、悠と氷点も慌ててティーカップを手に取った。

 良い香りが鼻をくすぐった後、ちょうどよい暖かさの液体がのどを通っていく。

「あら、下手な喫茶店よりもおいしいわね」

 思いのほかの味に驚き、氷点はカップの中の紅茶に目を移す。

 一方で、そんなことは気にしない様子で、悠はすでに茶菓子まで手を伸ばしていた。

「客に出すものは、毎回オギが仕入しておるからな。おかげで、毎日おいしい茶が飲めるものだ」

 驚く氷点を見ながら、岩本は紅茶を飲む手を進めた。

「それで、さっきのキーホルダーのことだが」

 そういうと、岩本はティーカップを置いた。それを見て、氷点は紅茶に必死になっている悠の脇腹に軽くボディーブローを入れる。

「いたっ、何だよ人が紅茶飲んでる時に」

「あなたはここにお茶をしに来たのかしら?」

氷点はため息をつきながら、持っていたバッグからキーホルダーの一つ、サクを取り出して机の上に置いた。

『ひゃっ、氷点よ、置く場所は考えてくれよ』

「うるさいわね、別に濡れようがどうしようがあんたには関係ないでしょ?」

 ちょうど紅茶がこぼれた場所に置かれたからか、サクは思わず声を上げた。もちろん、キーホルダーにそのような感触を持っているわけではない。

「最初は私たちだけが持っているのだと思ったけれど、つい最近、同じようにしゃべるキーホルダーを持つ人と会ってね。それで、このキーホルダーを作ったメーカーなら何か知っているんじゃないかと思って」

 氷点がそういうと、岩本はサクを手に取ってじろじろと見つめた。

「それで、岩本さん……」

「イワリン、でよいよ」

「えっと、イワリン……さん、何か知っていることはないかしら?」

 そっと氷点の茶菓子に手を伸ばす悠に対して、その腕をひねりながら氷点はイワリンに尋ねた。

「知っているといえば、知っているが……」

『イワリンさん、その話詳しく聞かせてもらえませんか?』

 途中で悠のかばんから、タクが口を出した。

「悠、あんたのキーホルダーも二つ、机の上に出したら?」

「えぇ、面倒だなぁ」

 しぶしぶながらも、悠はつけていたキーホルダー二つ、タクとヒナをテーブルの上に置いた。

『ひゃぁっ! ゆ、悠たん、冷たいよぉ!』

『ヒナ、別にサクに合わせなくてもいいから』

 タクがツッコミを入れる中、岩本――イワリンが、机の上に並べられたキーホルダーを眺める。

「しゃべるキーホルダーが三つとは……まさかな」

『イワリンたん、私たち、もともと人間で、何かが原因でキーホルダーにされたの。元に戻る方法とか知らない?』

 今度はヒナがイワリンに向かって声をかけた。

『ヒナ、社長に「たん」はないと思うんだけど……』

「別に構わんよ。なるほど、もともと人間だった……か」

『そうなの。私の場合、学校から帰ってたら事故に遭って、気が付いたらキーホルダーになってたの』

「ほう、なるほど。つまりそれは……」

 イワリンが言いかけた瞬間、トントン、とノックの音がした。間を開けることなく、すぐさま扉が開く。そこから、落ち着いた様子でオギが姿を現した。

「失礼します。旦那様、ナカダ組の方がお見えになっておりますが」

「おかしいな、昨日来たばかりなのだが……。すまないが君たち、また明日にしてくれないか?」

 そう言うと、イワリンは席を立った。

「え、ちょっと、まだ話が……」

「申し訳ありません、氷田様、風見川様。急用ができましたので、本日はお引き取り願いませんか?」

 氷点がイワリンを引き留めようとするが、オギに退室を促されてしまった。

「……これ以上いても話は進まなそうね。悠、とりあえず引き上げるわよ」

 未だに紅茶から手を離さない悠を、氷点は強引に引っ張り上げる。

「え、ちょ、まだ残って……」

 危うく手に持ったカップから紅茶をこぼしそうになりながら、悠は何とかカップをコースターに戻す。それぞれ机の上に置かれたキーホルダーをかばんに取りつけると、オギの後をついていった。

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