キーホルダー・ハンター4
『おまわりさんが痴漢だって? そんなケーサツな行動取ってるんじゃねぇよ!』
突然、遠くから肌寒い駄洒落が聞こえた。そうかと思えば、ものすごい風が後ろから吹いてきた。さらに、体感温度もどんどん下がっていく。
「な、何だ!?」
悠は頭を守っていた腕を下ろし、ゆっくり前を見る。目の前に迫っていた岩は吹き荒れる風に押し戻され、勢いを失い、やがて途中で止まった。その岩は表面が氷で覆われ、そのまま地面に落下し、砕け散って消滅した。
「まったく、この程度の岩を止められないでどうするのよ」
聞き覚えがある声が聞こえ、悠は後ろを振り向く。
「な、氷点!? いつのまに」
そこには、腕を組んで仁王立ちしていた氷点がいた。
『おお、氷点たん、サクたん』
突然の氷点の登場に、ヒナも驚く。
『はっはっは、悠、なんだその姿は。そんなんじゃ俺たちの相手なんてできないぜ?』
「な、なあに、ちょっと油断しただけだ」
サクの言葉に悠は強がる。しかし、顔は冷や汗でびっしょりである。
「とにかく、助かったぜ。今度昼飯おごれよな」
『マスター、今度昼飯をおごるのは助けてもらったこっちだと思うんだけど』
悠と悠に突っ込むタクの言葉をスルーし、氷点はスキヤの方に向かって歩く。
「あなたがスキヤね。まったく、人のキーホルダーを盗むなんて最低ね」
途中で立ち止まり、氷点はスキヤに向かって吐き捨てる。
『あちゃぁ、二人目のキーマスターか。しかも氷属性ときてやがる。これはかなりめんどくせぇことになったなぁ』
先ほどまで攻撃体勢を取っていたスキヤは、既に両手を下ろして無表情に立ち尽くしている。
ケンも、突然の乱入者に、少々頭を抱えているようだ。
『すきゃたん、ケンたん、氷点たんが来たからには悪さできないんだからね! 氷点たんは強くてとっても頼りになるんだから!』
「俺は頼りにならねえのかよ!」
ヒナの言葉に悠がつっかかる。
『そうだねぇ、二人相手だとめんどくせぇから、俺らはそろそろ退散させてもらうわ。えっと、氷点に、そっちのキーホルダーはサクだっけ? また今度相手してくれな』
ケンがそういうと、スキヤはその場から立ち去ろうとした。
「え、ちょ、ちょっと、待ちなさいよ! せっかく見つけたのに逃がさないわよ!」
氷点はそういうと、右手を左肩まで振り、手のひらに意識を集中させて氷の塊を作り始める。
『いやぁ、なんつーか、二対一って、ちょっと卑怯くさくね? それに俺も倍疲れるからめんどくせぇんだよ』
「言い訳無用! あんたらをぶちのめして、奪われたキーホルダーを盗り返すんだから!」『盗り返すって、盗む気満々かよ。めんどくせぇなぁ。まったく、同業者にはあんまり見せたくなかったんだが、めんどくせぇから使うか』
スキヤは足を止め、氷点たちの方に振り向く。すると、おもむろに地面に両手をついた。
「……? な、何をする気かしら?」
スキヤの不審な動きに警戒しながらも、氷点は氷塊を作ることはやめない。
「まあいいわ。これでも食らって倒れなさい!」
氷点がその氷塊を投げつけようとした時、スキヤの両手が淡く光りだした。
『……地面への束縛』
「う、うわ、なんだ!?」
ケンが呟いた瞬間、悠と氷点の体が重くなる。
「う、うごけな……い?」
同時に、氷点の右手に出来ていた氷の塊も消えてしまった。
『ああ、ただの足止めだよ。使うと攻撃できなくなっちゃうし、数分程度しか効果が無いのがめんどくせぇところだけど、逃げるのには便利なんだよな』
悠と氷点が動けないのを確認すると、スキヤは両手を地面から離して立ち上がり、悠たちに背中を向けた。
「ま、まて、に、逃げるのか?」
なんとか動こうとする悠だが、まったく重力に逆らえない。
『まあ、次に会うこともあるだろうし、めんどくせぇけどそのときに戦おうぜ。こっちも氷属性対策は考えたいしね』
スキヤはゆっくりと、悠たちと反対方向に歩き始める。
『あ、そうそう、キーマスターなら一つお前たちに教えておいてやるよ』
ケンの言葉を聞き、スキヤは足を止める。
『有限会社山串製作所。聞いたことあるよな。キーホルダーを作っているメーカーだ。そこに行けば、キーマスターについて、何か分かるかもな』
ケンが言い終わると、スキヤはゆっくりと歩き始め、やがて姿が見えなくなった。




